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第35話 『対ヌボア』


 立毛状態でアドレナリン全開な、興奮状態のヌボアが此方に対して猛突進し。


『グルルルルル……』


 その角でかち上げようと、僕達目掛けて飛び上がった。


『グアッ!!』


 僕達は散開して避ける、避ける、避ける。

 ヌボアの足は速く、避けるときに角が頬を掠りかける。


「あぶなっ」


 避けた僕は体制を戻し、直ぐ様に神器を解放する。


「神器解放・魔術の神輪ヘカテイア


 此方を通り過ぎて行ったヌボアが、すかさず進行方向を勢い良く変え、土埃を上げながら猛突進をして来る。


『グルルルルルッ!』


 十匹全員が僕の方に突進して来た。

 突進を左斜め横方向の飛び込み前転で回避。

 すかさず仲間に攻撃の合図を送る。


「みんな! 僕にターゲットが向いてる! 今が畳み掛けるチャンスだよ!」


 僕は仲間の方に振り向いた。

 しかし僕の視界には、人一人映らない。


「・・・えっ?」


 ──仲間が居ない。


 そう思ったときだ。

 一瞬の隙を見せた僕の背中に、此方へ突進して来たヌボアの角が衝突し、かち上げられた。


「グヘ……ッ!」


 僕の身体は勢い凄まじく、宙高くへと飛ばされている。

 上へと押し出す力と、下へと押し戻す力の小競り合い。

 そのときに生まれる圧力が、僕の身体に伝わり蝕んだ。


 しかしこの感覚、何処かで経験したことがある……。

 そうだ、この感覚は確か……。

 ──トラックに轢かれたときの感覚だ。


「う"えっ、ぷ……」


 徐々に上へと押し出す力が弱まり、その力が下へと押し戻す力と拮抗したとき、僕は宙に浮かぶ。

 目に見えるは満点の青空。

 しかし、ソレを見ている僕の目は虚ろで、世界の動きがスローモーションに見える。

 やがて、拮抗していた力のバランスが崩壊して、僕は地面へと頭から自由落下した。


「う"ぇ"っ"……!」


 自由落下している僕は、辺りを見回す。

 下にはヌボアの群れが僕を待っている。

 そして近くの青草に、皆が隠れて居た。


(・・・って、おい! アイツら隠れてやがった!)


 僕の脳には、フツフツとした怒りが沸いてくる。

 それもそうだろう?

 だってアイツら、滅茶苦茶笑ってんだもん!!


 怒りに身を任せた僕は、宙で身体を半回転させることで体制を整え、下にいるヌボア目掛けて落ちる。


「おらっ! 死ねぇえええええ!!!」


 ド────ンッッッ!!

 自由落下で得た運動エネルギーと、目一杯の殺意を込めた必殺キック。

 それは、ヌボアの身体を貫通する威力を有し、着地地点付近に大量の土埃を上げた。


「コホッコホッ……コホッコホッ……」


 土埃が器官に入った僕は咳をし、目の前の土埃を払う様に手を横に振る。


「それにしても感触が生々しかったなぁ……コホッ……」


 やがて土埃が収まりを見せると、残った九匹のヌボアが僕を包囲し、円を描く様に周り始めた。


「殺意高いねっ!?」


 いや、それもそうか……。

 だって僕の下に、ヌボアだったモノが落ちてるし……。


 それはともかく……僕の仲間達は何時まで、隠れて居るつもり何だろうか?


 気になった僕は、ヌボアの足音が響く戦場で、仲間の方に大声で呼び掛ける。


「みんな、何で隠れてるのさぁ?! ソコに居るの、僕知ってるからねぇ!」


 僕はみんなが居る方向を向き、手を振った。

 するとエマが、可愛らしくちょこんと顔を出す。


「黙って隠れてしまいすまないな、ハルト!」


 おっと……

 飛び掛って来たヌボアを避けた。

 一瞬ヌボアにいった視線を、エマへと戻す。


「それなら助けてくださいよ!」


「すまんが、それは出来ない!」


 次々と襲い掛かって来るヌボア。

 それを右ステップで避け、半回転で避け、そしてバックステップで避けた。


「何でですかー!」


「一階層はハルト単体の実践演出なのだ!」


「えぇーっ! 聞いて無いよー!」


「ドッキリなのだから当たり前だろ! なに、本当に危うくなったら直ぐに助ける! 安心すると良い!」


「ドッキリて……」


 僕は頭を抑えながら、溜息をついた。

 すると、みんなの声が聞こえて来た。


「「「「「ハルトのちょっと良いとこ見てみたいっ!!」」」」」


 いや、古っ!!??


「昔のコンパですかコレ??!!」


 ヌボアの攻撃を避け、そうツッコミをしたときだ。

 エマの声が聞こえてきた。


「ハルトー! 格好良いところを魅せてくれー!」


 それは、照れているエマの声。

 ニヤついてるアキレウスとプロメテウスに恥じ、その顔を赤らめつつモジモジしている。


「すうううううう……はああああああああああ……よし、本気でいくか……」


 熱病によって頭のリミッターが外れた僕は、ヌボアの攻撃を避けるのを辞め、回避から攻撃へと転じた。


「雷・水・風混合」


 後ろから飛び掛って来たヌボアの攻撃を、しゃがんで避けつつ、腹へのアッパーでお返しのカチ上げ。

 更に横から突進して来たヌボアの攻撃を、半回転して避けつつ、その角を掴んでカチ上げたヌボアにぶつけた。


「トリプル・嵐魔法」


 間断なく襲い掛かって来るヌボアに……

 殴って、回し蹴って、掴んで殴って投げた。

 やがて魔法の詠唱を終え、僕は魔法を使う。


「ユピテル」


 魔法を使った、そのとき・・・

 立ち込める様に黒い雷雲が出現し、無数の雷によってヌボアを燃やし尽くしたのだった。


ーーー


【世界観ちょい足しコーナー】


『ヌボア(食べれる)』

▶︎ヌーの角と鬣を持った、黒のイノシシ

▶︎大体10匹で群れを成す習性がある

▶︎1匹が混乱すると総動員で襲って来る

▶︎速さは85km

▶︎突進してくる

▶︎攻撃力が高く、当たるだけで致命傷

▶︎噛みごたえがあり、少々の獣臭さがある

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