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20-2★

 「おい......お前何や?人んちに何勝ってに上がりこんでんねん」


 俺を視認した直後の谷里は啞然としていたが、すぐに我に返ってその強面を活かして顔を凄ませてきた。昔も今も変わらずちっとも動揺することなく、今に至ってはむしろ鼻で笑うくらいだ。無言のまま魔術を展開して谷里をその場で金縛りにして、頭を掴んで、記憶を(あるいは俺が体験した記憶を)呼び覚まさせた。


 「お前.........あの、杉山か...?」

 「ハッ、イキりクソゴリラでも一応俺のことは思い出せたか。安心したわー。久しぶりやなぁ谷里。本山程じゃないがまぁまぁデブになったなー。強面度もけっこう増していて、どうせならお前が闇金組長にでもなってたらよかったんじゃねーのか?w」


 突然のかつての同級生の訪問・謎のフラッシュバックで驚愕した谷里は、俺の軽いディスりに反応できないでいた。


 「おいアンタ!いきなり家に上がり込んできて何のつもりや!?泥棒しに来たんか?通報される前に出て行けや!」


 奴の息子が谷里の横にやってきてスマホを片手に俺を追い出そうとする。名前は......大志、か。


 「はいはい通報はご自由に...出来ればだけど」

 「っ!?ぐぉ...!」


 息子も同じように拘束する。その拍子に息子はスマホを落とした。


 「大志...!?優人も、どうしたの!?」


 瑞希が二人の異変に動揺して近づこうとする......が、俺がひと睨みすると怯んで立ち尽くす。娘は奥で呆然としている。この事態に対する理解が追いついてないようだ。


 「谷里ぉ......俺を散々虐げて、俺の将来を潰した原因を作ったお前が......何人もの頑張りを邪魔してきたお前が、そうやって結婚して子どもをつくって、幸せな家庭を築いてるなんてなァ?

 いや~~~~~あぁ~~~~~~~~世の中ってどぉしてこうも理不尽で差別的なんだろーなぁ?お前の酷く理不尽な虐めを受け続けた俺は最後まで不幸でいて、一方の加害者であるお前は幸せになれているなんて......おかしくねーか?」


 「お、お前...!」

 「......虐め?あなたは何を言ってるの...!?」


 谷里は自覚があるらしく、言い返せないままでいるに対し、妻の瑞希は俺の言葉に疑問を呈した。子ども二人も同様の反応だ。


 「へぇそうか。子どもはおろか、妻にも自分の本性話してなかったんだ。このクソ野郎が過去に何をやってきたのかを...。じゃあここでいっちょう暴露といこうかぁ」


 そう言って三人の脳に直接谷里の過去に犯してきた罪の全貌を伝えてやった。中学校での虐めはもちろん、その後のことも全て教えてやった。検索魔術は対象の過去も全て見通している。俺が何も知らないことは無い...!


 「これって......うそ...優人、この人を虐めていて」

 「お父さん...人を殴ってる......それも友達と一緒になって」

 「高校の時も......親父、そうだったのか」

 「...!!あ、ぁ...」


 こいつらが今見ている景色は、かつての谷里による虐め現場だ。中学校では俺に対する虐めを、高校では別の誰かに対する虐めをリアルに再現している。瑞希は驚愕し、娘は信じられないといった様子で、息子は意外そうな反応をしていた。

 そして谷里はそんな反応を見て愕然とする。


 「お父さん...」

 「ち、違うんだ明里...!これは、これは......」

 「何が違うんだ?おい、早く言えよクソ野郎おい、ええ?」

 「ぐ...黙ってろやお前は――」

 「は?俺にそんな口聞ける立場か今?なァ?言葉選びは慎重にいけよなァ」


 ドゴッ!「ごぅ...!」


 膝蹴りが顔面に入り後転させる。床には奴の血がついていた。


 「お、お父さん...!」


 娘が谷里に駆け寄ろうとするも、俺が怖いのか近付けないでいる。


 「明里って言ったっけ?何も違わねーよ。こいつはな...かつて虐めっていう、それはそれは卑劣で最低で、人の尊厳を汚す行為をしてきたんだ。俺はそいつの被害者ってわけ。中学の時、こいつから理不尽に絡まれて暴力振るわれて、それに対して反抗したら逆上して虐めをエスカレートさせて、友達や先輩を連れて俺にたくさん暴力を振るってたんだ」


 「......」


 「しかも高校生になってもまた別の生徒を同じように虐めていた。やっぱりな、お前みたいなクソ野郎は、そうやって気に入らない奴を甚振って虐げるのが大好きな最低人間だもんなァ」

 「ぐ...!ち、中学の時はともかく、何で高校の時のことまでお前は知ってんだ!?あれから一切会わなかったはずだ...!」

 「ああそうだな?んー説明するの面倒だから、あれから俺に何が起きたのか、色々端折って説明してやるよ」


 谷里の脳に俺の記憶を見せてやる。転生したことで今の異常現象を起こせるようになったことなどを。


 「お前......死んでたのか!?20年以上も前に......転生して、そこで魔術とかわけの分からん力を得て、そして日本に帰ってきて......あ、あいつら皆殺しやがったのか!?」

