攻撃魔法には、組み合わせる魔力によって、幾つかの属性が存在する。
例えば嵐属性の攻撃魔法『ユピテル』。
嵐属性は、雷と水と風を三つの魔力を複合させた、トリプル属性魔法と呼ばれている。
そんな嵐属性の魔法は、持続力と殺傷能力の高い広範囲攻撃魔法で、その代償として消費魔力量が多い。
そのためヌボアを焼き尽したユピテルは、残った余力の雷撃を僕の方へと落ちた。
「あっ、オワタ・・・うぎゃあああああ!」
激しい光を放つ雷撃が当たり、身体がビリビリする。
ドカンッからのビリビリ……ドカンッドカンッからのビリビリビリビリ……。
やがてユピテルの効力が失くなると、辺りを照らしていた光が消え、アフロヘアーになった僕が姿を現す。
「何で魔法の使用者にダメージが……トホホ……」
半分涙目で口から、ケホッと煙を吐き出した。
その姿は滑稽であり、物凄く憐れだ。
──自分で自分が、虚しくなる程に。
「痛みは無かったけどさぁ……こんなん、ギャグ漫画でしか見たこと無いよぉ……服とかにもダメージ無いし……」
僕はアフロヘアーになった髪を手で溶かしつつ、そんな泣き言を零した。
僕の近くに、十匹のヌボアだったモノが倒れている。
雷撃が止み終わったのを確認した仲間が、僕の方へと呆れた様子で駆け寄って来た。
みんな、そんなに呆れてどうしたのだろうか?
アルテミスさんに至っては、手で頭を抑えてるし……。
「ん? みんな、どうかしたのー?」
「いや、なんだ……ハルトなら一人でも大丈夫だとは分かっていたのだが……」
手で頭を抑えていたエマがヌボアを見る。
「トリプル属性魔法を使うとは思わなくてな……」
エマがそう言うと、みんな揃って大きな溜息を吐いた。
「「「「「はぁ……」」」」」
「そんな溜息つく!?」
ここまで呆れられると、もはや清々しい。
此方のツッコミも捗ると言うものだ。
いや、まぁ……前の世界で僕、ツッコミとかしたこと無かったけどね……。
かと言って、ボケ役だったのかと問われれば、別にそうでも無いし。
と……そんなことを考えていると、プロメテウスとアキレウスが顔を見合って言う。
「だって、ねぇ……?」
「そうっすねぇ……」
「「オーバーキル『だ・っす』よねぇ?」」
「そんな口を合わせて言うっ?!」
やっぱりこの二人仲良いなぁ……。
そう戦々恐々とした、そのときだ。
僕の耳に新事実が入ってきたのだ。
「まぁ……それも仕方あるまいて。何せこの二人は、元祖ホモプだしのう」
「えぇぇ??!! やっぱりいいいい!!!???」
「「ちっぎゃああああうっっ!!!」」
二人の方を見て、僕は大きく驚いてみせた。
すると、その僕なりのボケに対して反応し、二人が全力否定のタックルをして来たのだ。
「グヘ……ッ!!」
「ハルトッ!?」
(痛い、滅茶苦茶痛い……こーれ、ヌボアの突進を余裕で超えてます……特にアキレウスの方が!!)
バタッ……。
僕は二人によって、地面に押し倒された。
僕の目には心配そうに見ているエマ、微笑んでいるヘファイストスさん、頭を摩って起き上がる二人が映った。
「いてて……」
「かぁーっ……ハルト、やっぱり丈夫っすね……」
「ハルト、立てるか……?」
そう言ったエマが僕に、その手を差し伸べた。
僕はその手を取り、感謝を述べて立ち上がる。
「ありがとう、大丈夫だよ」
「そっか……それもそうだな、ハルトは強いからな!」
「そう言われると照れる……」
ポリポリと頬をかき。
ちょっとだけ、こそばゆいな……。
そう思ったとき、アルテミスさんと話す、ヘファイストスさんの声が聞こえてきた。
「アルテミスよ……あまり、そう弄るもんじゃないわい」
「あれは余なりの、ただのジョークじゃ」
「ジョークでもじゃよ。人に言われて嫌なことなぞで、心から面白がれる人間などおらんよ」
「確かに……それもそうじゃな……」
はえー……ヘファイストスさん、滅茶苦茶良いこと言うじゃん。
まぁ……良いことを言い過ぎて、言われた二人が却って申し訳無さそうにしてるけど……。
「そうじゃ……アルテミスとて、『貧乳クソババアが若作りしててワロタ』とか言われたら嫌じゃろ?」
すうううううう…………んんんんんんんんん????
(あれー? 何でヘファイストスさん、滅茶苦茶良いこと言ってたのにそんなこと言っちゃうかなー? んー?)
アルテミスさんは俯きながら、握られている拳をプルプルと震わせており。
それを見たヘファイストスさん以外の四人が、顔を青ざめながらガクブルしていた。
「あのー……ヘファイストスさん。さっきからアルテミスさんの握られた拳が、プルプルと震えてますよ?」
「ん? アルテミスがワシの言葉に、手が震えるほど感動したのかのお? ふぉっふぉっふぉっ!」
このとき、四人の十八歳はこう思った。
『絶対ちげえええええええ!!!!????』
「むしろ怒りマックスって感じですよ!!!! 噴火寸前の火山と同じ空気感じますよ!!!!」
そうツッコミを、僕が入れたときだ。
──ドカンッッッ!!
まるで大地が割れたかと錯覚する音と共に、屈強なヘファイストスさんが無様に倒れた。
それは紛れもないアルテミスさんのゲンコツで、威力の高さに僕達は唖然とするばかりだ。
「どうやら余の手によって死にたい、そんなドワーフがいるらしいからのう。今すぐあの世に送ってやる!!」
怒りマックスのアルテミスさんが、その拳を倒れているヘファイストスさんに、振り下ろそうとしたとき。
──グルルルルル。
そんな、喉を鳴らした様な音が聞こえ……そして、その音の正体はアルテミスさんへ、──襲い掛かった。
『ガウッ!!』