「そ! だから私は笑いながら人を殺すんだよ。どんな時でも自分らしくいようって。自分らしく笑っていようって思った。以上! なぜ、笑いながら人を殺すのか? という問いに対する、ユミちゃんの昔話でしたー! パチパチパチ!」
ユミはそう言って笑う。何となく視線を向けた先、車の助手席から見える景色に変わり映えは無い。ひたすら高速道路の単調な様子が流れていく。運転席に座るのは20代半ばの黒髪の男性だ。長めの髪を後頭部の低い位置で1つに縛っている。サングラスをかけており、どこか怪しい雰囲気もある。それ以外は特段奇抜さのない男だ。
男は苦笑いを浮かべている。そして深くため息を付いた。
「安易に聞いた俺が愚かだった……。とんでもない話をしやがって……」
その回答に対してもユミはニコニコと笑顔を崩すことは無い。
「いや、何かお前を見ていると舞姫を思い出すと思って聞いてみたが。まーさか舞姫の弟子とは思わなかった。この裏社会でそんなに喜怒哀楽を表現する人間は滅多にいない。それでいて強い人間は相当限られるから、むしろ接点無しの方がありえないか……。と、は、い、え、だ。そんな波乱万丈な話は予想出来るわけがない。お陰様で重すぎて胃もたれだ!」
「あははっ! 我ながら濃い人生だなーって! サムライさんも何か面白い話ありません? 西の目的地まではまだまだかかりそうだし」
「いやー……。お前のその話の後に出せる話題なんかないって……。勘弁してくれ」
「むぅ……」
目的地は遥か西の方だ。車でひたすら移動している最中である。ユミの昔話の間で、だいぶ遠くまでは来たが、それでもまだまだたどり着く様子は無い。
隣の運転席に座るサムライという通り名の男とは、共にレンタルの仕事をこなしていた。依頼主の護衛兼戦闘を任されていたが、先程ユミ達は盛大に失敗した。そのためペナルティを受けた。どうやら相当規模が大きい仕事だったらしく、店から手配される事になってしまった。そのため、共に仕事をしていたサムライと一緒に現在は逃走中である。
「警察の子は西に行けと。そう言っていたが、一体どこまで行けばいいんだか」
「うーん。とりあえず、たこ焼き食べましょ」
「流石食いしん坊だな……。まぁ、それくらい気楽に考えた方がいいか」
ユミは出発前に警察のシラウメから手渡された名刺を見る。連絡先などが書かれている。困ったら連絡してくれとは言われたが、どう扱えばいいのかよく分からない。とりあえず連絡先をスマートフォンに登録だけしておくことにした。
「で。そのユミのストーカー彼氏はどうなった。六色家の抗争は確か少し前に終わったよな?」
「生きてますよー」
「へぇ~え。それは良かったな。今もストーカーしてたりしてな」
「あれ。よく分かりましたね」
「ん……? いや、待てって、ユミ。そういう冗談は良くないから……」
サムライは少し焦っているようだ。運転に影響は無さそうだが、顔が引き攣っている。
「ザンゾー。そろそろ出てきたら?」
ユミは後部座席に声をかける。するとザンゾーがすーっと姿を現した。
「ユミ。久しぶりだな」
「うん。久しぶり」
ユミは微笑む。姿を現したザンゾーは全く変わらない。ユミの記憶の通りのままだ。
「いつから後部座席に……?」
「出発する時かな。車に乗ったらほんの少しだけ香水の匂いがしたから、いるなーって」
「おいおいおい。心臓に悪すぎだ……。勘弁してくれ。事故ったら全員死ぬぞ」
「あははっ! 確かにそうですね!」
ザンゾーは何故一緒にいるのだろうか。目的が分からない。後部座席でくつろいでいるザンゾーの姿をじっと見つめる。
「番長から、お前らの免許証だぁよ。それから西に行ったらシエスタと、シエスタの連れを回収しろってよ。全員手配だから一緒に旅行を楽しんでこいとの事だ」
「えー。何それ。シュンレイさんは私達が仕事失敗するところまでお見通しだったって事? むぅー……」
ユミは不貞腐れながら免許証を受け取る。当然偽造だが、これがあれば色々と手続きや証明が楽になる。いいものを貰った。
「これから東は更に荒れるから、若者は西に行って遊んでろって話だぁよ。不貞腐れんなや。手のひらの上で転がされるのはいつものことだろぉ」
「それはそうなんだけどさー」
シュンレイの手のひらの上で転がされるのはいつもの事だ。だが面白くないものは面白くない。
「ほらよ。観光ガイドブックだぁよ。コレ見て機嫌直せ」
ユミはザンゾーからガイドブックを受け取った。早速開いてみると、見るからに楽しそうだ。見たいものや食べたいもので溢れている。想像するだけで心が弾む。
「サムライ。ユミの昔話で分かってるとは思うが、俺ぁ六色家のザンゾーだぁよ。これから1年間の逃亡生活だ。よろしくなぁ? ユミのお守りは大変だぁからよ。頼りにしてるわ」
ザンゾーはニヤリと笑って言う。サムライは心底嫌そうな顔をしていた。
「はいはい、よろしくな」
サムライは前方へ向けた視線を逸らすことなく素っ気なくそう答え、また深くため息をついた。それでも運転にブレは無い。色々と諦め切ったのだろうなと想像できる。
3人を乗せた車はひたすら代わり映えのない高速道路を進んでいく。西の目的地を目指して、ただひたすらに。ユミは昔話に触発されて、久しぶりにスマートフォンのカメラロールを開いた。そして過去に遡る。そこにあるアヤメの笑顔を見て、微笑んだ。
自分は今しっかりと自分らしく笑えているだろうか。憧れのカッコイイアヤメには少しでも近づけただろうか。きっとアヤメは今も自分達を見守ってくれているだろうとなと思う。恥じないような生き方を貫いていこうと、改めてユミは決心したのだった。