立毛状態でアドレナリン全開な、興奮状態のヌボアが此方に対して猛突進し。
『グルルルルル……』
その角でかち上げようと、僕達目掛けて飛び上がった。
『グアッ!!』
僕達は散開して避ける、避ける、避ける。
ヌボアの足は速く、避けるときに角が頬を掠りかける。
「あぶなっ」
避けた僕は体制を戻し、直ぐ様に神器を解放する。
「神器解放・
此方を通り過ぎて行ったヌボアが、すかさず進行方向を勢い良く変え、土埃を上げながら猛突進をして来る。
『グルルルルルッ!』
十匹全員が僕の方に突進して来た。
突進を左斜め横方向の飛び込み前転で回避。
すかさず仲間に攻撃の合図を送る。
「みんな! 僕にターゲットが向いてる! 今が畳み掛けるチャンスだよ!」
僕は仲間の方に振り向いた。
しかし僕の視界には、人一人映らない。
「・・・えっ?」
──仲間が居ない。
そう思ったときだ。
一瞬の隙を見せた僕の背中に、此方へ突進して来たヌボアの角が衝突し、かち上げられた。
「グヘ……ッ!」
僕の身体は勢い凄まじく、宙高くへと飛ばされている。
上へと押し出す力と、下へと押し戻す力の小競り合い。
そのときに生まれる圧力が、僕の身体に伝わり蝕んだ。
しかしこの感覚、何処かで経験したことがある……。
そうだ、この感覚は確か……。
──トラックに轢かれたときの感覚だ。
「う"えっ、ぷ……」
徐々に上へと押し出す力が弱まり、その力が下へと押し戻す力と拮抗したとき、僕は宙に浮かぶ。
目に見えるは満点の青空。
しかし、ソレを見ている僕の目は虚ろで、世界の動きがスローモーションに見える。
やがて、拮抗していた力のバランスが崩壊して、僕は地面へと頭から自由落下した。
「う"ぇ"っ"……!」
自由落下している僕は、辺りを見回す。
下にはヌボアの群れが僕を待っている。
そして近くの青草に、皆が隠れて居た。
(・・・って、おい! アイツら隠れてやがった!)
僕の脳には、フツフツとした怒りが沸いてくる。
それもそうだろう?
だってアイツら、滅茶苦茶笑ってんだもん!!
怒りに身を任せた僕は、宙で身体を半回転させることで体制を整え、下にいるヌボア目掛けて落ちる。
「おらっ! 死ねぇえええええ!!!」
ド────ンッッッ!!
自由落下で得た運動エネルギーと、目一杯の殺意を込めた必殺キック。
それは、ヌボアの身体を貫通する威力を有し、着地地点付近に大量の土埃を上げた。
「コホッコホッ……コホッコホッ……」
土埃が器官に入った僕は咳をし、目の前の土埃を払う様に手を横に振る。
「それにしても感触が生々しかったなぁ……コホッ……」
やがて土埃が収まりを見せると、残った九匹のヌボアが僕を包囲し、円を描く様に周り始めた。
「殺意高いねっ!?」
いや、それもそうか……。
だって僕の下に、ヌボアだったモノが落ちてるし……。
それはともかく……僕の仲間達は何時まで、隠れて居るつもり何だろうか?
気になった僕は、ヌボアの足音が響く戦場で、仲間の方に大声で呼び掛ける。
「みんな、何で隠れてるのさぁ?! ソコに居るの、僕知ってるからねぇ!」
僕はみんなが居る方向を向き、手を振った。
するとエマが、可愛らしくちょこんと顔を出す。
「黙って隠れてしまいすまないな、ハルト!」
おっと……
飛び掛って来たヌボアを避けた。
一瞬ヌボアにいった視線を、エマへと戻す。
「それなら助けてくださいよ!」
「すまんが、それは出来ない!」
次々と襲い掛かって来るヌボア。
それを右ステップで避け、半回転で避け、そしてバックステップで避けた。
「何でですかー!」
「一階層はハルト単体の実践演出なのだ!」
「えぇーっ! 聞いて無いよー!」
「ドッキリなのだから当たり前だろ! なに、本当に危うくなったら直ぐに助ける! 安心すると良い!」
「ドッキリて……」
僕は頭を抑えながら、溜息をついた。
すると、みんなの声が聞こえて来た。
「「「「「ハルトのちょっと良いとこ見てみたいっ!!」」」」」
いや、古っ!!??
「昔のコンパですかコレ??!!」
ヌボアの攻撃を避け、そうツッコミをしたときだ。
エマの声が聞こえてきた。
「ハルトー! 格好良いところを魅せてくれー!」
それは、照れているエマの声。
ニヤついてるアキレウスとプロメテウスに恥じ、その顔を赤らめつつモジモジしている。
「すうううううう……はああああああああああ……よし、本気でいくか……」
熱病によって頭のリミッターが外れた僕は、ヌボアの攻撃を避けるのを辞め、回避から攻撃へと転じた。
「雷・水・風混合」
後ろから飛び掛って来たヌボアの攻撃を、しゃがんで避けつつ、腹へのアッパーでお返しのカチ上げ。
更に横から突進して来たヌボアの攻撃を、半回転して避けつつ、その角を掴んでカチ上げたヌボアにぶつけた。
「トリプル・嵐魔法」
間断なく襲い掛かって来るヌボアに……
殴って、回し蹴って、掴んで殴って投げた。
やがて魔法の詠唱を終え、僕は魔法を使う。
「ユピテル」
魔法を使った、そのとき・・・
立ち込める様に黒い雷雲が出現し、無数の雷によってヌボアを燃やし尽くしたのだった。
ーーー
【世界観ちょい足しコーナー】
『ヌボア(食べれる)』
▶︎ヌーの角と鬣を持った、黒のイノシシ
▶︎大体10匹で群れを成す習性がある
▶︎1匹が混乱すると総動員で襲って来る
▶︎速さは85km
▶︎突進してくる
▶︎攻撃力が高く、当たるだけで致命傷
▶︎噛みごたえがあり、少々の獣臭さがある