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第36話 『無き気配の襲来』


 攻撃魔法には、組み合わせる魔力によって、幾つかの属性が存在する。

 例えば嵐属性の攻撃魔法『ユピテル』。

 嵐属性は、雷と水と風を三つの魔力を複合させた、トリプル属性魔法と呼ばれている。

 そんな嵐属性の魔法は、持続力と殺傷能力の高い広範囲攻撃魔法で、その代償として消費魔力量が多い。

 そのためヌボアを焼き尽したユピテルは、残った余力の雷撃を僕の方へと落ちた。


「あっ、オワタ・・・うぎゃあああああ!」


 激しい光を放つ雷撃が当たり、身体がビリビリする。

 ドカンッからのビリビリ……ドカンッドカンッからのビリビリビリビリ……。

 やがてユピテルの効力が失くなると、辺りを照らしていた光が消え、アフロヘアーになった僕が姿を現す。


「何で魔法の使用者にダメージが……トホホ……」


 半分涙目で口から、ケホッと煙を吐き出した。

 その姿は滑稽であり、物凄く憐れだ。

 ──自分で自分が、虚しくなる程に。


「痛みは無かったけどさぁ……こんなん、ギャグ漫画でしか見たこと無いよぉ……服とかにもダメージ無いし……」


 僕はアフロヘアーになった髪を手で溶かしつつ、そんな泣き言を零した。

 僕の近くに、十匹のヌボアだったモノが倒れている。

 雷撃が止み終わったのを確認した仲間が、僕の方へと呆れた様子で駆け寄って来た。


 みんな、そんなに呆れてどうしたのだろうか?

 アルテミスさんに至っては、手で頭を抑えてるし……。


「ん? みんな、どうかしたのー?」


「いや、なんだ……ハルトなら一人でも大丈夫だとは分かっていたのだが……」


 手で頭を抑えていたエマがヌボアを見る。


「トリプル属性魔法を使うとは思わなくてな……」


 エマがそう言うと、みんな揃って大きな溜息を吐いた。


「「「「「はぁ……」」」」」


「そんな溜息つく!?」


 ここまで呆れられると、もはや清々しい。

 此方のツッコミも捗ると言うものだ。

 いや、まぁ……前の世界で僕、ツッコミとかしたこと無かったけどね……。

 かと言って、ボケ役だったのかと問われれば、別にそうでも無いし。


 と……そんなことを考えていると、プロメテウスとアキレウスが顔を見合って言う。


「だって、ねぇ……?」


「そうっすねぇ……」


「「オーバーキル『だ・っす』よねぇ?」」


「そんな口を合わせて言うっ?!」


 やっぱりこの二人仲良いなぁ……。

 そう戦々恐々とした、そのときだ。

 僕の耳に新事実が入ってきたのだ。


「まぁ……それも仕方あるまいて。何せこの二人は、元祖ホモプだしのう」


「えぇぇ??!! やっぱりいいいい!!!???」


「「ちっぎゃああああうっっ!!!」」


 二人の方を見て、僕は大きく驚いてみせた。

 すると、その僕なりのボケに対して反応し、二人が全力否定のタックルをして来たのだ。


「グヘ……ッ!!」


「ハルトッ!?」


(痛い、滅茶苦茶痛い……こーれ、ヌボアの突進を余裕で超えてます……特にアキレウスの方が!!)


 バタッ……。

 僕は二人によって、地面に押し倒された。

 僕の目には心配そうに見ているエマ、微笑んでいるヘファイストスさん、頭を摩って起き上がる二人が映った。


「いてて……」


「かぁーっ……ハルト、やっぱり丈夫っすね……」


「ハルト、立てるか……?」


 そう言ったエマが僕に、その手を差し伸べた。

 僕はその手を取り、感謝を述べて立ち上がる。


「ありがとう、大丈夫だよ」


「そっか……それもそうだな、ハルトは強いからな!」


「そう言われると照れる……」


 ポリポリと頬をかき。

 ちょっとだけ、こそばゆいな……。

 そう思ったとき、アルテミスさんと話す、ヘファイストスさんの声が聞こえてきた。


「アルテミスよ……あまり、そう弄るもんじゃないわい」


「あれは余なりの、ただのジョークじゃ」


「ジョークでもじゃよ。人に言われて嫌なことなぞで、心から面白がれる人間などおらんよ」


「確かに……それもそうじゃな……」


 はえー……ヘファイストスさん、滅茶苦茶良いこと言うじゃん。

 まぁ……良いことを言い過ぎて、言われた二人が却って申し訳無さそうにしてるけど……。


「そうじゃ……アルテミスとて、『貧乳クソババアが若作りしててワロタ』とか言われたら嫌じゃろ?」


 すうううううう…………んんんんんんんんん????


(あれー? 何でヘファイストスさん、滅茶苦茶良いこと言ってたのにそんなこと言っちゃうかなー? んー?)


 アルテミスさんは俯きながら、握られている拳をプルプルと震わせており。

 それを見たヘファイストスさん以外の四人が、顔を青ざめながらガクブルしていた。


「あのー……ヘファイストスさん。さっきからアルテミスさんの握られた拳が、プルプルと震えてますよ?」


「ん? アルテミスがワシの言葉に、手が震えるほど感動したのかのお? ふぉっふぉっふぉっ!」


 このとき、四人の十八歳はこう思った。


『絶対ちげえええええええ!!!!????』


「むしろ怒りマックスって感じですよ!!!! 噴火寸前の火山と同じ空気感じますよ!!!!」


 そうツッコミを、僕が入れたときだ。

 ──ドカンッッッ!!

 まるで大地が割れたかと錯覚する音と共に、屈強なヘファイストスさんが無様に倒れた。

 それは紛れもないアルテミスさんのゲンコツで、威力の高さに僕達は唖然とするばかりだ。


「どうやら余の手によって死にたい、そんなドワーフがいるらしいからのう。今すぐあの世に送ってやる!!」


 怒りマックスのアルテミスさんが、その拳を倒れているヘファイストスさんに、振り下ろそうとしたとき。

 ──グルルルルル。

 そんな、喉を鳴らした様な音が聞こえ……そして、その音の正体はアルテミスさんへ、──襲い掛かった。


『ガウッ!!』


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