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2章-7.共闘(3) 2020.12.4-2021.2.21

 公園の入り口にたどり着くと、門扉が閉まっていた。どうやら今日は一般開放されていない日のようだ。

 周辺に人の気配はない。昼間の公園とはいえ、駅から随分と離れている上、一般開放されていなければ、周辺に人が集まることはないだろう。

 誰もいない公園というのは、昼間であっても少し不気味な雰囲気である。門扉の前で2人は武器を準備する。動きにくくなるので、上着も一緒に脱いだ。


「うぅぅ。これだから冬はやだよぉ。この公園の中に池もあるから、風が吹いたら寒いかも」

「池ですか……。寒い……」


 文句を言いながらも、2人は門扉を飛び越え公園内へと足を踏み入れた。公園の細いインターロッキングの道を少し進むと、空気がピリッとしてきた。待ち伏せされているのだろう。どこからか見られているようだ。


「うーん。5人いるね。全員Aランク以上かな。こんなの聞いてないよ」

「はい……」


 アヤメが言う通り、複数のプレイヤーに周囲を囲まれている。アヤメがAランク以上と見積もるだけあって、彼等は隠密をしっかりしているようだ。存在は把握できても、彼等の詳細な位置までは分からない。


「んじゃ、ユミちゃん、一気に行くからよろしくねっ!」

「はい!」


 ユミが返事をした瞬間、アヤメは展開していたワイヤーを体全体を使って一気に動かす。すると周囲の木々が一斉に鳴り出した。バキバキと枝が折れる音や、ワイヤーが移動しヒュウッと空を切る音、木々の葉を切り裂いていく音。様々な音が広範囲で一斉に巻き起こった。


「いた……」


 ユミは一気に地を蹴った。ワイヤーを避けるために姿を見せた敵を捕らえ、一瞬で距離を詰める。そして真っ二つにするべくチェーンソーを唸らせ切り上げた。

 しかし、敵は宙に浮きながらもチェーンソーをギリギリで躱す。さすがAランクといったところか。そのためチェーンソーは空を切ってしまった。だが、ユミは焦る様子もなくニヤリと笑う。


「はい。1人目」


 アヤメの静かな声とともに、ユミの目の前にいた敵の首は次の瞬間にはワイヤーによって切断されていた。

 敵がチェーンソーから逃げた先はアヤメのテリトリーだった。チェーンソーから距離をとっても、安全地帯などどこにも存在しない。


 ユミが振り返ると残りの4人もアヤメのワイヤーによってあぶりだされていた。

 さて、どこから行こうか。ユミは残りの4人の武器や体格を見比べる。全員男だ。ナイフ等を持ったプレイヤーが3人、鉈を持ったプレイヤーが1人。

 この中に手配のプレイヤーはいないようだ。ユミは、隠密が得意そうなナイフを持ったプレイヤーの1人から行こうと決める。


 ユミは、ターゲットにしたナイフの男との距離も一気に詰めチェーンソーをそのままの勢いで振り抜く。さすがに先ほどワイヤーによって首を刎ねられる仲間を見ていたからだろう。安易に距離をとって躱そうとはしてこない。

 であれば、これはユミのテリトリーだ。ナイフで切りかかってくる腕を避け相手の腹に膝蹴りを打ち込む。シュンレイに比べてなんて遅いんだろうと見ていて驚きを隠せない。

 遊んでいるのだろうか? とも見えてしまう。

 また、どうやって次に動こうとしているのか分かってしまうため、先手を打つのは非常に簡単だった。


「ほい!」


 ユミは軽く呟き、チェーンソーをくるっと回してナイフを持つ男の腕を一瞬で切り落とした。ひるんだところを蹴り飛ばし、アヤメのワイヤーの範囲に送り込んだ。


「はい。2人目ね~」


 アヤメはユミが蹴り飛ばした男の首をサクッと落とし、見えている敵の数は、残り3人となった。

 流石に、目の前で瞬く間に2人仲間がやられたのだ。残りの3人が警戒をしているのが伝わってくる。

 不利な状況になると逃げる可能性もあるため、アヤメはワイヤーの範囲と密度を調整し逃亡を阻止するための形状へ張り替えた。


 ユミはワイヤーの張り替えが完了するのを確認すると、一気に集中力を高める。もうこの人間たちは、このエリアから逃げられない。アヤメを倒す以外で抜ける方法は無い。籠の中の鳥、いやむしろ蠱毒のほうが意味として近いかもしれない。勝者以外はここから出られないのだから。


「♪〜♪〜♪♪〜♪♪♪♪〜♪〜♪♪〜♪〜」


 ユミは鼻歌を奏でる。クリアになる脳味噌、研ぎ澄まされる神経、湧き起こる高揚感。


「あははっ!」


 思うままに切り刻め!


 ユミは本能が示すまま、近くのターゲットへ接近して行った。


「ユミちゃん始めたみたいだね〜。そしたら私も〜」


 アヤメはそう言って、ワイヤーをさらに展開する。ユミの方へは鉈を持った男が1人向かっており、アヤメの方には小刀や小さいナイフ等を持った男が2人迫っていた。

 タンッとアヤメは足音を鳴らす。ユミの鼻歌のテンポやリズムに合わせて、舞うように全身を使ってワイヤーを動かした。


「よいしょっ!」


 アヤメは回転力を使い、特定のワイヤーを引き上げると、足元も、腰の高さのエリアも、首筋のエリアも、水平に一気にワイヤーが高速で飛び交う。アヤメを中心に動く不規則なワイヤーの動きに男たちは翻弄される。避けきる事こそできる。だが、そこにはチェーンソーを持ったユミがいる。


 一方でユミはワイヤーを物ともせずに一直線に進む。進行を妨げるワイヤーをブチブチとチェーンソーで切断しながら鉈を持った男にとびかかり、男の左肩から振り下ろす。

 ブシュッと男の肩がチェーンソーによって浅く切り裂かれる。ユミがチェーンソーを振り抜いた直後、アヤメのワイヤーが男の首を狙って高速で迫る。男はそれに気が付き、鉈でワイヤーを止めた。


「3人目ですね!」


 ユミは可愛らしいソプラノの声で言った。

 その時にはすでにチェーンソーは鉈を持った男の腹に突き刺さっていた。ユミはアクセルを押し込みチェーンソーを高速回転し振り抜いた。鉈を持っていた男は、腹部を抑え鉈を手放しその場で崩れた。

 即死しなかったのか。とユミは違和感を覚えたが、まだ戦いは終わっていない。残りの男2人に注意を向ける。


 ナイフを持った男2人は連携するようにアヤメを取り囲み攻撃を繰り出していた。だが、アヤメは舞うようにひらひらと躱していた。攻撃するためのワイヤーが少ないため、決め手に欠けている状態だ。

 だが、鉈の男がいなくなったことでアヤメにも大きな余力ができたようだ。


「4人目~」


 アヤメは自身の背後にいた小さいナイフを複数持っていた男を、振り向きもせず切り刻んだ。ユミはそれを確認すると残りの1人との距離を詰める。


「ラストです!」


 チェーンソーを高速で振り抜き、小刀でチェーンソーの刃を弾こうとした男の腕ごと切断する。

 ユミはその勢いのまま連撃を繰り出す。腹。左足。回り込んで背中。浅くではあってもチェーンソーの攻撃は致命傷になる。男は一気にバランスを崩した。

 その瞬間、アヤメのワイヤーが男を捕らえ一瞬で粉々にした。ボトボトと落ちる肉塊。これで5人。5分もかからなかった。

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