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後書き

 こんにちは。ゆこさんです。血まみれシュレッダー 〜戸塚結実の追憶〜 を、ここまで読んでいただきありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


 自分らしさを貫いて生きていたいというのをテーマに書きました。色々な経験を経て、段々と人間らしさを取り戻し、更に自分を見つめて、自分らしさや自分の感情を正しく受け止めて、自分らしくあろうとするユミを描けているといいなと思います。


 この物語を書こうと思ったきっかけは、自分に推しが欲しかったからです。どうにも推したいキャラが最近見つからず、心が死んでいく日々を生きていました。そこで推しがいないならば作ればいいと。自分で推しキャラを作るために小説を書き始めました。この沼は私にとって非常に深く、充実した日々を送ることが出来ました。というのも、無限に二次創作を脳内生成できるからです。アナザーを考えるだけでも白米が食える。自給自足の生活を手に入れ毎日を楽しく過ごせました。無事完結まで出来たことが本当に嬉しいです。勢いのまま書きなぐり、約4ヶ月間で書き終えました。この物語を読んでくれる人がいるというのも、とても支えになりました。途中、特に6章は書くのが辛くなる事もあり苦しんだ部分もあったのですが、やはり完結させて良かったと思います。頭痛薬を飲みながら書き続けたのは良い思い出です。


 この物語は、お察しの通り続きます。また書きたくなったら、書き進めていこうと考えてます。その時はまた、お付き合い頂けますと嬉しいです。


 本当に、ここまでお読み頂きありがとうございました。それではまたどこかで……。


 *2023.9.20

































◆おまけ

屑飲

2021.12.24

22:36


「俺は送り狼に3万」


 アイルはそう言ってテーブルの上に3万円を出した。


「……。下衆ですネ」

「えー。いいじゃん。酔っ払いなんてそんなもんでしょ。ザンゾーさん帰ってくる気しないなぁー。だってクリスマスでしょー? 2人は賭けないの?」


 テーブルにはアイルとシュンレイとフクジュがいる。ザンゾーは先程ユミを家へと送って行ってしまった。話の流れからは、ザンゾーは直ぐに戻ってきて飲み直すはずだ。


「せいぜいキスするくらいでしょウ。あの男は手を出しませんかラ。出す人間ならとっくに出してまス。キスに3万」


 シュンレイもテーブルに3万を置いた。アイルとシュンレイの視線がフクジュに集まる。


「え。私もやれと……? 酔っ払った時ぐらいというのは分からなくもないですが、こういうのはよくありません……」

「酒が足りないようですネ」

「……」


 フクジュのグラスに並々と日本酒が注がれた。フクジュはそれを見て頭を抱えてしまった。


「最低ですね。ハグに3万で」


 テーブルの上には計9万円が置かれた。


「全員の予測が外れた場合は、この9万はザンゾーにあげましょウ。それでいいですカ?」

「OK!」

「異論はありません。ザンゾーさん。申し訳ありません……」


 フクジュは頭を抱えたまま日本酒を飲む。良心が痛むようだ。それに引き換えアイルは楽しそうである。シュンレイは相変わらず無表情であるため、どんな感情を抱いているのかは誰にも分からない。


「ねぇ、シュンレイさん。ザンゾーさんてどんな人? イマイチ分からないんだよねぇ」

「随分ざっくりした質問ですネ」

「六色家の黒の当主で、次期当主の有力候補ってくらいしか知らないなぁ。黒って言ったら結構えぐい人間かと思ったけどそんな感じしないし。黒ってあれでしょ? 人間を精神的にぶっ壊す人達ってイメージなんだよね」

「えぇ。そのイメージは間違ってませン」

「んー。そうは見えないから疑問なんだよねぇ……」


 アイルは首を傾げている。


「ユミさんが近くにいらっしゃらない状態のザンゾーさんとお話すれば、分かると思いますよ」

「え……。そういう感じ?」


 フクジュは遠い目をしている。そんなフクジュを見たアイルは、笑顔を引き攣らせる。


「フクジュさんは何かあったの?」

「えぇ。まぁ。そうですね。ボコボコにされました。ほんの数日で5キロ痩せてやつれましたね……」

「わぁお。おっそろしー。具体的に何されたの?」

「それ……。聞きます……?」


 フクジュは苦笑いしている。過去を思い出してしんどくなったのだろう。


「なんて言うんでしょうか。自分のダメさ加減をひたすら罵られて自己嫌悪をさせられ続けるというのか……。気がついたら自分で自分のメンタルを攻撃していたと言いますか……。何が起きていたのか正直分かりませんでした……」

