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6章-5.不穏(4) 2022.4.18

「あともうひとつ。聞きたい事があります」

「えぇ。どうゾ」


 あともうひとつだけ、ユミには確認したいことがある。


「アヤメさんが言っていた、兄が当主になったら呪い殺されるという話です。呪い殺されるとはどういう事ですか?」


 アヤメ程のプレイヤーが殺されるなど考えられない。それほどアヤメの兄は強いというのだろうか。

 いや、アヤメの今までの話を聞く限り、アヤメの方が実力は上だったはずだ。それであればアヤメが殺される可能性があるというのが理解できない。


「狂操家のでス。裏切りが発覚した場合に確実に殺せルように、狂操家の人間は全員呪詛がかけられていまス」

「呪詛を解くことは出来ないんですね……」

「えぇ。調べましタが不可能でしタ。生まれて直ぐに掛けられル呪詛で脳に深く刻まれておリ、解呪出来ない類のものでしタ。この呪詛は発動すると自分で自分の身体の細胞を腐らせルような働きをしまス。発動の条件は不明。狂操家の当主と、他重役複数人の同意デ発動が可能という事しか分かりませン。仕組みは当主を含ム重役の人間しか知らない情報だそうでス」

「呪詛を発動させないようにする必要があるって事ですね」

「その通りでス。もし狂操家を皆殺しにするなラ、悟られルことなく一気に処理する必要があるでしょウ」


 やはり、アヤメの兄は確実に殺す必要がありそうだ。間違っても当主にしてはならないだろう。複数人の同意がなければ呪詛は発動できないという話だが、アヤメの兄が当主になってしまった時に同じ状況である保証は無い。当主の独断で実行される可能性は十分にあるだろう。


「呪詛は非常に惨いものだときいていまス。アヤメさんの母親は、アヤメさんが幼い頃に呪詛で殺されタそうで、死んでいく様子をアヤメさんはずっと見させられタと聞きましタ。見せしめの意味を込めテ」

「何それ……」

「少しずつ体が腐っていくそうでス。約10時間程度で完全に原型を留めない腐った肉と骨になるそうでス。最期まで苦しみながら死ぬト。また、呪詛の効果で自害も出来ないようでス。本当に辛そうだったト。そう言っていましタ」


 遺伝による特殊な能力を守るためとは言え、そんな縛りを設けるなど理解ができない。そうでもしなければ一族の統制が取れないというのであれば、没落してしまえばいいと思う。

 アヤメが家から出た理由も、当主になりたがらない理由も分かる気がする。また、カサネを隠す理由も良く分かった。

 アヤメを縛るものなど全て無くなればいいと思う。


「当主や重役を殺せば実質呪詛は無効になりますか?」

「えぇ。発動条件は分からないにしてモ、無効にできルと考えていまス」

「他に私が気をつけるべき事はありますか?」

「まず、如何なる時も私の指示には必ず従う事でス。そして、狂操家の他の人間の戦い方に気をつけル必要がありまス。アヤメさんとは全く異なりますかラ」


 ユミは首を傾げる。戦い方が異なるとはどういう事だろうか。


「狂操家。狂うに操ると書きまス。その名の通り、本来は自身の体や死体をワイヤーで操り攻撃するのが得意な一族でス。アヤメさんの兄であるカズラはこれを極めた人間でス。敵も仲間も死体も自分自身もワイヤーで操りまス。そしてワイヤーは殆ど見えないものですかラ。操られていルのかどうかを見分けるのも難しイ。巧妙にワイヤーを絡めてくるのデ、気がついたらワイヤーで縛られて仲間を攻撃していタなんて事も有り得まス。そういう戦い方が狂操家の主流でス。また操ルのは体の動作だけではなく表情や発言すら操ルと言われていまス」


 アヤメの戦い方とは随分異なるようだ。とても陰湿な戦い方のように聞こえる。


「アヤメさんが嫌いそうな戦い方でしょウ?」

「はい。本当にそう思います」


 そんな戦い方は、アヤメには似合わない。舞うように優雅に戦うのがアヤメだ。

 高らかに笑いながら自在にワイヤーを操って、場を支配して、最後まで美しく立っているのがアヤメなのだ。それこそがユミが憧れるカッコイイアヤメなのだから。


「私は勝てるでしょうか……?」

「カズラ含む3名がSSランク。それ以外は全員Sランク相当でス」

「全員……」

「えぇ。子供も含め全員でス。狂操家は基礎値が非常に高イ……。そういう家でス」


 勝てるかではなくて、勝たなければならない。そう思う。もっと強くならなければ。強くならなければ、アヤメのために何かしたいなど言えたものでは無い。


「分かりました。ありがとうございます。私は勝ちます。だから、絶対に私を使ってください」

「えぇ。もちろんでス」


 ユミはカサネを抱っこしたまま立ち上がる。状況は理解した。今は体を動かしたい。このぐちゃぐちゃに溢れる感情は当分収まらなさそうだ。じっとしている事は出来そうにない。


「ユミさん。予定にはありませんでしたガ、良かったラこの後私と手合わせしませんカ?」

「へ?」

「私も体を動かしたいのデ」

「はい! 是非! よろしくお願いします!」


 シュンレイはニヤリと笑っている。ユミも笑う。

 どうやらシュンレイと自分は似ているようだ。特にアヤメを思う気持ちは同じだろうなと思う。


「フクジュさんもいかがですカ?」

「そうですね。たまには私も参加させて頂きます」

「2対1で構いませン」

「ユミさん。頑張ってシュンレイさんを倒しましょうか」

「はい!」


 フクジュと協力してシュンレイに立ち向かうというのはかなり面白そうだ。

 barでの話し合いはこれにて終了だ。barの戸締りをして、皆で下階の運動場へと向かっていった。

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