 「そうそう。学生時代の復讐対象は残すとこお前一人なんだわ。お前は特に残酷に殺してやろうと思って、最後に回した」

 「ち、ちょっと!殺すって、え...冗談、でしょ?」


 瑞希がここで口を挟んでくる。俺の不穏な言動が聞き捨てならなかったらしい。


 「...残念ながら、冗談ではありませーん。今日コイツはー、俺に復讐されてー、地獄に落ちてしまいまーす☆」


 ズダンッ「ぐはっ!」


 谷里を床に強く叩きつけて、そのまま重力で拘束させる。辛うじて首と口と舌だけは動かせるようにしておく。そして今度は残りの三人を谷里の目の前に浮かび上げさせて拘束する。


 「「きゃあっ!」」

 「ぐおっ!?」


 空中でバタバタ藻掻く三人を尻目に、息子の方に近づいて正面に立つ。


 ドスッ「ごあぇ...!」

 「た、大志...!


 予備動作無しのパンチを腹にくらわせて、息子の大志は空中でえずく。


 「...今まさに俺がコイツにやっていることを、そいつはかつてやっていたんだ。数人で押さえつけて、動けないでいる俺に何度も拳や蹴りを入れてきて、泥水や生ゴミとかをかけてきた。いつもいつも、友達と笑いながら俺を甚振って傷つけてきた。それがそいつにとって楽しい楽しい学校生活の一部だったとさ」

 「う......ごほっ、ごほっ!」

 「いや......谷里本人だけじゃなかったな?君もかつて同じようなことやっていたんだっけなぁ、大志君?」

 「な...!?」


 俺の一言に、息子大志は痛みが忘れたかのように驚愕した顔をする。その様子を俺はニヤニヤしながら見る。


 「大志...?今のは、どういうこと?」

 「ち、違うっ!母さん、明里、親父もっ!俺は虐めなんかしてねー!アンタっ、何デタラメを吹かしてんだ!?ふざけるな!!」

 「ハァ、白を切るのは勝手だけどなァ、事実だろ?ほらよっ」


 再度検索魔術で見た内容を全員に見せてやる。そこには高校時代での、大志らによる集団リンチの内容などが送られた。


 「なっ!?あ、あ...」

 「お兄ちゃんも...!?」

 「こ、こんなことが...!」


 全員息子(兄)の凶行に呆然としてしまった。本人も絶句してしまっている。あまりにもおかしくて爆笑してしまった。


 「うぁ~~ははははははは!!親がクズならば子もクズに育つってなァ!親子揃って虐めの加害者とは何とも救えない話だなぁ!?瑞希さんとやら、お前が数十年慕ってきた男はそういうクソ野郎なんだよ。昔も今も変わらない。おい谷里、俺は知ってるぞ?今勤めているところでも、部下にパワハラしてるそうだなぁ?」

 「な......お前、どこまで...!」

 「だから全て知ってるんだって。全く...本質はずっと同じだな?お前はずうっっとそうやって人を虐げ続けてきたんだな?そんな奴が、こうして幸せに家庭つくって幸せに暮らしているんだ、これが笑わずにはいられるかよ?」


 「う......ぐぅ!」

 「そんな、そんなことって...!」

 「う、あぅ......」


 谷里は顔面蒼白、瑞希は愕然とし、明里はまともに声が出せないでいる。


 「なんなんだよ......あんたは俺の過去を暴いたところで、どうしようってんだよ!?」

 「別に何も?いや...何もはないか。むしろ感謝したいと思ってるよ。お前も、君もあんたにもなぁ」


 俺の言葉に誰もが理解できないでいる。構わず俺は続きを話す。


 「俺は思うんだ。人にとって最悪なことっていったいなんだろうかって。俺としては、自身の命が失われることだって考えてるんだが......他はそうじゃないこともあるよな?財産が失う。家が無くなる。誰かに嫌われる。そして......最愛の人・家族の命が奪われる、とか?」


 ニタァと笑いながら最後の一言を吐いた俺を、谷里と瑞希がこれ以上ないくらいに動揺した。


 「まっ、まさか...!?」

 「お前は俺のあるはずだった未来と将来を奪った。そのせいで俺はロクな人生を送ることができなくなって、その命までをも失くしてしまった。お前は俺の命も間接的に奪っていったんだ。俺にとっていちばん大切だったものを、面白がって奪いやがったんだよ。そんなことをしておきながら自分だけ何の罰も無く、家族とのうのうと幸せに生きているってのは、理不尽で不平等過ぎるとは思えないかな~~?ねぇ大志君?」


 「はっ?あぁ...?」


 谷里と同じように顔面蒼白で震えている大志の眼前に、黒い刀を出現させる。これから俺が何をするのかを察した谷里と瑞希は揃って悲鳴を上げる。



 「「やめ―――」」


 「――やめません☆」


 グサ...


 躊躇い無く、突き刺した――。


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