「……」


 アイルは深刻そうなフクジュの様子を見て言葉を無くした。フクジュもSSランクレベルの人間だ。そのレベルの人間が何をされたのかも分からないというのは、得体の知れない恐怖がある。


「噂をすれば、ザンゾーが帰ってきましタ。アイルは負けでス」

「マジかー」


 アイルは悔しそうにテーブルに突っ伏した。barへの階段を降りてくるザンゾーの気配があり、送り狼の線が消えたため、アイルの負けが確定した。


 しばらく待つとガチャっと音がしてbarの扉が開いた。ザンゾーがゆっくりと歩いて帰ってきた。


「なんだぁ? その金は?」


 ザンゾーはテーブルに置かれた9万円を見て首を傾げる。


「それにアイルはなんでテーブルに突っ伏してんだ」

「賭けに負けたからでス」

「賭け? 何の」

「アナタが帰ってくるかどうかでス」

「……」


 ザンゾーの顔が引き攣っている。


「私はキスくらいしてくるでしょウと3万賭けましタ」

「おぅ。いい度胸だなぁ? で? アイルは?」

「送り狼と言っていましタ」

「そうか……。で、フクジュは?」

「ハグで3万賭けさせて頂きました」


 フクジュはザンゾーとは目を合わせない。俯いたままそう答えた。


「フクジュ。喜べ。お前の勝ちだぁよ!」

「え!?」


 はっと顔を上げたフクジュの顔面にぐしゃぐしゃの9万円が投げつけられた。


「ったく。屑すぎだろぉ。覚悟出来てんだろぉなぁ? 人をおもちゃにしやがって」

「えぇ。言い出したのはアイルでス。当然覚悟の上でしょウ」

「え? ちょっと……? 皆も同罪じゃない?」


 アイルは慌てる。先程ザンゾーの恐ろしいエピソードを聞いたばかりだ。矛先が自分だけに向くと非常に困るようだ。


「はぁー。ったくよぉ。俺ぁ今凄く気分がいい。だから、お前らの浮いた話を聞かせろ。それで勘弁してやらぁ」


 ザンゾーはそう言って元いた椅子に座った。シュンレイが無言でザンゾーのグラスに日本酒を注ぐ。アイルはほっとして息を吐いた。


「浮いた話なんて俺なんもないよ?」

「嘘つけや。執着した天才少女とか、日々ナンパしまくってる成果でもなんでもあるだろぉ」

「……」

「俺がナンパの件を知らねぇとでも思ったかぁ?」

「……」


 アイルは何も言えずに硬直する。


「お前から話さねぇならそうだな。天才少女に執着した時の事でも教えろや」

「うっ……。マジ?」

「別に嫌なら構わねぇぞ? さっき喧嘩売られたようなもんだからなぁ? かははっ! 死にたくねぇならさっさとゲロっちまえよ」

「はぁ……。わかったよ」


 アイルは観念した。そして記憶を辿るように目を瞑った。


「確か3、4年前くらいかな。1人で暗殺の仕事をしていた時に、対象の人間がいる建物で初めてシラウメに会った。その時シラウメは誘拐されていたみたいで拘束されて監禁されてたんだ。助けてくれと言うからとりあえず拘束を取ったんだけど……」


 アイルはそこで一旦話を止めて深くため息をついた。そして、自嘲気味に笑う。


「拘束を解いた瞬間にさ、シラウメの態度が一気に変わって……。そこからはもうめちゃくちゃだよ。シラウメは、俺の事も知っていたし、その暗殺の対象の人物の事もよく知っていた。というより、俺がそこに現れることすら知っていた。完全に嵌められたよ。仕事自体はシラウメのおかげで上手くいって問題なかったんだけれど、俺は全部シラウメの言いなり。お手上げだったね。まぁ、その時のシラウメは凄く堂々としていて強い目を持ってた。俺に怯えるなんてことも無くね。そんな所に惹かれたのかもしれないなと思う。これでいいかい?」

