今日食べる分だけで10万円分もの買い物をした。高級な肉と刺身、ワインにケーキ等…食い物も酒もどっさり買ってやった。前世では一日の食費たったの500円しか使えなくて、貧相な食事ばかりだった。異世界だって、国にこき使われていた間は前世と変わらない食生活ばかりだったからな。
だから今日からは毎日、贅を尽くした食生活にしてやるぜ!
そう考えながらご機嫌な気分で帰路に着いて、いたのだが……。
歩道を歩いていると――
「――あ?あいつ......」
俺と同じ側の歩道、対面方向から中年の男が、歩きタバコをしながらこちらへ向かってきてやがる...!
「あ~~~。嫌なこと思い出させられたわ、マジで。殺意湧いてきた」
この日本で暮らしている人間の中から復讐して殺してやろうと思っている人間リスト(後で作ろう)の中には、ヘビースモーカーの奴もいる。
そいつらは皆、俺に嫌味と同時にタバコの煙も吹きかけてくる糞ヤニカスだった。俺に対して受動喫煙の考慮など微塵もしやがらないし、そもそも日本の喫煙モラルが終わってるってのもあるけど。どこへ行っても「それ分煙出来てねーだろ」ってレベルの分煙制度しか敷かれてなかったよな。
とにかく、何度も間近で副流煙を吸わされ目に入ったせいで、俺の体は悪くなってしまった。体を壊したのはそれだけが原因ではないと思うが、あの度重なる受動喫煙は確実に俺の健康を損ねさせた...!
事実、副流煙には喫煙者が吸う煙以上の有害物質が含まれている。そんな煙を何度も間近でくらえば、癌や白内障、運動機能障害などが発症するというものだ。
体を壊された遠因として、俺はタバコと、喫煙マナーを守らないヤニカスを憎悪するようになった。歩きタバコや喫煙所外で喫煙しやがるヤニカスなど、全員死ねば良いと思い続けたまではある。
だから......今もああやって向かいから何食わぬ面をして歩きタバコ吹かしてやがるクソ野郎には、心底ムカついている。
「――よし。最初に殺すのは、あいつにしよう」
人目など気にせず、即行動(=殺害)に移るくらい、ムカつくんだよ!!
俺の殺気に気付くことすら出来ていない呑気な、喫煙モラルなど微塵も持ち合わせていないあの中年男が近づく。
そして――
「――喫煙は、喫煙所でしろよ クソが 死ね」
―――グチャア......!!「.........へ?ぇぇぇえええええええええ”え”え”え”!!?」
すれ違う刹那、紙巻きタバコを持つ中年の手もろとも、肩から腰にかけて風の塊をぶつけて、それらの部分を抉った!
直後、肩からは筋が剥き出しになり、腹部分から腸が飛び出して、骨が見えるという中々グロい画になった。異世界での経験がなければ俺にも精神的ダメージが入ってたことだろう。
「ごぷ...!な、にが......!?」
「何がじゃねーよここでタバコ吸うなっつーんだよそれくらいガキでも分かるだろ?つーかお前ら大人がそんなだから路上喫煙とか平気で横行する馬鹿どもが増えるんだろがふざけんじゃねーぞ詫びとしてここで無様に死ね、クズが」
ドゴッと良い音を立てて、中年男の側頭部を蹴り飛ばした。その際に首が取れて頭部が道路に吹っ飛んでいった。直後、クラクション音と悲鳴がけたたましく響いた。
「うるっさいな...異世界ではあんな絵面は日常的だってのに。まぁ平和ボケしてるこのご時世じゃあ仕方ないわな。というより目立つのはマズい...からっとー」
“今の惨状を誰も気にならない。今死んだ男のことなど どうでもよくなる 全て
忘れる”
(パンッ!!)
――――――――
魔術を発動して両手を叩いた直後、俺の周囲の世界は、俺の都合良いように塗り変えられた。
さっきまで道路に転がった頭部を見て騒いでいた連中は、突然それが見えていないかのように、何も無かったかのように数秒前と同じ「日常」に戻っていった。
「初めてやってみたけど、凄い効果だな。本当に全員、今起きたことがなかったかこととして振舞って......いや、忘れてしまっているから、本当に認知もしていないんだ。俺だけが、今の殺害を認知している。殺したという行為を実感できている...」
ここに帰ってきてから......もっと言えば前世含めてこの世界で初めての殺人だった。だけど殺す直前、何の躊躇いもなかった。抵抗など一切発生しなかった。人の命を作業ゲーのようにサラッと潰した俺は......
「うん、良いゴミ掃除をした気分だ!清々しい、良いことをした!」
良い笑顔で、さっきのヤニカスを殺したことの余韻に浸っていた。その後、俺と俺の行動を認知しないように、また魔術(認識阻害)をかけてから頭部の無いゴミを燃やして消した。キモい死骸なんて見てて気が滅入るだけだ。
はい、焼却完了。じゃあこの高揚感が消えないうちにさっさと帰って美味いディナーといこうか!