「ユズハさんは、なぜアナタ自身がこの5人の子供に選ばれタと考えていますカ?」
シュンレイの問いかけに、ユズハは困惑しているようだった。
なぜ選考の理由を今問われたのか理解できないといった様子だ。
だが、ユズハは分からないなりにも少し思考した後、答えを述べる。
「それは……。瞳が赤いからでしょうか?」
「それも1つの選考基準と聞いていまス」
やはり子供たちの選考理由は明確にあるようだ。赤い瞳も1つの選考基準になっているという事らしい。赤い瞳にはやはり何かあるのかもしれないと思う。シュンレイはそのあたりの情報を全て持っているのだろうか。
「何を期待されて選ばれタと思いますカ?」
「期待なんて……。分かりません……。私には他の子のような才能はありません。正直期待されるような事なんてあるとは思えません。私は、モミジやワサビやアサギのように戦闘もできませんし、チグサのように特異な幻術を使う事もできません。強いて言うのであれば、女性だからでしょうか。女性がモミジだけでは不都合があるからかと……。幼いモミジの世話のため……?」
「全く違いまス」
「え……?」
ユズハは困惑しているようだ。
「アナタが最も期待されていルのは今後の成長でス。非常に伸びしろがあるかラとの理由でス」
「伸びしろ……ですか……」
あまり納得している様子はない。むしろさらに困惑しているようだった。
「ザクロさんから聞いていまス。アナタは緑の当主の一人娘で、幼いころかラ特に厳しく育てられてきタ子だト。親の言う事には逆らわズ、従順。真面目で勤勉。幻術の基本的な物は全てマスターしていルそうですネ。非常に優秀だと聞いていまス」
「それは……。やらなければならない事とされている事を、言われた通りにただやっただけです。なので、特に凄いことでも何でもないかと……。それに応用の領域に入ってからは全くうまくいっていません。ですので、自分に伸びしろがあるなんてとてもじゃないですが思えません……」
ユズハの表情は暗い。他の子供のような特異な才能を持ち合わせない事で劣等感を抱いているのかもしれない。また、自分には誇れるものが何もないと自らの口で言っている。それは非常に辛いことなのではないかと思う。
さらに優秀と言われた幻術でさえも行き詰まっているというのだから、心穏やかではいられないだろう。
「高度な幻術は、より一層人間という生き物の本能や感情を理解すル必要があルと聞いていまス。ユズハさんはいずれ、六色家の正当な幻術を極めルことができル人間だとザクロさんは言っていましタ。六色家から出て、様々な人間を見て交流しテ、沢山感情を学んで欲しいト。ユズハさんなら幻術の本質に気が付く事ができル、幼くして基本を全て完璧にマスターしタ人間だからこそ分かルはずだト、ザクロさんはそう期待していましタ。それに、当たり前の事を当たり前にやり切ル事は簡単ではありませン。その点には自信を持つべきでス。また、それができない人間が、世の中には沢山いル事も知ルべきでしょウ」
「ザクロ姉様……」
「ザクロさんは良く人を見ていまス。人間の本質を見抜く力は異常でス。そんな彼女にアナタは
「はい。分かりました。ご指導ありがとうございます」
ユズハはそう言って深く頭を下げた。
シュンレイの話を聞いて、少しユズハの事が分かったかもしれない。
親に従順で反抗もしない、真面目で勤勉。厳しく育てられたという話だ。これを聞くとあまり良い意味には聞こえないなとユミは感じた。子供である事をずっと我慢させられてきたのではないか等考えてしまう。直ぐに大人にならなければならなかったとしたら、子供である事を許されたモミジを良く思わないのは当然だろうと思ってしまう。
ずっと我儘など言えなかったに違いない。それでもその環境に文句も言わずに真面目に努力を続けて結果を出してきた子なのだろう。そして、突然親元を離れてここへ来たのだ。慣れない環境に不安もあっただろう。また、他の子供達への劣等感もあったのだろう。少し考えただけでも随分苦しんだのだろうなと察する事ができる。
それでも今、ユズハはシュンレイに道を示され、前を向こうとしている。強いなと感じた。
その後、ユズハはその場でフクジュに傷の手当をされ、フクジュと共にbarから出ていった。
「ユミさん。お疲れ様でしタ」
「はい」
「今日はよく休みなさイ」
「はい」
色々と心の整理をしないとダメだなと自分で分かる。ユミにとっても今回のことは精神的にキツい出来事だった。今後のあり方もしっかり考えていかないといけないと感じた。自分の怒りとも向き合わなければならないし、子供達への接し方も改めて考えるべきだ。
この裏社会で年齢というステータスは、立場を決める上では一切関係ないのだと痛感した。年上や先輩相手なら敬語で、子供相手なら優しくというユミの常識は通用しない。実力のある相手が幼い子供だった場合、子供扱いをしてしまったら失礼になるのだろうと思う。
相手との力量差は、コミュニケーションをとる上で無視できないステータスだ。プレイヤー間で良好な関係を築くには、お互いに立場をわきまえる事は必須だ。そのために自分もやれる事をすべきだ。今後は自分の力量を相手に伝えるアプローチは必要だろう。
ユミは今までそんな努力はしたことがなかった。そんな事をしなくても、ユミの周りにいる人間は、ユミの所作から力量を正確に見抜くことが出来る人達ばかりだったために、問題にはならなかった。単純に環境に恵まれていただけだ。その環境に甘えるべきではない。
ユミは、自身のあり方を今一度見つめ直そうと心に決めた。