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第34話 『ダンジョンに足を踏み入れて』


 僕達は今、それぞれの神器と持ち物を持って、ダンジョンの中に立って居た。


 ダンジョン第一階層・草原エリア。

 その名の通り、草原が広がっている階層だ。

 地球の草原に居る様な動物が跋扈し、モンスター同士で食物連鎖を形成している。

 もはやダンジョンと言うより、一つの世界。

 そう言えるくらいに、ダンジョンと言うのは歪なのだ。


 ダンジョンと言えばそう、女神ヘラが馬鹿夫をぶち込んだ監獄と言っていた。

 しかし女神ヘラが創ったのはこの異世界で、ダンジョンを創ったとは言って居ない。

 ではこの監獄は、誰が為に造られたのか?

 そもそもここは、本当に監獄であるのか?

 これは未だに解明されていない、古代の思惑である。


 さて、そんなダンジョンに入った感想だが……。


「すっごい広い……」


 これである……。

 ダンジョンとはそれ即ち、歴史的建造物であり、歴史そのものであるのだ。

 その様なモノに対して、こんな子ども地味た語彙しか捻り出せない自分に、心底泣きたくなる。

 しかし、そんな自分を肯定してくれる神様が、ソコには存在なされて居たのだ。


「いやぁ……分かるっすよ、その気持ち。俺も最初はそんな感想を抱いたモノっす……」


 それはアキレウスだった。

 何処か遠い目をしているアキレウスは、懐かしむ様にそう言ったのだ。

 このとき僕は、自分が救われた様な気がした。


「ありがとうアキレウス、やっぱりアキレウスだよ……。うんうん……」


「もしかしてハルト、バカにしてるっすか?」


「やだなぁ~そんなことある訳無いじゃ~ん」


「ホントっすかね……?」


「これは嘘だと思うね、ボクは」


「余はどちらかと言えば、半々って気がするがのう」


「私も半々って感じかな、そっちのがハルトっぽい」


「ワシも同じく」


「えへへ、バレちゃったかぁ~」


「半々でも酷くないっすか?!」


 楽しげな会話をしながら、僕達は歩を進めていた。

 僕達が今居る所が入口付近だからか、まだモンスターのモの字も見掛けない。

 見えるのは満点の青空に、揺れる青草だけだ。

 しかしそれは一本木の丘を越えたとき、ガラリとして状況が一転することになった。

 そう、──モンスターの出現である。

 僕達はモンスターを、青草に紛れ様子見していた。


「ほう、あれはヌボアかのう」


 ヌーの角とたてがみを持った黒のイノシシ、ヌボア。

 ヌボアは体長が二百四十センチ程あり、大体十匹程度の群れを成すモンスター。

 そしてその通りに僕達の目の前には、十匹の群れを成しているヌボアが、青草を食している。


「美味しいよね、ヌボア」


「えっ……あれ食べれるの?」


「食べれるも何も、私達はダンジョン攻略中、モンスターを食べるのだぞ?」


 私達はダンジョン攻略中?

 モンスターを食べる?

 んんんんんん??????


「初耳なんだけどそれ……」


「あれ? 俺、言わなかったっすか?」


「少なからず聞いてないっすね~……」


「まぁ、今言ったんだから良いでしょ? 多分」


「報連相は大事って、はっきり分かんだね」


「なに、心配することは無い。余が直々に、モンスター共を調理してやるからの」


 アルテミスさんの言葉を聞き、僕は凄く安心した。

 それはアルテミスさんが、大の料理上手だからだ。

 もうね、凄く凄い。

 アルテミスさんの料理を食べたときの、あの、幸福感溢れる舌鼓が堪らない。

 流石は百二十歳の女性である。

 もし、エマに熱熱な恋をしていなかったら……。

 ヘファイストスさんとの関係がなかったら……。

 僕は既に、アルテミスさんに告白をしていただろう。

 そのくらいに、胃袋をギュッと掴んで離れないのだ。


「マジ!? アルテミスさんの料理めっちゃ楽しみ!」


 僕は嬉しさのあまりに、飛び上がってしまった。

 そんな僕は今、ヌボアと見詰め合っている……。


「(えっ……何これ……これが、恋……?)・・・って、な訳あるかああああ!!??」


「この戯け……」


 僕のことを呆れた目で見てる仲間達。


『シュー……シュー……シュー……』


 鬣を逆立てて、土を足で蹴るヌボア。


「あっ……オワタ……」


 そのとき、僕の大声に興奮したヌボアが、十匹一斉に襲いかかって来たのだった。

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