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乙女心はミステリー

 タクシーのエンジン音が静かに響く車内で、乗客の男子学生が少し悩んだ様子で話し始めた。彼の手には古びた図書館のカードがあり、何やら心配事を抱えているようだった。



「運転手さん、読書好きがいきなり好み以外のジャンルを読むことって、あり得ると思いますか?」と彼は唐突に切り出した。



 私は少し考えながら答えた。



「あり得ることだと思いますよ。読書に対する興味や気分が変わることはよくありますから」



「ですよね」彼はほっとしたように続けた。



「それだけなら納得がいきます。でも、僕は学校で図書委員をしているんですが、気になる子がいつも、僕が当番の日にだけ借りる本のジャンルが変わるんです。気になって仕方がないんですよ」



 彼の目は少し不安そうだった。彼が言う「気になる子」とは、彼の気になる相手であるように見受けられた。それにしても、何か理由があるのではないかと私は考えた。



「ちなみに、その子が借りる本のジャンルって、どんなものですか?」と私は質問した。



「うーん、例えばミステリーだったり、田んぼの育て方だったり……」彼は少し困ったように答えた。「その子の家族は農業をしているわけではないんです」



 聞いてみても、これらのジャンルに共通性は見えてこない。ミステリーと農業の本がどう結びつくのか、正直なところ疑問だった。



「もしかして、タイトルに何かヒントが隠されているのではないでしょうか?」と私は提案した。



「タイトルですか?」彼は首をかしげながらも、考えを巡らせたようだった。



 彼は貸し出された本のタイトルを口にした。「『小説の書き方』、『田んぼのいのち』、『切り裂きジャック・百年の孤独』、『君たちはどう生きるか』、『好物漫遊記』です」



 そのタイトルを聞いた私は、一瞬思考を巡らせた。ふと、これらのタイトルを並べて縦読みすると、一つのメッセージが浮かび上がるのではないかという直感が働いた。



「あなたの名前は小田切さんですよね?」と私は突然、彼に問いかけた。



 彼の目が大きく見開かれ、「どうして、それが!?」と驚きの声を上げた。



「彼女が借りた本のタイトルの冒頭を縦読みすると、『小田切君好』となっているんですよ。つまり……」



 彼の顔がぱっと明るくなり、理解が広がったようだった。



「本を通して告白しているのでは? ということですか?」



「その通りです」私はうなずいた。



 ミラー越しに彼の表情を見ていると、これまで見たことがないくらい高揚した様子が伝わってきた。



「まだ推測の域を出ませんが、次に借りる本で決定的になると思いますよ」私は穏やかに続けた。



「その時に、あなたからアタックしてみるのもいいかもしれませんね」



 彼は嬉しさを隠しきれないようで、顔を赤らめながら、小さく鼻歌を口ずさみ始めた。その様子を見ながら、私も少し微笑んでしまった。



 タクシーが静かに走り続ける中、車内の空気は何とも言えない温かい雰囲気に包まれていた。私たちの会話がもたらした一つの小さな謎解きが、彼の未来に大きな影響を与えることを願いながら、タクシーは次の目的地へと向かっていた。

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