僕たちの目の前に広がっていたのは、無造作に床に落ちた多数の本だった。
「ちくしょう、やられた!」草次さんがうめく。
犯人の方が一枚上手だった。先を越された。
「おい周平、しっかりしろ。まだ辞書のコーナーまでダメとは限らないだろ!」
暁が僕を揺さぶる。
「そ、そうだ。まだ希望はある」
僕は螺旋階段へ急ぐ。散らかった本のせいで歩きづらい。隙間を見つけては慎重に歩く。ようやく辞書コーナーにたどり着く。しかし、遅かった。辞書コーナーも全滅していた。
「くそ、ダメだったか……」
「なあ、相棒。これってまずくないか?」と暁。
「どうまずいんだ?」草次さんは頭を抱えている。
「辞書コーナーを徹底的に荒らされた。これで俺たちには『辞書が何冊なくなったのか』が分からないってことだ」
「暁、それってまさか……」
「周平、そのまさか、だ。この様子から察するに犯人はまだ事件を起こすつもりだ。当然、辞書を現場に置くだろう。するとどうなる? 何冊なくなったのか分からない以上、事件が起きるのは一件だけとは限らないわけだ」
「でも、それって犯人にとって裏目にもでないかな? だって犯人は辞書を――何冊か分からないけど――持っているはずだよ。つまり、手荷物検査をすればどうだろう?」
「周平の言うとおりだな。ダメもとで手荷物検査を提案するか」草次さんは立ち直りつつあった。
「そうとなれば、とっとと広間に行くぞ! 『善は急げ』だ」
僕たちは広間に向けて走りだした。