「あぁ。いいだろう。興味深いな。ちなみにその時天才少女はいくつだ?」

「8歳か9歳くらいじゃない?」

「やばいな……。色々」


 ザンゾーは苦笑した。


「おら、次フクジュ。お前だぁよ」

「私も特には……」

「あぁ? 何言ってんだぁ? 姉貴とはどうなってんだぁ? さっさと白状しろや」

「……」

「それは興味深いですネ。フクジュさん。飲みなさイ」


 シュンレイはフクジュのグラスに再び並々と日本酒を注いだ。


「いえ、ザクロさんとは、背中の傷の件で途中経過観察という目的でお会いしましたが、そういった間柄では……」

「良い所で晩飯食ってるみたいだが? しかも定期的に会ってるなぁ? もう傷は殆ど治ってたにも関わらず」

「うぐっ……」

「かははっ! 観念しろ」


 フクジュは大きくため息をついた。ザンゾーに殆ど把握されている事が分かり、完全に諦めたのだろう。


「週に1度程度で、一緒にご飯を食べに行っております」

「付き合ってんのかぁ?」

「いえ。付き合ってはおりません」

「好きなんだろ?」

「……。はい……」


 ザンゾーは満足そうだ。


「さて。最後だなぁ? 番長」

「私はパスデ」

「あぁ?」

「別に私は殺し合いでも構いませン」

「クソっ。少しぐらい教えろや」

「……。そうですネ。悪ノリした私も悪かったですかラ。少しならお答えしましょウ」


 シュンレイは日本を飲む。気がつけば一升瓶はもうすぐ空いてしまう。酒飲み4人ではあっという間だった。


「そうだな……。やっぱりあれだな。舞姫のどんな所に執着したのか。それが知りてぇな」

「成程。いいでしょウ」


 シュンレイはグラスに目を落とし、思考する。


「7年、8年前でス。アヤメさんがまだ野良プレイヤーをしている時に、アヤメさんの仕事の現場で初めて会いました。というより、噂が気になって私が会いに行きましタ。それで実際の殺戮の様子を見て惹かれタ……。そんなところでス。舞い踊るように命を刈り取る姿に心を奪われたという感じでしょウ。あんなに楽しそうに……優雅に仕事をする人間には初めて出会いましたかラ……」

「成程な。確かにあれは圧巻だな。そんでその後は猛アタックかぁ?」

「当然でしょウ?」

「かははっ!」


 シュンレイはニヤリと笑い、日本酒を飲み干した。


「ザンゾーの猛アタックに比べたラ、私は可愛いものでス」

「いや、そんなはずはねぇな。8年前なら舞姫は16か17だ。相当モテたはずだ。権力と財力全部ぶっぱしてでも近づく周りの男を軒並み消してんだろ。年齢差も使って、舞姫の周りの男が低スペに見えるようにさせて、ゴリ押ししたに違いねぇ」

「……」


 シュンレイは何も答えない代わりに、薄く開いた瞼から覗く金色の瞳でじっとザンゾーを見ていた。


「かははっ! いいだろぉ。これでチャラだ。お前ら2度と俺をおもちゃにすんじゃねぇぞ! 分かったかぁ?」

「はーい」

「承知致しました」


 アイルとフクジュは苦笑いしながら答えた。


「ザンゾーの機嫌が良くて良かったでス。そんなにいい事がありましたカ?」

「まぁな。疲れが全部ぶっ飛ぶ位には最高だな」

「そうですカ」


 シュンレイは皆のグラスに日本酒を注いだ。すると一升瓶が綺麗に空いてしまった。これを飲みきったら流石にお開きだろう。


「ザンゾー。ユミさんの事は頼みましタ」

「あぁ? いいのかぁ?」

「えぇ。ユミさんが1番遠慮なくぶつかっているのは、間違いなくザンゾーですかラ。あの子はいつでも自ら自分の要求を言わなイ……。もちろんこちらから聞けば答えてはくれますガ……。私やアヤメさんにですら、遠慮していまス。あの子が我儘を自然に言える相手はアナタだけです」

「確かにな。あいよ。頼まれた」


 ザンゾーはそう言って立ち上がった。ザンゾーのグラスは空いている。ほかのメンバーも飲み終わったようだ。


「皆さん、気をつけて帰りなさイ。アナタ達を狙うような人間などいる訳ありませんガ」

「あはは。確かに。シュンレイさんご馳走様〜。じゃあね」

「シュンレイさん。ご馳走様でした。本日はありがとうございました」

「番長またな。いい日本酒あったら今度パクってくるわ。ありがとな」


 こうしてクリスマスパーティ後の居残り飲み会は終了した。それは日付が変わって25日の0時過ぎの事だった。

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