異世界を滅ぼしてから約7年後、ついに俺の夢が実現する時がきた。
次元を超えて別の世界に干渉する究極魔術を、ついに完成したのだ。今、俺の目の前には、中で巨大な渦が巻いているワープホールがある。そこへ飛び込めば、俺はあのクソッタレな元の世界へ帰ることが出来る。
ワープのテストは既に成功済だ。昨日試しに錬金術で造ったドローンカメラをワープホールに投げ込んで、ワープ先の光景をカメラ越しで確認したところ、間違いなく俺が知っている日本が映っていた。
時間の流れはどうやらこの異世界とシンクロしていたようで、俺が転生してから約20年......向こうも同じ年月が経っていた。
少なくとも、俺が死んでから20年は経過していると分かった。まぁ仕方ない、随分長く過ごしてしまったからな。あいつらが事故か何かで死んでいない限りは、20年後の姿をしたあいつらが、元の世界にいるというわけだ。
「ワープ出来るようにはなれた...。あとは、向こうで復讐する為の必要な魔術とスキルを習得するだけだ...!」
この7年間は主にワープ魔術の研究・開発に時間を費やしていたから、新しい魔術とスキルの習得が間に合っていない。だから今から残りの未習得のやつ全てを手に入れる...!
そして1週間後、必要魔術とスキルを全て会得した。
まずは錬金術。これは魔王軍と戦っている途中で会得した。この世界では主に武器の錬成に使っていたが、元の世界では主に金だ。あの世界は金が全てだ。一度死んだ俺だから言えることだ。
金が無ければ、夢も家も水も食べ物も薬も快楽も健康も、人としての尊厳も何も手に入らない。あの世界はそういうところなのだ。金が無い奴は負け組に成り下がる......どんな奴でもな。
で...あとは復讐で使える凶器をつくることくらいか。ワープした後でじゃんじゃんつくろう。
次は精神魔術。あの世界......特に日本の治安はそれなりに良くされている。そんなところで異世界と同じ凶行をしてしまえば、あっという間に注目される。復讐はゆっくりじっくりしたいと思ってるから邪魔が入るのは遠慮したいところだ。だから周囲の人間たちの脳を操って、俺のどんな行いも気にならなくなるとか暗示をかけて邪魔をさせないようにするのだ。あとは、記憶を操作...出来事を忘れさせるとか、だな。
“バレなければ犯罪じゃない” 誰にも気づかれず憶えられることなく忘れさせてしまえば、気兼ねなく復讐できるはずだ。というわけで精神魔術も必須魔術。
スキルは、消音・気配察知(遮断)などなど...治安国の日本で必要になるであろうスキルを、魔物とかを倒して会得した。スキル取得がいちばん苦労した気がする。
他にも、瞬間移動・検索魔術・治療魔術・空間魔術・擬態......本や修行、討伐で全て会得した。
鏡で自分の姿を見てみる。偶然にも、元の世界で最後に見た時の自分と同じ見た目をしていた。24歳だったあの時の俺と...同じだ。
違いがあるとすれば、高級そうなローブを纏っていること、そのローブの下には鍛え抜かれた肉体が備わっていること。何よりも違いが見られたのは、顔つきだった。造形は前世と変わっていないが、コンプレックスだったあの幸薄さが取れていて、ギラギラとした双眸、生き生きとした艶肌が、そこにあった。野望に燃えた男の顔が、鏡に映っていた。うん......悪くない。
今の自分の方が、好きになれる!
確認も終えた俺は、持てるだけの金を懐にしまって、再びあの魔術を発動する。
「しかしあれだな......行動を起こすまでの計画立てとか準備活動とかのあの時間って、凄く楽しかったな!あの時間は俺にとて貴重なものだった」
旅行をする時、本番よりも行き先を決めたり宿を探したりして準備する時の方が楽しいって思ったりするタイプのそれだな。今までの時間もまさにそれと同じだった。
でも、やっぱり本番がいちばん楽しいに違いない、これから始める復讐の時が、最高な気分にさせてくれるに違いない!!
「よし......これをくぐれば、俺は帰れるんだ。あのクソッタレな現実に...!
みんな全員 悲惨な目に遭わせて 殺せるんだ...!」
ニタァ...と俺は満面の笑みを浮かべながら、ゆっくりと――
「バイバイ、クソ異世界。ここで学んだこと、得た物はたくさんあった。ありがとう......もう用済みだから――」
渦の中に飛び込んで、
ワープホールが消えると同時に、懐にあるボタンを押して――
「――もう、完全に滅んで良いよ。さようなら」
世界の至る所に仕掛けておいた大規模崩壊魔術を起動させた。
こうして俺は、異世界という存在を完全に消滅させた――――。
(帰ろう。そして始めよう!二度目の人生は、復讐と殺戮と娯楽の日々を送ろう!
何もかも、蹂躙して奪って踏みにじって、壊して潰して殺す...!)
――待ってろ クソ現実!!!
長いプロローグは終わり、ここからがいよいよ本章となる。
杉山友聖の 血と暴力と死に塗れた復讐の人生はこれからが本番だ――。
時は遡って......7年前。全てに失望して見限って、そして復讐に走った少年が世界を滅ぼしたあの始まりの日。
彼女は、自身の血だまりの中で必死に声を振り絞って、遠ざかっていく少年の背を追うように見つめていた...。
「ち...がうの...。そんなつもりじゃ......なかったの...。友聖.........ごめん、なさい......」
やっとの思いで吐き出したその言葉は、少年の耳に届くことはなかった...。