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第39話 『五人の精霊と契約した話』


 ダンジョンに足を踏み入れる数日前のこと。

 僕はアルテミスさんと一緒に、──教会へと来ていた。


「アルテミスさん。付き添いをしてくれて、ありがとうございます! 一人だと、少し不安なので……」


「なに、斯様なことくらいで感謝せんで良い」


「アルテミスさん……!」


 やっぱりアルテミスさんよ!

 その美貌は然ることながら、器も大きくて優しいし。

 そして何かある毎に、みんなを心配してくれるのだ。

 まさにフィアナ騎士団の、──ママ的な存在である。


 そんなアルテミスさんの、海の様な懐の広さに僕が感極まっていると、アルテミスさんは僕を見た。


「そんなことよりも余は、ハルトが精霊と契約することが出来るのか……はたまた、出来たとしてどの属性の精霊であるのか。それが気になるのじゃ」


 そうなのだ、僕達が教会に足を運んだ理由は、僕が精霊との契約をするためなのだ。

 一体何故、僕が精霊と契約をするのか?

 それは・・・精霊と契約をすることで、ダンジョンを攻略するときの、圧倒的な力になるからである。


 それこそ、精霊と契約出来れば……

 精霊を介して大気中の魔素を吸収、そして魔法力を底上げすることも可能であり。

 その他にも、魔法では無くスキル寄りで、精霊と合体することも出来れば、精霊を解放することも出来る。

 要は精霊との契約は火力アップであり、してるのとしてないのとでは、力に雲泥の差が出来るのだ。


 だからこそ僕は今、こうして、アルテミスさんと一緒に教会に来て居るのである。


「んー……どうですかね? それ、僕自身が結構気になっていたりします。まぁ、当たり前ですけど」


「それもそうじゃのう……と、目的地に着いたか」


 会話をしていた僕達は、目的地へと辿り着いていた。

 辺りに見えるは複数のチャーチチェアに、騎士団本部でも見た女神ヘラ様のステンドグラス。

 そして・・・天井から光が注ぐ、──祭壇だ。


 その光景の、何と神秘的なことか。

 言葉では表しきれない情景に、胸が高鳴りをみせる。


「めっちゃ神秘的で、綺麗ですね……」


 ザ・ファンタジーを目の前にした僕は、その胸に秘められた感動を共有し、アルテミスさんの方を見た。

 すると僕の目には切望の眼差しで祭壇を見ている、そんなアルテミスさんの姿が映ったのだ。


「あれ……? どうかしたんですか?」


「いや、ちーとばかしな……。そんなことよりもハルト、捧げる祈りの言葉は覚えておるか?」


 あ、話を逸らした……。

 でも……そうだよね。誰しもさ、他人に言いたく無いことの一つや二つあるよね。

 ならここは、聞くのも野暮ってものか……。


「はい、大丈夫です! めっちゃ暗記してます!」


「そうか……それならあの、精霊の祭壇に祈ると良い」


「はいっ!」


 精霊の祭壇の前に跪くと、目を閉じて手を組み出来る限り凛々しいポーズで、僕は精霊に祈りを捧げる。


現世うつしよを形作りし五の元素よ。我が一生に準ずる運命にあるのならば、古の契約のもと我が精神に宿りて、未来を切り開かんとす我に、その力を捧げたまえ」


 僕が捧げるは、運命に対する覚悟の祈り。

 それを聞き届けた精霊が僕を見て、その運命に興味を惹かれたとき、精霊との契約が成されるのだ。


(あぁ……緊張する。契約出来なかったらどうしよう……)


 得体の知れない不安が脳裏を過ぎる。

 そんな僕には何色も存らず、まるで海の暗闇に精神が沈んでいるかのようだ……。


 やがて身体の感覚が、透き通る風の様に消えた。

 すると僕の目の前に、五人の少年少女が現れた。


 その五人の少年少女はそれぞれが、赤色・水色・黄色・緑色・橙色で形作られている。


「へぇー! キミ凄いね!」


 そう赤色の男の子が……


「そうね! キミ凄いわ!」


 そう水色の女の子が……


「凄過ぎして引いちゃう!」


 そう黄色の女の子が……


「ねぇキミ、一体どんな前世をしているんだい?」


 そう緑色の男の子が……


「少なからずキミはね、人五倍は辛い目にあうね」


 そう橙色の男の子が、──言った。


(へぇ……僕、人五倍は辛い目にあうのか……って?!)


「人五倍も!?」


「もーっ、橙ちゃん! 嘘は、めっ! でしょ!」


 ホッ……嘘だったのか……。


「この人はねっ、人百倍は辛い目にあうわ!」


「うんうん、そうだよね。辛い目にあうとしたら、人百倍くらいだよね・・・って! それじゃ増えてるよ!!」


「むぅ……折角僕が、気遣って嘘ついたのに……」


「うん、ありがとね?! ならせめてさっ! 最後まで否定して欲しかったよね!?」


 そう前のめり気味に僕が言うと、五人の少年少女は僕のことを蔑む様に見て暴言を吐き捨てる。


「「「「「ドMかよ、キモ……」」」」」


「ドMじゃないよ!!!!!?????」


 はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……。

 なんだろう、なんなんだろうコレ……。

 新手の虐めか何かですかね?


「まー良いや……そう言うキミ達はさ、一体何者なの?」


 僕の問い掛けに五人の少年少女は、素っ頓狂な表情で互いに見詰め合い……そして、みんな揃って言うのだ。

 ──『火・水・雷・風・土』の精霊だよ?

