ダンジョンに足を踏み入れる数日前のこと。
僕はアルテミスさんと一緒に、──教会へと来ていた。
「アルテミスさん。付き添いをしてくれて、ありがとうございます! 一人だと、少し不安なので……」
「なに、斯様なことくらいで感謝せんで良い」
「アルテミスさん……!」
やっぱりアルテミスさんよ!
その美貌は然ることながら、器も大きくて優しいし。
そして何かある毎に、みんなを心配してくれるのだ。
まさにフィアナ騎士団の、──ママ的な存在である。
そんなアルテミスさんの、海の様な懐の広さに僕が感極まっていると、アルテミスさんは僕を見た。
「そんなことよりも余は、ハルトが精霊と契約することが出来るのか……はたまた、出来たとしてどの属性の精霊であるのか。それが気になるのじゃ」
そうなのだ、僕達が教会に足を運んだ理由は、僕が精霊との契約をするためなのだ。
一体何故、僕が精霊と契約をするのか?
それは・・・精霊と契約をすることで、ダンジョンを攻略するときの、圧倒的な力になるからである。
それこそ、精霊と契約出来れば……
精霊を介して大気中の魔素を吸収、そして魔法力を底上げすることも可能であり。
その他にも、魔法では無くスキル寄りで、精霊と合体することも出来れば、精霊を解放することも出来る。
要は精霊との契約は火力アップであり、してるのとしてないのとでは、力に雲泥の差が出来るのだ。
だからこそ僕は今、こうして、アルテミスさんと一緒に教会に来て居るのである。
「んー……どうですかね? それ、僕自身が結構気になっていたりします。まぁ、当たり前ですけど」
「それもそうじゃのう……と、目的地に着いたか」
会話をしていた僕達は、目的地へと辿り着いていた。
辺りに見えるは複数のチャーチチェアに、騎士団本部でも見た女神ヘラ様のステンドグラス。
そして・・・天井から光が注ぐ、──祭壇だ。
その光景の、何と神秘的なことか。
言葉では表しきれない情景に、胸が高鳴りをみせる。
「めっちゃ神秘的で、綺麗ですね……」
ザ・ファンタジーを目の前にした僕は、その胸に秘められた感動を共有し、アルテミスさんの方を見た。
すると僕の目には切望の眼差しで祭壇を見ている、そんなアルテミスさんの姿が映ったのだ。
「あれ……? どうかしたんですか?」
「いや、ちーとばかしな……。そんなことよりもハルト、捧げる祈りの言葉は覚えておるか?」
あ、話を逸らした……。
でも……そうだよね。誰しもさ、他人に言いたく無いことの一つや二つあるよね。
ならここは、聞くのも野暮ってものか……。
「はい、大丈夫です! めっちゃ暗記してます!」
「そうか……それならあの、精霊の祭壇に祈ると良い」
「はいっ!」
精霊の祭壇の前に跪くと、目を閉じて手を組み出来る限り凛々しいポーズで、僕は精霊に祈りを捧げる。
「
僕が捧げるは、運命に対する覚悟の祈り。
それを聞き届けた精霊が僕を見て、その運命に興味を惹かれたとき、精霊との契約が成されるのだ。
(あぁ……緊張する。契約出来なかったらどうしよう……)
得体の知れない不安が脳裏を過ぎる。
そんな僕には何色も存らず、まるで海の暗闇に精神が沈んでいるかのようだ……。
やがて身体の感覚が、透き通る風の様に消えた。
すると僕の目の前に、五人の少年少女が現れた。
その五人の少年少女はそれぞれが、赤色・水色・黄色・緑色・橙色で形作られている。
「へぇー! キミ凄いね!」
そう赤色の男の子が……
「そうね! キミ凄いわ!」
そう水色の女の子が……
「凄過ぎして引いちゃう!」
そう黄色の女の子が……
「ねぇキミ、一体どんな前世をしているんだい?」
そう緑色の男の子が……
「少なからずキミはね、人五倍は辛い目にあうね」
そう橙色の男の子が、──言った。
(へぇ……僕、人五倍は辛い目にあうのか……って?!)
「人五倍も!?」
「もーっ、橙ちゃん! 嘘は、めっ! でしょ!」
ホッ……嘘だったのか……。
「この人はねっ、人百倍は辛い目にあうわ!」
「うんうん、そうだよね。辛い目にあうとしたら、人百倍くらいだよね・・・って! それじゃ増えてるよ!!」
「むぅ……折角僕が、気遣って嘘ついたのに……」
「うん、ありがとね?! ならせめてさっ! 最後まで否定して欲しかったよね!?」
そう前のめり気味に僕が言うと、五人の少年少女は僕のことを蔑む様に見て暴言を吐き捨てる。
「「「「「ドMかよ、キモ……」」」」」
「ドMじゃないよ!!!!!?????」
はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……。
なんだろう、なんなんだろうコレ……。
新手の虐めか何かですかね?
「まー良いや……そう言うキミ達はさ、一体何者なの?」
僕の問い掛けに五人の少年少女は、素っ頓狂な表情で互いに見詰め合い……そして、みんな揃って言うのだ。
──『火・水・雷・風・土』の精霊だよ?
