「はい。シラウメです。こんばんは、シュンレイさん。報告ですか?」
「えぇ。戸塚結実(トツカユミ)は、専属のプレイヤーとしテ、私の店に所属することになりましタ」
「了解しました。報告感謝します。専属プレイヤーということであれば、そうですね。いくつか私の方から情報共有した方が良いと思う事があるのですが、今、口頭で伝達してよろしいですか?」
barのカウンターテーブルに肘を付きながら、シュンレイはスマートフォンを耳に当てている。通話の相手は今回の案件の依頼主、警察のシラウメという名の女性だった。
「口頭でかまいませン。その方が都合が良いのでしょウ?」
「ふふっ。そうなんです。助かります。では早速始めますね」
ゴホンと咳払いをしてシラウメは説明を始める。
「ユミさんが確保された直後、私たちはユミさんの家の調査を行いました。最初の犯行から8日も経っているので意味はあまり無いかと思われましたが、全くそうではありませんでした。部屋の中には本日まで、ユミさんの両親の死体がそのままの状態で残されていました。細かく粉砕され簡単には身元が分からない程でしたが、こちらは調査でユミさんの両親で間違いないと裏付けが済んでいます。ダイニングテーブルを囲むように粉砕された死体が散りばめられ、周囲は天井含め異常なほど血液で赤く染められていました」
とても悲惨な光景だったろうに、シラウメの口調は至って通常通りだった。早口で淡々と状況が説明されていく。
「特筆すべきは、夏場に細かく切断された遺体が部屋に1週間以上も放置されていたにも関わらず、異臭が全くしないという異常な状態でした。もちろん腐ることもなくです。特別な処理がわざわざされていたのでしょう。ダイニングテーブルにはチェーンソーでつけられた傷跡がありましたが、死体を切り刻んだのは傷跡の状態からチェーンソーではなく鋭い刃物と推測されます。詳細はもちろん情報が出てこないのですが、切断の状況から高ランクの殺し屋による犯行で間違いないでしょう。また、ユミさんは8日間、亡くなった両親の死体と共に生活しており、明らかに異常です」
シュンレイは静かにシラウメの説明を聞き、思考を巡らせていた。
彼女の説明した異常な状況は、一体何を意味するのか。
「私は催眠や洗脳の類には詳しくないのですが、ユミさんの家のダイニングの光景は一種の儀式のように見えました。殺人衝動を引き起こすだとか、狂わせるだとか、そんなことが可能なのではないかと考えています。彼女の過去の情報を見ても、当然何もないのですが病歴が少し怪しいとみていまして。どちらかといえば、抑え込まれていた殺人欲求が解放されしまったのではないかと。さらに、同時に彼女にショックを与えることで狂わせたのではと。これはあくまで私の推測の中で最も可能性がありそうな内容というだけで何の証拠もありません。とはいえ、以上の考察から私はこう結論を出しています」
シラウメはそこで、小さく息を吐き一呼吸置いた。
その様子から緊張感が高まる。
「ユミさんの両親は元々殺し屋等
「興味深いですネ」
シュンレイはそう言ってニヤリと笑った。
「ですので。ユミさんの事に関してはまだ裏があるかもしれないとみています。今後ユミさんを
シュンレイは尋ねられて思考する。既に彼女の計らいによって十分な情報を貰ってしまった。
「そうですネ。強いて聞くならバ……。その病歴情報はどこからですカ? 完全に消しタはずだったんですガ……」
「ふふっ。やはりというか何と言いますか。結構アナログな方法ですよとだけ。何もかも完全に消すのってさすがに無理だと思います。データ的な履歴は消せてもそれだけでは完全とはいきませんから。ですので、私なら紛れ込ませる方向にシフトします」
「成程。勉強になりまス」
「ふふっ。心にもないことを。私としても、貴方と話すのは脳が刺激されてなかなか楽しいのですが、これ以上は時間が許さないので、今日のところは失礼します。では」
プツンと通話が切れた。
「匿うカ……。言ってくれル……」
シュンレイはそう呟くと席を立ちbarを後にした。