僕達は今、それぞれの神器と持ち物を持って、ダンジョンの中に立って居た。
ダンジョン第一階層・草原エリア。
その名の通り、草原が広がっている階層だ。
地球の草原に居る様な動物が跋扈し、モンスター同士で食物連鎖を形成している。
もはやダンジョンと言うより、一つの世界。
そう言えるくらいに、ダンジョンと言うのは歪なのだ。
ダンジョンと言えばそう、女神ヘラが馬鹿夫をぶち込んだ監獄と言っていた。
しかし女神ヘラが創ったのはこの異世界で、ダンジョンを創ったとは言って居ない。
ではこの監獄は、誰が為に造られたのか?
そもそもここは、本当に監獄であるのか?
これは未だに解明されていない、古代の思惑である。
さて、そんなダンジョンに入った感想だが……。
「すっごい広い……」
これである……。
ダンジョンとはそれ即ち、歴史的建造物であり、歴史そのものであるのだ。
その様なモノに対して、こんな子ども地味た語彙しか捻り出せない自分に、心底泣きたくなる。
しかし、そんな自分を肯定してくれる神様が、ソコには存在なされて居たのだ。
「いやぁ……分かるっすよ、その気持ち。俺も最初はそんな感想を抱いたモノっす……」
それはアキレウスだった。
何処か遠い目をしているアキレウスは、懐かしむ様にそう言ったのだ。
このとき僕は、自分が救われた様な気がした。
「ありがとうアキレウス、やっぱりアキレウスだよ……。うんうん……」
「もしかしてハルト、バカにしてるっすか?」
「やだなぁ~そんなことある訳無いじゃ~ん」
「ホントっすかね……?」
「これは嘘だと思うね、ボクは」
「余はどちらかと言えば、半々って気がするがのう」
「私も半々って感じかな、そっちのがハルトっぽい」
「ワシも同じく」
「えへへ、バレちゃったかぁ~」
「半々でも酷くないっすか?!」
楽しげな会話をしながら、僕達は歩を進めていた。
僕達が今居る所が入口付近だからか、まだモンスターのモの字も見掛けない。
見えるのは満点の青空に、揺れる青草だけだ。
しかしそれは一本木の丘を越えたとき、ガラリとして状況が一転することになった。
そう、──モンスターの出現である。
僕達はモンスターを、青草に紛れ様子見していた。
「ほう、あれはヌボアかのう」
ヌーの角と
ヌボアは体長が二百四十センチ程あり、大体十匹程度の群れを成すモンスター。
そしてその通りに僕達の目の前には、十匹の群れを成しているヌボアが、青草を食している。
「美味しいよね、ヌボア」
「えっ……あれ食べれるの?」
「食べれるも何も、私達はダンジョン攻略中、モンスターを食べるのだぞ?」
私達はダンジョン攻略中?
モンスターを食べる?
んんんんんん??????
「初耳なんだけどそれ……」
「あれ? 俺、言わなかったっすか?」
「少なからず聞いてないっすね~……」
「まぁ、今言ったんだから良いでしょ? 多分」
「報連相は大事って、はっきり分かんだね」
「なに、心配することは無い。余が直々に、モンスター共を調理してやるからの」
アルテミスさんの言葉を聞き、僕は凄く安心した。
それはアルテミスさんが、大の料理上手だからだ。
もうね、凄く凄い。
アルテミスさんの料理を食べたときの、あの、幸福感溢れる舌鼓が堪らない。
流石は百二十歳の女性である。
もし、エマに熱熱な恋をしていなかったら……。
ヘファイストスさんとの関係がなかったら……。
僕は既に、アルテミスさんに告白をしていただろう。
そのくらいに、胃袋をギュッと掴んで離れないのだ。
「マジ!? アルテミスさんの料理めっちゃ楽しみ!」
僕は嬉しさのあまりに、飛び上がってしまった。
そんな僕は今、ヌボアと見詰め合っている……。
「(えっ……何これ……これが、恋……?)・・・って、な訳あるかああああ!!??」
「この戯け……」
僕のことを呆れた目で見てる仲間達。
『シュー……シュー……シュー……』
鬣を逆立てて、土を足で蹴るヌボア。
「あっ……オワタ……」
そのとき、僕の大声に興奮したヌボアが、十匹一斉に襲いかかって来たのだった。