「はい。シラウメです。こんにちはシュンレイさん。今日はどうしましたか?」
電話口の女性、シラウメのいつも通りの爽やかな営業対応。シュンレイは雑貨屋2階の自室のデスクで電話をかけていた。
「今日は1つ情報を買いたいと思いましテ。詳細な調査結果をいただきたイ」
「あぁ、ユミさんの家の件の……。気になる事があるということですね。はい。お察しの通り調査に進展がありました」
シュンレイは静かにシラウメの言葉を待つ。どうやら頭の回転の早い彼女にしては珍しく言葉に迷っているようだった。
「死体について……ですよね……?」
「えぇ。その通りでス」
「……」
いつも怒涛の勢いで説明したり考察を繰り広げる彼女らしくない。困惑している。そう読み取れた。
「死体は全部揃っテいましたカ?」
シュンレイは畳み掛けるように問う。しかし、シラウメからの回答は無い。しばらくの沈黙の後、シラウメのすぅーっと息を吸い込む音が聞こえた。
「失礼しました。シュンレイさんの予測通り、死体には不足がありました」
シラウメという女性は、あらゆる事実を洗い出し、繋ぎ合わせて、全ての可能性を余すことなく想像した上で、最も可能性が高い想定を導くということが出来る存在。そしてその想定は限りなく真実に近いという、とんでもない人間だ。
パズルで例えると、複数のパズルの箱を一気にひっくり返してピースが混ざって散乱してしまったような状態、当然見本となる絵もない状態で、さらに無くしてしまったピースまであるような絶望的な状態から、不足しているピースを想像で埋めるなどし、考えうる完成形を全て列挙し、比較し、ある程度正しい絵を想定できてしまうというような感じだ。
今回の電話で、【シュンレイが死体が足りているのかを確認した】という新たな事実が発生したことで、多くの可能性が新たに浮上したのだろう。そしていくつかの真実に近い想定が導かれた。
彼女がすぐに答えられなかったのは、新規の可能性への思考時間と、シュンレイへの回答として最も最適な情報量の精査のためと思われる。
「足りない物をお伝えします。父親の心臓、腎臓、肝臓、母親の腎臓、肝臓、肺、脾臓です。五臓で考えれば、10個中7個足りません」
「ありがとうございます。情報料についてはいつも通り振り込んでおきます」
「はい……。分かりました……」
シラウメの声にはいつもの覇気はない。酷く考え込んでいるようだ。しばらく、考え込んだのち、彼女は静かに口を開く。
「すみません。補足させてください。ユミさんの家のゴミについてですが、殺害を開始した日以降のゴミが一切ありませんでした。また、水道関係の使用歴ですが、セーラー服を洗う、風呂に入る、チェーンソーを洗うといった事をしていたようなので、洗面化粧台とユニットバスの使用の痕跡はありました。しかし、キッチンの流し台については使用されてないと思われます。時間が経っているので確実とは言えませんが概ね間違いないかと。ですのでつまり……」
そこでシラウメは言葉を止める。それ以上は憶測で言える範疇では無いだろう。
調査の結果から導き出される答えは、到底信じる事ができない物だ。あまりにも現実離れし、酷すぎる結果なのだから。
「ありがとウございまス。言いたいことは分かりまス」
シュンレイがそう答えた後、シラウメはふぅーっと大きく深呼吸したようだった。
「すみません! 気になることが出来てしまいました。本日はこのあたりで失礼致します」
ガチャっと強めの切断音がして、一方的に電話を切られてしまった。だが、悪い気はしなかった。
彼女は何かを掴んだのだろう。興味に向かって貪欲に突き進む様には好感が持てる。
シュンレイはスマートフォンをデスクに置くと、椅子に深く座り直した。そして、いつも通りデスクワークを続けた。