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血まみれシュレッダー1 〜戸塚結実の追憶〜
血まみれシュレッダー1 〜戸塚結実の追憶〜
ゆこさん
現代ファンタジー異能バトル
2024年11月07日
公開日
49.9万字
連載中
主人公 戸塚結実(トツカユミ)は平凡な日常を送る、ごく普通の女子中学生だった。
ある日彼女が帰宅すると、両親のバラバラ死体がリビングに転がっていた。
それを目にした瞬間から、彼女の全てが狂い始める。

気付けば彼女は、夜な夜なチェーンソーを振り回し、無差別殺人を繰り返す殺人鬼となっていた。
彼女自身理解が及ばない。何も分からない。しかし、殺人を辞める事が出来ない……。

狂い果て、訳も分からないまま迎えた8日目。既に26人の人間を切り裂いたユミの刃はついに止められる。
殺し屋を名乗る少年の圧倒的な戦闘力により、彼女はあっけなく生け捕りにされてしまった。


そこでユミに迫られたのは2択だった。

「殺し屋として生きるか、ここで死ぬか」

ユミは即答した。生きたいと。
何も分からないまま死にたくないと。
たとえそこが地獄だろうと、生き抜きたいと。

殺し屋として生きる事を選択した彼女は、周囲のサポートを受けながら裏社会での生き方を学んでいく。
それと同時に、少しずつ人間らしさを取り戻し自分らしさを見つけていく。

彼女自身に起きていた不可解な現象や問題とは……?
身体に起きていた異変、精神に起きていた異常、そして彼女を狙う強大な悪意の存在。

これは、人間らしさを失ったユミが、裏社会で殺し屋として我武者羅に生き抜き、笑顔を取り戻すまでの物語。

プロローグ 2020.8.13

「お先に失礼します。お疲れ様でした」


 半径2メートル程度の範囲にしか聞こえないような、覇気のない声で私は呟いた。

 消灯された暗いエレベーターロビーに出て、何となく、はめ殺しの窓に目を向ける。

 窓の先には都会の夜景にライトアップされた赤と白の東京タワーが見える。

 エレベーターが来るまで何となく見つめていると、突然タワーのライトがパッと消えた。


 そうか。12時か。


 途端に暗くなる窓の先から目を逸らして、私は到着したエレベーターに乗り込んだ。


 退社して電車に乗る。そして家に帰る。

 ルーティンだ。

 頭を使わずとも体が覚えている。

 まるで吸い寄せられるように、家を求めて進んでいく。


 改札に入るときのピッという音さえ、今の自分にはどこか遠くの音に聞こえる。

 私は階段を下りてホームで電車を待つ。


 金曜日の夜らしく、酒気を帯びたサラリーマン達が陽気に話している。

 明日は休みだ。休みではあるけれども。

 私はそこで思考を強制的にやめて駅の電光掲示板を見た。

 あと2分ほどで電車が来るようだ。


 まもなくして電車が来て、降りる人を待ってから私は電車に乗る。

 吊革につかまり窓に反射する自分の姿はとても疲れているOLそのものだ。


 何をしているんだろうか。

 何のために?

 これでいいの?

 これが普通なの?


 浮かんではすぐに消し去る問いかけにうんざりしながら電車に揺られる。


 しばらく電車に揺られて、私は最寄り駅で下車した。

 階段を上って改札を出て、家に向かって歩く。数分歩けば家だ。

 家に帰ったら何しようか。何もせずに寝てしまおうか。

 そんなことを考えながら歩く。


 1秒でも早く家につきたい。

 私はいつも通り最短ルートで進む。大通りから逸れて街灯の少ない裏道へ。

 長い長いまっすぐな見通しの良い裏道。

 直進して突き当りを曲がれば目的の家にたどり着ける。


 ぼーっと見据える突き当りのT字路。


 見えているのに遠いな。

 私はそんなことを感じながらいつも通り歩いていた。


 しかし、しばらくまっすぐ歩いたところで、いつも通りではないものが聞こえてきた。


「♪~♪♪~♪~♪♪~~」


 鼻歌?


 女性の鼻歌だろうか。歌詞があるわけではなくどこか寂しげなメロディーだ。

 こんな遅い時間に鼻歌を歌う女性がいるなんて珍しいな。等と思いながら、特に足を止めるでもなく歩みを進める。


 しかし。


 ブォオオオオン……ブォオォォォォ……

 というまたもやいつも通りではない音が――エンジン音と思われる音が背後の遠くの方から聞こえてきた。


 何の音だろうか。

 バイク? 暴走族でもいるのだろうか。


 いつもと違う音を不思議に思うも、特に自分に関係あることではないと、私は振り向くこともなく考えることをやめ、歩き続けた。


 その直後だった。

 鼻歌とエンジン音が、真後ろで聞こえた。


「え?」


 直前までは遠くで聞こえていたはずのいつもと違う音たち。

 それが同時に真後ろで、それも耳元と言ってもいいくらい近くで聞こえたのだ。


 心臓が飛び上がるほどドキリとして、私はとっさに振り返ろうとした。

 したのだが。


 その時にはすでに私は宙を舞っていた。


「なん……で……?」


 視界の端に映る制服姿の真っ赤な女の子?

 その近くに落ちている私のカバン。

 それと、そのカバンについている私の腕。

 あれ、あそこに倒れているのは私の下半身?


 じゃぁ、私は……?


 ぐちゃりと音を立てて落下した私の上半身。

 もう、何も見えない。

 真っ暗な視界。遠のく意識。


「なんでだろ。わかんないよ」


 そんな少女のソプラノの声が聞こえた気がした。

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