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1章-1.依頼 2020.8.20

「こんばんは。白梅(シラウメ)です。今よろしいでしょうか?」

「えぇ。大丈夫でス」

「ふふっ。ありがとうございます。お仕事の依頼の件で電話させていただきました」


 薄暗い照明に照らされる4人掛けのテーブル席で、3人の男がテーブル中央に置かれたスマートフォンへ目と耳を傾けている。

 チャイナ服を着た糸目の黒髪の男性と、その向かいに茶髪の青年、茶髪の青年の隣にフードを被った少年がいた。


 窓の無い閉塞感のある飲食可能な店舗内。周囲にある5セットのテーブル席の他、カウンター席もある。カウンター席はL字に配置され8席程。カウンター背面の壁面には、酒瓶やグラスが綺麗に並んだ背面棚が設置されていた。所謂barだった。


 現状この空間には、彼等3人以外に人間はいない。スマートフォンから聞こえてくるシラウメと名乗る女性の声は、年齢は不明だが相当若そうな印象である。


「依頼の内容ですが、現在裏社会を騒がせているチェーンソーを持った少女の処理依頼です。今夜中にこの少女を片付けていただきたいです。片づけ方や処分などはお任せします。こちらでは関与しません。結果だけ伝達いただければ結構です」

「分かりましタ」


 スピーカーモードで聞こえるシラウメからの依頼内容に、チャイナ服を着た男性が答えた。


「おそらくですが、今そちらに実際に仕事を行う殺し屋の方も同席してらっしゃいますよね? その前提で詳細説明します。ターゲットは戸塚結実(トツカユミ)、歳は14歳。です。身長は165センチメートルでやせ型、黒髪のショートヘアー、恐らく本日も彼女はセーラー服を着用しているでしょう。数日前に彼女の両親が殺害されています。両親の殺害事件の方は簡易な調査ではありますが、裏社会の人間が関わっていると断定しています」


 淡々と早口で説明を行うシラウメの声だけが響く。男達は情報を聞き逃すまいと、静かに説明を聞いていた。


「両親が殺害された日以降、ユミさんはチェーンソーを使用して、夜な夜な殺害を繰り返しています。初日の3人は一般人。それ以降の被害者23人は裏社会側の人間となっています。私の見解としては完全にしていますので、好きに処理いただいて構いません。処理後こちらも整理すべきことがあるので、結果報告だけはいただきたいです」

「全部で26人!?」

「説明中だよ。静かに」


 フードの少年が驚きの声を上げたところで、茶髪の青年がそれを注意する。フードの少年は不服そうな表情をしながらも、大人しく口を閉じた。


「犯行の様子ですが、見かけた人間から手当たり次第に殺害しており、目撃者がいれば併せて殺害しています。彼女は殺害後チェーンソーで死体を細かく切り刻み処理しています。にもかかわらず犯行時間は短時間で非常に技術があると思われます。1日当たり3人から5人程度で、満足すれば帰っていくような印象です」

「説明ありがとうございまス」

「いえいえ。シュンレイさんならご存知とは思いますが、こちらとしても今この案件を処理するには少し厄介でして。早くても私が対応するとなると3日後になってしまうので、これ以上コストもかけられない都合もあり、引き受けていただけて大変助かっています。あぁ、それにこのユミさん、シュンレイさん絡みとみてますので、依頼した方が良いと判断しました。ふふっ。見当違いでしたら申し訳ありません」


 チャイナ服を着た男はそこで、静かにニヤリと笑った。


「本当ニ、アナタと敵対関係ではなくて良かっタと思いまス」

「ふふっ。光栄です。お互い様ですよ。では、説明は以上になりますでのでよろしくお願いします。それでは失礼いたします」


 ポンッと電子音が鳴って通話が切断された。


「あ、あのさ。シュンレイさん。今のって……」


 フードを被った少年が、恐る恐る尋ねる。


「えぇ。お察しの通り、彼女は警察でス。何か問題でモ?」


 チャイナ服を着た男――シュンレイと呼ばれた男は無表情で淡々と答え、首を傾げた。


 それと同時に、リィィン……と鈴の音が鳴る。シュンレイの左耳についた派手なアクセサリーには鈴が1つ付いており、首を傾げた際に音が鳴ったようだ。その音は何か空気を澄ませていくような、凍らせていくような、異様に心に響きわたる様な音をしていた。


「いや……。えぇと。なんでもないっす」


 少年は口をつぐんで苦笑いを浮かべた。


 まもなくして、ピコンと電子音が鳴り、テーブルに置かれたスマートフォンの画面が光る。メッセージが届いたようだ。

 シュンレイがスマートフォンを手に取り内容を確認する。


「今日の犯行が行われル場所などの情報でス。本当に彼女ハ優秀でス。こちらの情報、アナタ達にも送りますのデ見ておいてくださイ」

「え。犯行場所まで分かるのかよ。どうなってんだ?」


 フードを被った少年は突っ込みながらも、自身のスマートフォンへ転送されてきた情報に目を通す。


「初日の3人以外の一般人被害者がいないっていうのも、警察さんの調整ってところなんだろうな……。コワイねぇ」


 今まで静かに聞いていた茶髪の青年も、情報に目を通しながらそう呟く。


「依頼の期限は今日中ですかラ、すぐに向かってくださイ。よろしくお願いしまス。また、ターゲットの処理については、シエスタ、アナタに任せまス。現場判断デ構いませン」

「んー? 俺の判断で良いの? シュンレイさん絡みって警察さん言ってたけど」


 茶髪の青年――シエスタと呼ばれた青年は不思議そうに聞き返す。


「えぇ。ここで話しテ決めルよりは、実際に見てアナタが判断すル方が的確でしょウ」

「おっけー。分かった」


 シエスタはそう答えて立ち上がる。フードを被った少年も続けて立ち上がると、2人はbarを去り世闇へと消えていった。

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