「やっぱり行くのか?」
全てが終わった後……バルトロメオ一世が正式にフエナシエラ王として即位してから約一月。
ある人物が王都ラベナを後にしようとしていた。
「あんたを大将軍にと、みんなが願っていたじゃないか……それに……」
他に誰もそれにふさわしい人間がいない。
そう言うバルに、ホセはいつもと代わらぬ穏やかな笑みで答えた。
「他にふさわしい人間がいないのであれば、なおさら私はその位に就く訳にはいきません」
理由はご存じでしょう、そう言ってくる不思議な光彩を放つ瞳に、バルは答えられずにいた。
「せめてもの償いです。殿下と……フェルナンド様をお守りできなかった……私の我が儘ですが」
修道士になる、そう告げられたのはつい先日のことだった。
何度も引き留めたバルに、だがホセは首を縦に振ろうとはしなかった。
「ならば、一つだけ条件がある。いや、俺からの最後の命令だ」
何事かと首を傾げるホセに、バルは硬い表情で行った。
「あんたに……あんたに俺の葬儀を取り仕切ってもらいたい。俺が死ぬ前に死ぬな。そして法王になって欲しい……」
これが最後の我が儘だ、視線をそらしながら言うバルに、黒髪の青年は穏やかな笑顔を浮かべながら答えた。
「賜りました。けれど、それにはかなりの時間がかかりますし……それに……」
「だから、俺より早く死ぬなと言っているんだ。頼む」
それに、もうこれ以上、いらぬ血を流したくないのはカルロスも一緒だと、バルは言った。
「難しいご命令ですが……やってみましょう。ですが、もし出来なくても恨まないでくださいね……」
即位より三十余年、フエナシエラ中興の祖と呼ばれたバルトロメオ一世は波乱に満ちたその生涯を静かに終えた。
その国葬を執り行ったのは、初の東方民族系の法王であったと伝えられている……。
王子と騎士と巻き添えの俺 終