気づいた時、俺は真っ暗闇の中にいて、目の前には女神様がいた。
「あなたにお願いがあります」
金髪の美しい女神様は、俺に頭を下げて言う。
「異世界に転生し、勇者となって魔王を倒していただけませんか」
「ほう?これが、噂にきく異世界転生ってやつかい」
俺は無精ひげが生えた顎をこすりながら、にやりと笑った。
「だが、いいのかよ?俺が何なのか、あんた知らないわけじゃねえだろう?」
俺は泣く子も黙る、最強ヤクザの一味。まあ、ポジションとしては下っ端だが、刺青だらけの体にムキムキマッチョ、2メートル越えの体はそれだけで見る者を圧倒するはずだ。
ボクシングもやっていたし、拳銃の扱いも慣れている。抗争に巻き込まれて死んだが、組では鉄砲玉としてそれなりに頼りにされていたという自負があるのだ。
つまり、単純な戦闘、にはかなりの自信がある。
しかも噂通りの異世界転生とやらなら、俺はチートスキルを貰えるはずだ。
「ヤクザを転生させるたぁ、女神様も相当お困りのようで」
「……その通りです。今まで何人も勇者を転生させましたが、全員失敗し、魔王の軍門に下ってしまいました」
女神様は肩を落として言う。
「まさに、最強無敵の、恐ろしい魔王なのです。……あなたには、その気になればどんな相手も一瞬で即死させられるチートスキルを授けましょう。その力で、必ず魔王を倒してください」
「おいおい、そのスキルは強すぎだろ。戦いにならねえじゃねえか」
「やむをえません。それほどまでに、とてつもない力を持った魔王なのです」
スキルはあなたがその気にならなければ発動しませんのでという女神。実際、せっかく異世界転生するなら少しは戦いや破壊を楽しみたい気持ちもあるのだ。すぐに殺してしまってはつまらないというもの。
――まあいいや。……スキルは、本当にピンチになった時に使えばいいだろ。
その時、俺はそう思っていた。自らが負けることなど、微塵も思わずに。
しかし。
***
「はっはっは!ここが魔王城か!覚悟しやがれ、魔王め!」
「にゃあん?」
「な、なに!?」
魔王城にカチコミをかけた男が目にしたもの。
それは玉座に座る――小さくて、真っ白な、子猫の姿だった。大きくてくりくりの金色の目でこちらを見、きょとんと首を傾げている。
かわいい。
冗談抜きで、最強に、可愛い。
「こ、こ、こぬっこ……?ま、魔王が?」
「にゃ!にゃああ、なああああ!」
「は、はい!ただいま、ちゅーるをご用意します魔王様ぁぁぁぁぁぁ!!」
勇者。
またしても、即敗北。
「ああああああああああああああああ!ま、またしても!やはり、もふもふには勝てないというの……!?」
ネコは崇めるしかないのか、そうなのか。
女神が頭を抱えたのは、言うまでもない。