と、何を今更感を出しながら……。
「えっ、ガチ? あっ・・・でも、それもそうかも……」
「まーなぁ……実際キミが俺達を呼んだしな~」
ですよね~……。
自分で精霊に契約を持ち出しといて、キミ達何者なの?って発言はヤバいよね……。
そう項垂れていると、水色の女の子が緑と橙色の男の子の方を見て、その疑問を呈した言葉を紡ぐ。
「そー言えばさ……何でこの人は人間なのに、緑君と橙君がここに居るの?」
「「「「そー言えばそうじゃん!」」」」
核心をついた水色の女の子の言葉に、思わず当人である緑君と橙君までハッとしている……。
「確か風と土の精霊ってさ、それぞれがエルフとドワーフにしか懐かないんだよね?」
「懐くって……言い方よ……」
「あっ……ゴメン……」
「まぁ良いけど……だってそもそもさ、こうやって精霊が人類の前に現れること無いし」
橙色の男の子の言葉に、僕は驚愕とした。
「えっ、そうなの!?」
「まぁね……」
そう言って一拍置いた橙色の男の子。
そんな橙色の男の子は、みんなの方を向いて言う。
「てかさみんなも多分、この人の運命に惹かれて此処に現れたんだよね?」
「「「「うん……」」」」
だって……
「凄いメラメラと燃える運命を感じたから……」
そう赤色の男の子が……
「波立つ海の様な波乱な運命を感じたから……」
そう水色の女の子が……
「天を揺がす稲妻の様な運命を感じたから……」
そう黄色の女の子が……
「未来へ進む追風の様な運命を感じたから……」
そう緑色の男の子が、──言った。
「でしょ? 僕だって、大地に大樹を芽吹かせる様な運命を感じたから、こうして契約に応じようとしてる。それにこの人の運命を見たときさ、みんなで度肝を抜かして驚愕したでしょう? つまりはさこの人……」
──この世界の運命を背負ってるんだよ。
そう言った橙色の男の子の言葉に、みんなは納得した様な表情で頷いている。
しかし、この世界の運命を背負っているとは、何と言い得て妙な言葉なのだろう。
だってさ僕、実際に女神ヘラ様から、「この世界を頑張って救ってねー!」って言われてるから……。
「自分で言うのも何だけど、実際そうなんだよね。だって僕ってさ一応、女神ヘラ様の使徒的な存在だし……」
「「「「「えええええええ!!!???」」」」」
めちゃくちゃ驚くじゃん……。
さっきの運命を見る云々って何なんだ……。
まぁ良いけどさ……。
「ガチ?! それなら納得だよ!」
「そうなの?」
うんうんと頷く、五人の少年少女。
そんな五人の少年少女は、一人ずつ僕の頭に触れた。
「よしっ! それなら早速……。俺は火の精霊! 俺は名前が無いから火と呼んでくれ! ヨロシクな!」
そう言った火の精霊は、僕の精神へと飽和した。
「次は私ね……私は水の精霊です! 私も名前がありませんので、水とでも呼んでください! ヨロシクね!」
そう言った水の精霊は、僕の精神へと飽和した。
「私は雷の精霊よ! 雷とでも呼んで頂戴! 一応言っておくけど、私が最強だから! 私を優遇しなさい!」
「分かったよ。じゃあさ一番最初は、雷を頼るね!」
「ふんっ! それで良いんだから!」
そう言った雷の精霊は、僕の精神へと飽和した。
「僕は風の精霊。風とでも呼んでください。貴方が独りのときでも、僕達が着いていますよ」
「うん、ありがとう。頼りにしてるね」
「はい。貴方の運命に、幸があらんことを……」
そう言った風の精霊は、僕の精神へと飽和した。
「はぁ……やっぱり最後かぁ……」
「そうみたい……ゴメンね?」
「いや、別に大丈夫。ちなみに僕は、知ってると思うけど土の精霊だぞ。土君とか、橙ちゃんとでも呼んでね」
「うん、分かったよ」
「きっとキミは、色んな災難に見舞われるだろう。でも挫けないでさ、護りたい何かの為に頑張ってよ。その何かを護れるのはさ、キミだけだから」
そう言った土の精霊は、僕の精神へと飽和した。
「うん……分かった……」
そうして意識が覚醒した僕は、アルテミスさんに結果を報告して、そして騎士団本部へと一緒に帰った。
みんな、めちゃくちゃ驚いてて面白かったなぁ……。
◆◆◆
羽をパタつかせているラビバードが、四方八方から此方へと飛び込んで来る最中。
「いくよ! 雷ちゃん!!」
(ふんっ、ちゃんと呼んだわね! 任せなさい!)
心の内から聞こえて来た言葉と共に、
僕は
「──
このとき・・・
僕の髪と瞳が、黒色から黄色へと染まっていた。
僕の全身から、黄色のオーラが放出されていた。
視界を埋め尽くす攻撃を全て、──避けていた。
―――
【世界観ちょい足しコーナー】
○精霊契約
精霊との契約とは、精霊が人間個人の持つ運命に興味を惹かれたときに、その運命を共にすることを条件に、その運命に立ち向かう力を、その契約者に与えることである。
精霊
「ぼく、キミの運命を見届けたい!だからね、キミに力を上げるね!」
人類
「やったぁ!これで力が手に入ったぞー!」
この世界は全て、ダンジョンを中心に回っている。
そのため、ここに出てくる個人の運命の意味は、その人間とダンジョンとの運命にある。