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誤爆から始まった俺たちの関係



 俺はその事に気が付いてから全身から汗が流れ始める。


――ご、誤爆ぅ……とは言えないよなぁ……。

 目の前でずっと俺のしている事を見ている瞳を前に、どうしたらいいかぐるぐると考える。


――あれ? ちょっと待てよ?


「瞳」

「なに?」

「嬉しかった?」

「うん」

「私もちゅき?」

「う、うん……改めて言われるとその……」

 顔を真っ赤に染め上げる瞳。


「直接言って欲しかった……って言ったよな?」

「うん……」

「……瞳は俺の事が好きなのか?」

「だからそう言ってるでしょ!!」

 両手で顔を隠したまま大きな声を出す瞳。


――何だこの可愛い生き物は!!

 その姿を見ながら改めて思った。そして……本当の事を言わなければとも思ってしまったのだ。そのままにしておくことはできない。



「ごめん」

「え? な、なに?」

「ごめんな瞳」

「ふ、フラれちゃった!? 私フラれちゃったの!?」

 あわあわと真っ赤な顔をしたままうろたえる瞳。


――小さい頃もこんな風に笑ったりしてたな。そんな雰囲気が好きだったし、そんな空気感が好きだった。楽しかったんだよな……。


 胸の奥で大きく跳ねるモノを感じる。


――あぁ……そういう事か……。話す事が無くなって行って悲しかったんだよな……。中学では会えなくなって寂しかったんだよな……。



――そうか……俺は……。



「瞳……」

「いぃ~やぁ~!! 聞きたくない聞きたくない!!」

「ごめん。それ……寝ぼけたまま送ったみたいなんだ」

「え? そ、そんな……じゃぁやっぱり……」

 大きな目を見開いて俺をじっと見つめる。涙がジワッと溜まっていくのを感じた。


「だから……改めて言わせて欲しいんだ……」

「え? どういう……」

「今度は寝ぼけてるわけじゃないぞ? そしてメッセージアプリででもない」

「…………」



「君が好きだ」


「っ!?」


「君が好きだよ……瞳」


「……よかっ……うわぁ~~~ん!! よがっだよぉ~~~!!」

 溜まって来ていた涙が、こらえきれずに零れ落ちる。涙を拭くこともなく全く気にしないで俺の胸へとボフっと体を預け、そのまま泣きじゃくりだした。


「泣き虫は……マドンナになっても変わらないんだな……」

 瞳の背中をポンポンとしながら、俺は静かにそうこぼしていた。




 俺と瞳はその日から幼馴染から先進した。ちょっとどころではなく恋人同士にまで昇華したその関係は、『マドンナ』という大層な異名を持つ女子も、中身は本当にただただ一人の普通の女の子だったという事を周辺に知らしめた。


 というのも、その日以来デレが無かったのが嘘のように、毎日の様に俺に甘えてくる。長く交流が無かった時間が有ったけど、その事が嘘のようにあの頃――子供の頃の仲が良かった関係が戻ってきた感じがする。


 何故俺にだけ冷たかったのかを聞いてみると――。


「忘れられたのかと思ってショックだった!!」

 なんてプクッと頬を膨らませて言われた。けどそんな姿もまた可愛いと思ってしまう俺は重症だと思う。


 その時の事を話した。誤解されたままだと嫌だからだ。


「忘れていたわけじゃないよ」

「どういうこと?」

「前島瞳という女の子を忘れてたわけじゃなくて、まさか学校のマドンナが前島瞳という人物だと知らなかったんだよ。小さい時の瞳と綺麗なマドンナになった瞳が結びつかなかった。だからあの時は気が付かなかったんだ」

「ん~……なんだか納得いかないけど、綺麗って言われたから許す!!」

「あははは……上から目線かよ……まぁいいか」

 二人でまた笑いあった。



 あまりにもべたべたと俺の周りにいるものだから、生徒たち公認カップルとしてまた噂は広がった。

 彼氏がいると知っていても瞳に告白してくる猛者もいたけど、その都度瞳はあっさりバッサリ切って捨てていた。


 それが俺には嬉しかった事は瞳には言わない。

 誤解と誤爆から始まった俺達だけど、小さい時一緒にいて楽しかった時と今も同じ気持ちで過ごしている。


 いつまでもずっと……これからもずっと……。

 一緒に笑って過ごしている。


 そんな関係でいられたらいいな。

 瞳には言えないけれど、俺は胸の奥でそう思っている。

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