「帰ったらちょうどお昼になりますかラ。アヤメさんも呼んでbarで昼食にしましょウ」
「はい!」
シュンレイはそう言ってレジ袋を左手にまとめて4つ持ち、空いた右手で電話をかけ始めた。
「片手で持てるんだ……」
ユミはその光景を見て、若干引いた。
その後は何事もなく、雑貨屋が遠目で見えるところまで無事に戻ってきた。
「あっ! おかえりーー!!」
店の近くまで帰ると、雑貨店の前でアヤメが待っていた。満面の笑みでこちらに手を振っている。
「ただいまです」
「あ! 重いでしょ! 私も持つよー!」
アヤメはそう言ってユミからレジ袋を2つ取り上げ、軽い足取りでbarへの階段を降りていく。ルンルンしているように見える。その様子から、お昼ご飯が楽しみなんだろうなと察する。
「なんか2人とも背が高くて手足も長くて、シュッとしてるから、遠目で見て親子みたいだったよー!」
「……」
恐れ多すぎて何も言えない。
「年齢差で言えばユミさんくらいの娘がいてもおかしくないですネ」
「あ。そっかぁ〜」
一体シュンレイはいくつなのだろうか。親くらいの年齢と言うと、20位は離れているのだろう。自分の両親は40手前だったなぁと思い出す。
「ユミちゃんも身長高いよね! いくつあるの〜?」
「えっと、最後に測った時で165センチくらいだったと思います」
「おぉ! 凄い! 育ち盛りだからまだまだ伸びるかもね! カッコイイ!!」
アヤメはキラキラした目で見てくる。女性だったら身長が低い方が可愛らしくていいんじゃないのかなぁなんて思うが、こんな憧れの眼差しを向けられると少し照れてしまう。
戦闘狂の目線で評価されているのかもしれない。ユミは買ってきた荷物をbarカウンター内へ持っていき、カウンター奥の冷蔵庫へせっせと詰め込む。
「アヤメさん。今日は何を食べますカ?」
「オムライス!」
「分かりましタ。今日は私か作りましょウ。ユミさんはこの後重労働が待っていますかラ。休んでくださイ」
「あ。はい……」
「オムレツ上に乗っけて、最後に切ってパカってなるやつがいい!!」
「分かりましタ。やってみましょウ。そうですネ……。作るのに時間もかかりますかラ、ユミさんは一旦買った物を家にしまってきてしまってはどうでしょウ?」
「はい。了解です。一旦家で整理してきます」
「コチラ、barの制服です。ついでに着てきてください」
ユミはシュンレイから制服一式が入った手提げ袋を受け取る。中を覗くと、白のシャツに黒のベスト、黒のプリーツスカート、黒タイツに黒のブーツ、赤のネクタイが袋に入れられていた。
barの店員というと、パンツスーツみたいなものをイメージしていたが、予想とはかなり異なっている。barにしては可愛いのでは無いだろうか。
「ユミちゃんが制服着るって言うから、私が可愛いのを選びました!」
「成程。ありがとうございます」
アヤメのチョイスだったようだ。アヤメの自信満々の宣言が可愛らしくて、ユミはクスッと笑ってしまった。
似合うものを選んでくれたんだろうなと思うと嬉しくなる。ユミは自分の家用に買った食材等を1つのレジ袋にまとめ、barを後にした。
***
自宅に戻り、ユミは買った荷物を冷蔵庫へしまう。そして、早速制服を着てみた。鏡で全身を確認する。
「スカート短い……」
思ったより、スカートの丈が短い。アヤメの趣味だろうなと想像がつく。
この姿でbarで働いて大丈夫なのか少し疑問だが、基本的に揚物をするだけならカウンター内にいることになるのであまり関係ないのかもしれない。
「ん、あれ、なんかタバコ臭い」
どこからかタバコの臭いがする。一瞬だが臭いを感じてユミは周りを見回す。
制服だろうか。制服を嗅いでみるが新品の服の匂いしかしない。シュンレイのタバコの臭いとも異なる。どこかで臭いが付いてしまったのだろうか。持ち物を嗅いでみても特定できなかった。
「変なの。まぁ、いっか」
気の所為かもしれない。臭いを感じたのは一瞬で、今はもう特に臭わない。
自分は嗅覚が鋭いらしいので、どこかで臭いを貰ってきてしまったのをちょっとだけ感じただけかもしれないなとユミは思った。
***
barに戻ると、ちょうど昼食が出来たところだった。卵とバターの匂いもケチャップライスの食欲をそそる匂いも空腹を刺激する。お腹が鳴りそうだ。
「ユミちゃんおかえり! 丁度オムライス出来たよー! わぁ! 制服可愛い! 凄くいい! 最高!」
「ありがとうございます」
テーブル席にオムライスが並べられている。ケチャップライスの上にふっくらしたオムレツが乗った状態だ。
ユミが席に着くと、シュンレイが包丁でオムレツを切り広げた。トロッとした卵がケチャップライスの上に広げられる。ふと、ユミは向かいに座るアヤメを見る。目をキラキラさせながらケチャップライスの上に広がっていくオムレツを見ていた。
「わぁぁ。すごーい!」
こんな顔をされたら、リクエストに応えたくなるなと感じる。
いつも美味しそうにご飯を食べるアヤメを見るのがユミはとても好きだ。作った甲斐が有るし、また作ってあげたいと思ってしまう。そのくらい美味しそうに食べてくれる。きっとシュンレイもそんな気持ちなんじゃないだろうかと、ユミは感じた。
「いっただっきまーす!」
アヤメの元気な挨拶が響く。ユミもいただきますと手を合わせ食べ始めた。