「死にたくない……。死にたくないです。ごめんなさい……。ごめんなさい……。ごめんなさい……」
ユズハは更にポロポロと涙を零し、酷く歪んだ顔で謝り続けた。
もうひたすらに謝ることしか出来ないのだろうなと察する。
この様子を見る限り、流石にユズハの精神は限界かもしれないなと感じる。
「それは何に対して謝っているの?」
ユミの問いかけにユズハはハッとして押し黙る。
ここで助け舟を出してしまうあたり、ユミは自分の甘さを痛感する。
だが、これが自分らしいなとユミは内心自嘲した。
ただの謝罪には何の意味もない。
それではその場しのぎで適当に謝っただけと何ら変わらない。
だから、何に対しての謝罪かを明確に述べる必要がある。
そしてその結果によっては、ユズハはまたユミの大切な人の範囲に戻れる可能性があるのだ。
過ちを認め改心し、今後ユミを侮ったりバカにしたり嫌悪しなければ、良好な関係を改めて築き直すことは不可能では無いだろう。
もちろん簡単なことでは無いが可能性はある。
「ユミさんの両親をよく知りもしないくせに、一般人だからと見下しました。ごめんなさい」
「他には?」
「格上であるユミさんに失礼な態度を取りました。ごめんなさい」
「うん。他は?」
「……っ」
もう終わりだろうか。まだ他にもあるのだが。本人は気がついていないのかもしれない。
「私は内心ずっとユミさんをバカにしていました。一部だけを見て勝手にユミさんがプレイヤーとしては未熟だと決めつけていました。一般人上がりだから、世間知らずの誰に対してもただ甘いだけの人間なんだと決めつけていました。ごめんなさい。私が無知でした。ユミさんは、私達を仲間として特別に思い、身内として優しく接してくれていたという事に気が付かずに、それに甘えていました。本当にごめんなさい」
「うん。他には?」
「……」
ユミは手のひらでナイフをクルクルと回しながら、ユズハの言葉を待つ。
年齢を考えれば、ここまで言えただけでも十分かもしれない。だが、あと1つ、謝罪してもらわなければならない事が残っている。
自覚が無いかもしれないため、厳しいだろうか。
しばらくユズハは目を瞑り苦しそうな表情で思考していた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「ザンゾーさんとの事……。私が何か言えるような話では決してありませんでした。ザンゾーさんがユミさんを選んだんです。それに対して私が文句を言うなど、人として間違っていました。ごめんなさい……。私が……、私が……。……。私……、ずっとザンゾーさんのことを憧れて慕っていました。それを急に出てきた人間に取られたと感じて、悔しくて……。どうしてもユミさんを許せなくなってしまい、ここに来てからずっとユミさんを否定的な目で見て、ずっと粗探しをし、嫌悪していました。ユミさんの悪い所を見つける度に、自分の方が相応しいのではないかなどと勝手に考えて……。勝手に自分の方が優れていると自惚れて……。本当にどうしようもありません。愚かでした。身の程も立場もわきまえず……。本当に申し訳ありませんでした」
「分かった。その謝罪を受け入れる」
ユミは短くそう答えた。そしてシュンレイの方へ目をやる。シュンレイは本に栞を挟み、こちらを向いた。
ここまでやればユミとしては十分なのだが、シュンレイの判断はどうだろうか。シュンレイは立ち上がりユミの隣に立った。
「ユミさん。これで十分ですカ?」
「はい」
ユミはナイフをシュンレイに返却した。それと同時に、フクジュはユズハの拘束を解いた。
「ユズハさん。聞きなさイ。2度目はありませン。謝れば許して貰えル等と勘違いはしないよう二。次は殺しまス。仮にユミさんが次も許しタとしても、私がアナタを処分しまス。分かりますネ?」
「はい」
「今後は考え方を改めなさイ。視野を広げテ自分の立ち位置を把握しなさイ。表面的な物だけでは見誤りまス。今回の話も、たとえユミさんがDランクのプレイヤーだったとしてモ同様の事が起きまス。何故だか分かりますカ?」
「……。分かりません……」
「ユミさんのバックに誰がいルか考えませんでしたカ?」
「あ……」
「ユミさんを傷つければ、必ずアヤメさんが怒りまス。問答無用で殺されたでしょウ。たまたま今日アヤメさんがいなかった為二、アナタは命拾いしただけでス。人間の格は、その人間単体を見ルだけでは不十分でス。たとえ本人が武力を持たずとモ、力を持っタ仲間に溺愛されていル場合もありまス。報復されるでしょウ。背後にある人間関係まで見なけれバ、直ぐに足元を掬われまス」
「はい……。分かりました」
ユズハはシュンレイの言葉をしっかりと受け止めているようだった。反抗的な様子もない。自分の過ちを認めて素直に受け入れたのだろうと思われる。
「また、格上か格下かで態度を変えルのも辞めなさイ。非常に危険ですかラ。今回のことで身に染みタでしょウ。他人を侮ルことは単純に死を招く行為でス。誰に対してモ、真摯に向き合いなさイ。相手は人間でス。格など関係なく、バカにされれば不愉快になルのは当然でス。内心で思っていることは透けて見えまス。ですかラ、無駄な軋轢を生まないような考え方や立ち振る舞いをしなさイ」
「はい。改めます」
ユズハは涙をぬぐいながらも、まっすぐにシュンレイを見ていた。そのキリッとした様子を見る限りは、もう大丈夫だろうと思う。言葉に嘘もなさそうだ。改心したのだなと伝わってくる。
そんな様子を見て、ユミはようやくほっとした。きっとユズハなら、この事で捻くれたりはせず、前向きに変わっていけるのだろうなと感じた。