 と、何を今更感を出しながら……。


「えっ、ガチ? あっ・・・でも、それもそうかも……」


「まーなぁ……実際キミが俺達を呼んだしな~」


 ですよね~……。

 自分で精霊に契約を持ち出しといて、キミ達何者なの?って発言はヤバいよね……。


 そう項垂れていると、水色の女の子が緑と橙色の男の子の方を見て、その疑問を呈した言葉を紡ぐ。


「そー言えばさ……何でこの人は人間なのに、緑君と橙君がここに居るの?」


「「「「そー言えばそうじゃん!」」」」


 核心をついた水色の女の子の言葉に、思わず当人である緑君と橙君までハッとしている……。


「確か風と土の精霊ってさ、それぞれがエルフとドワーフにしか懐かないんだよね?」


「懐くって……言い方よ……」


「あっ……ゴメン……」


「まぁ良いけど……だってそもそもさ、こうやって精霊が人類の前に現れること無いし」


 橙色の男の子の言葉に、僕は驚愕とした。


「えっ、そうなの!?」


「まぁね……」


 そう言って一拍置いた橙色の男の子。

 そんな橙色の男の子は、みんなの方を向いて言う。


「てかさみんなも多分、この人の運命に惹かれて此処に現れたんだよね?」


「「「「うん……」」」」


 だって……


「凄いメラメラと燃える運命を感じたから……」


 そう赤色の男の子が……


「波立つ海の様な波乱な運命を感じたから……」


 そう水色の女の子が……


「天を揺がす稲妻の様な運命を感じたから……」


 そう黄色の女の子が……


「未来へ進む追風の様な運命を感じたから……」


 そう緑色の男の子が、──言った。


「でしょ? 僕だって、大地に大樹を芽吹かせる様な運命を感じたから、こうして契約に応じようとしてる。それにこの人の運命を見たときさ、みんなで度肝を抜かして驚愕したでしょう? つまりはさこの人……」


 ──この世界の運命を背負ってるんだよ。


 そう言った橙色の男の子の言葉に、みんなは納得した様な表情で頷いている。

 しかし、この世界の運命を背負っているとは、何と言い得て妙な言葉なのだろう。

 だってさ僕、実際に女神ヘラ様から、「この世界を頑張って救ってねー!」って言われてるから……。


「自分で言うのも何だけど、実際そうなんだよね。だって僕ってさ一応、女神ヘラ様の使徒的な存在だし……」


「「「「「えええええええ!!!???」」」」」


 めちゃくちゃ驚くじゃん……。

 さっきの運命を見る云々って何なんだ……。

 まぁ良いけどさ……。


「ガチ?! それなら納得だよ!」


「そうなの?」


 うんうんと頷く、五人の少年少女。

 そんな五人の少年少女は、一人ずつ僕の頭に触れた。


「よしっ! それなら早速……。俺は火の精霊! 俺は名前が無いから火と呼んでくれ! ヨロシクな!」


 そう言った火の精霊は、僕の精神へと飽和した。


「次は私ね……私は水の精霊です! 私も名前がありませんので、水とでも呼んでください! ヨロシクね!」


 そう言った水の精霊は、僕の精神へと飽和した。


「私は雷の精霊よ! 雷とでも呼んで頂戴! 一応言っておくけど、私が最強だから! 私を優遇しなさい!」


「分かったよ。じゃあさ一番最初は、雷を頼るね!」


「ふんっ! それで良いんだから!」


 そう言った雷の精霊は、僕の精神へと飽和した。


「僕は風の精霊。風とでも呼んでください。貴方が独りのときでも、僕達が着いていますよ」


「うん、ありがとう。頼りにしてるね」


「はい。貴方の運命に、幸があらんことを……」


 そう言った風の精霊は、僕の精神へと飽和した。


「はぁ……やっぱり最後かぁ……」


「そうみたい……ゴメンね?」


「いや、別に大丈夫。ちなみに僕は、知ってると思うけど土の精霊だぞ。土君とか、橙ちゃんとでも呼んでね」


「うん、分かったよ」


「きっとキミは、色んな災難に見舞われるだろう。でも挫けないでさ、護りたい何かの為に頑張ってよ。その何かを護れるのはさ、キミだけだから」


 そう言った土の精霊は、僕の精神へと飽和した。


「うん……分かった……」


 そうして意識が覚醒した僕は、アルテミスさんに結果を報告して、そして騎士団本部へと一緒に帰った。


 みんな、めちゃくちゃ驚いてて面白かったなぁ……。


◆◆◆


 羽をパタつかせているラビバードが、四方八方から此方へと飛び込んで来る最中。

 精霊合体スピリット・アドバンスを宣言した僕は、契約した精霊に語り掛ける様に、その名を呼んだ。


「いくよ! 雷ちゃん!!」


(ふんっ、ちゃんと呼んだわね! 任せなさい!)


 心の内から聞こえて来た言葉と共に、

 僕は精霊合体スピリット・アドバンスを完全化させる!


「──雷形態タケミカヅチッッッ!!」


 このとき・・・

 僕の髪と瞳が、黒色から黄色へと染まっていた。

 僕の全身から、黄色のオーラが放出されていた。

 視界を埋め尽くす攻撃を全て、──避けていた。


―――


【世界観ちょい足しコーナー】


○精霊契約

精霊との契約とは、精霊が人間個人の持つ運命に興味を惹かれたときに、その運命を共にすることを条件に、その運命に立ち向かう力を、その契約者に与えることである。


精霊

「ぼく、キミの運命を見届けたい!だからね、キミに力を上げるね!」

人類

「やったぁ!これで力が手に入ったぞー!」


この世界は全て、ダンジョンを中心に回っている。

そのため、ここに出てくる個人の運命の意味は、その人間とダンジョンとの運命にある。

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