「なぁ、あんたは最近雪だるまの破壊事件が起きているのは知っているか?」
後部座席からそんな声が聞こえてきた。彼の話は単なる興味本位の質問ではないようだ。
「ええ、センセーショナルですからね」と私は答えた。
雪だるまが壊される事件は、確かに町の話題になっていた。雪の中で楽しむはずの雪だるまが次々と破壊され、その理由を探ることは多くの人々の関心を引いていた。
「犯罪ではないものの、なぜそんなことをするのか気になってね。これは探偵という職業柄かもしれないが」
本職の探偵と副業で探偵をしている私とは、経験もスキルも違うのだろう。
「一つ分かっているのは、現場はある地点を中心にして円を描いていることだ」と彼が続ける。探偵らしい冷静さで、事件の共通点を冷静に分析している様子が見て取れる。
「そうなんですね。さすがです」と私は頷いた。彼の観察力には感心せざるを得なかった。
「しかし、それ以上の共通点は見つかっていない。強いて言えば、頭だけ壊されていることだな」
頭だけが壊されているというのは、いかにも不自然で、何か特別な意味があるのかもしれない。
私はその言葉に少し考え込んだ。雪だるまの頭部には通常、にんじんが使われていることを思い出す。これは雪だるまにとって象徴的であり、その壊され方には何か意図があるのではないかと感じた。
「犯人の目的はにんじんではないでしょうか」と私は提案してみた。
「にんじん!?」と彼が驚いたように声を上げた。目を見開いてこちらを見つめるその表情には、私の推測が予想以上のものだったようだ。
「ええ。頭を壊すのは、にんじんから目をそらすためです」と説明を加えると、彼はしばらく沈黙した後、じっくり考えるように目を閉じた。その間に、私はタクシーの車内に漂う静かな空気を感じながら、少しの間待った。
「なるほだな。あんたタクシー運転手にしては頭が回るじゃないか」と彼が頷き、感心の声を漏らした。どうやら私の推測は的を射ていたようで、彼の反応に少しほっとする。
再びタクシーのエンジン音が静かに響く中、私たちはさらに議論を交わす。犯人の狙いがにんじんである確証はない。しかし、それもいいのかもしれない。時に謎は謎のままの方がいいこともあるのだから。