月曜日――とうとうニューヨークへと引っ越すその日がやってきた。
オレオは帰ってこないままだった。雨脚は弱まっていたものの、ぱらぱらと降り続けるなかでの荷物の搬出作業は予定よりも時間がかかっていた。業者がシートで覆いながら、濡れないよう慎重にトラックへと運び込む。その様子を見ながら、アーウィンとマデリンは空っぽになっていく家の中をうろつき、感慨深げに眺めていた。
イーサンも、ぎりぎりまで片付けられなかった衣服などをダッフルバッグに詰め、しっかりと充電しておいたラップトップや携帯ゲーム機、ヘッドフォンなど自分で持っていたいものをバックパックに入れた。これで部屋の中は空っぽだ。
あとはもう積み込みが終わったらトラックを見送り、最後のチェックをして、アーウィンのインフィニティQ50とマデリンのホンダCR‐Vの二台に分かれ、ニューヨークまでドライブだ。
「――じゃあ、自分らは途中で休憩してゆっくりと向かいますんで、向こうに着いたら電話をください」
「わかりました。では、よろしくおねがいします」
トラックが発車するというそのとき、ちょうど雨もあがった。大きなエンジン音とともにトラックが走りだすのを見送っていると、隣人が外に出てきてマデリンに声をかけた。
ハグをし合ったりしている母を見ながら、イーサンがこの隙に運転席に坐っちゃおうか、などと思っていると――
「……オレオ?」
黒白模様の猫が、とことことこっちに向かって歩いてくるのに気がついた。広い舗道から芝の上をのんびりと散歩でもするかのように、ゆっくりと白いソックスを履いた前肢を進めている。間違いなくオレオだ。
「オレオ……!」
名前を呼ぶと、オレオは立ち止まって前肢をちょんと揃え、やれやれやっと騒々しい作業が終わったかとでもいうように、うーんと伸びをした。
「オレオ、よかった……!」
バックパックを放りだし、イーサンはオレオを驚かさないようゆっくり近寄り、しゃがみ込んだ。いったいどこにいたのか、オレオは見たところまったく濡れていなかった。オレオ、オレオかと名前を呼ぶ両親の声にイーサンは笑顔で一瞬振り返り、オレオを抱きあげようと両手を伸ばした。
――よかった、オレオ。さあ、家族みんなで一緒に行こう。
いつものようにぴんと尻尾を立て、オレオはその手に顔を擦り寄せると――
「にゃあん」
と、甘えるように鳴いた。
𝖳𝗁𝖾 𝖢𝗁𝗈𝗂𝖼𝖾 -𝖱𝗁𝗒𝗍𝗁𝗆 𝗈𝖿 𝗍𝗁𝖾 𝖱𝖺𝗂𝗇/𝖢𝗋𝗒𝗂𝗇𝗀 𝗂𝗇 𝗍𝗁𝖾 𝖱𝖺𝗂𝗇- [𝖲𝗂𝗇𝗀𝗅𝖾 𝖼𝗎𝗍 𝗏𝖾𝗋𝗌𝗂𝗈𝗇]
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