柔らかな歌声が風に乗る。少し高めのその声は、やがて鳥のさえずりに紛れて消える。
「昨日の雨が嘘みたい」
背の中ほどまでの銀髪をなびかせながら、リーゼロッテは雲一つない青空を見上げる。
腕に下げたかごの中にはふわふわとした綿毛がたくさん入っている。こぶし大のたんぽぽのようなその綿毛をさらに一輪分採取して、リーゼロッテはゆっくり立ち上がる。
常緑樹の多い森の中、ひらけたその場所にはきらきらとした太陽光が降り注いでいる。再度頭上を仰いだリーゼロッテは眩しげに目を細め、それから片手をくるりとひるがえす。そこにぽんと現れたのは、濃紺のリボンの結び付けられた一本の箒。リボンの結び目には、小さなぬいぐるみも添えられている。うさぎをデフォルメした桃色のそれは、自分で用意した服を着せ替えることもできる、リーゼロッテお気に入りのものだった。
小さく揺れるそれに目を細め、リーゼロッテは掴んだ柄の端にかごを通す。そこに慣れた所作でまたがると、次には血の巡りを意識して魔法を発動させた。
身を包む浮遊感が心地いい。まもなくふわりと波打つ濃紺の法衣。背中へと落とされたフードは先が二股に分かれており、ともすればうさぎのようにも見えるデザインだった。そこに柔らかな銀髪が流れる。その全てをはためかせ、リーゼロッテは軽やかに地を蹴った。