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scene 8. グローイング・アップ

 日曜日。ほとんどガラクタしか残っていなかったガレージセールは、予定通り午前中、早めに終えた。そして売れ残ったものと不用品の処分を済ませると、アーウィンは云っていたとおりマデリンと近所に挨拶回りに出掛けた。

 ちゃんと頼んでくるから、おまえは家にいて、荷造りの続きをしてしまいなさいとアーウィンに云われ、イーサンは素直にCDや本、文具などを出してまとめ、箱詰めをした。

 ――玄関のブザーが鳴った。アーウィンもマデリンもいないのに誰だろう、とイーサンは階下したへ下りていき、玄関のドアを開けた。

「こんにちは、イーサン」

「カイリー……」

 別れ話をしてから、学校で擦れ違ったりしてもまったく言葉を交わしてはいなかった。だが、カイリーの留学も自分のニューヨーク行きもオレオのことも、もう肚が括れていたからか、彼女に対して負の感情が動いたりはしなかった。

 自分しか家にいないので、庭ででも話そう。そう云ってイーサンは、カイリーと家の裏手にまわった。

「このあいだは悪かったよ。ちょっときつい言い方をした」

 ウッドデッキに並んで腰掛け、イーサンはカイリーに謝った。カイリーは「ううん」と首を横に振り、持っていた紙袋を差しだした。

「これ、ありがとう。おかげで雨に濡れずに済んだわ。……オレオのことも聞いた。私がここにいるあいだにもしも見かけたら、必ず保護して連絡する。みつからないあいだも、餌とお水を毎日置きに来る。約束するわ」

「それやると野良の溜まり場になるよ。……でも、ありがとう」

 イーサンはじっとカイリーを見つめた。カイリーも自分を見つめ返してくれる。そして、少し寂しげに微笑んだ。

「……行くのね、ニューヨーク。明日だっけ」

「うん、明日」

 ざぁ……と風が吹いて、枝葉の擦れる音がした。空を見上げると、また雲行きが怪しい色になっていた。

「また雨が降りそうだな」

「イーサン、雨男なんじゃない?」

「えぇ? カイリーかもしれないじゃないか」

「私たちが一緒にいると降るのかも」

 ふたりしてくすっと笑って――イーサンは、すっと立ちあがった。

「傘、貸すよ。……って、もう棄ててくれればいいけど」

「うん、借りとく。……いつか、もっとおとなになってから返したいって思うかも」

 そんなことを云ったカイリーに堪えきれなくなり、イーサンはハグをした。

「離れても忘れないよ。……いつか、とびきりのいい女になったおとなのカイリーに再会できることを祈ってる」

「イーサンも……ニューヨークのビジネスマンになった、かっこいいイーサンにいつか会えるって信じてるわ。元気で」

「ありがとう。カイリーも、元気で」

 頬にキスをし、傘を手にカイリーが帰るのを見送って、中へ入ろうとしたとき――ああやっぱりと、イーサンは降ってきた雨に顔を顰めた。

 オレオ、オレオ。俺たちはもう明日行ってしまうよ――心のなかでそう話しかけながらイーサンは、オレオがどこか雨風の凌げるところにいますようにと神に祈った。

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