日曜日。ほとんどガラクタしか残っていなかったガレージセールは、予定通り午前中、早めに終えた。そして売れ残ったものと不用品の処分を済ませると、アーウィンは云っていたとおりマデリンと近所に挨拶回りに出掛けた。
ちゃんと頼んでくるから、おまえは家にいて、荷造りの続きをしてしまいなさいとアーウィンに云われ、イーサンは素直にCDや本、文具などを出してまとめ、箱詰めをした。
――玄関のブザーが鳴った。アーウィンもマデリンもいないのに誰だろう、とイーサンは
「こんにちは、イーサン」
「カイリー……」
別れ話をしてから、学校で擦れ違ったりしてもまったく言葉を交わしてはいなかった。だが、カイリーの留学も自分のニューヨーク行きもオレオのことも、もう肚が括れていたからか、彼女に対して負の感情が動いたりはしなかった。
自分しか家にいないので、庭ででも話そう。そう云ってイーサンは、カイリーと家の裏手にまわった。
「このあいだは悪かったよ。ちょっときつい言い方をした」
ウッドデッキに並んで腰掛け、イーサンはカイリーに謝った。カイリーは「ううん」と首を横に振り、持っていた紙袋を差しだした。
「これ、ありがとう。おかげで雨に濡れずに済んだわ。……オレオのことも聞いた。私がここにいるあいだにもしも見かけたら、必ず保護して連絡する。みつからないあいだも、餌とお水を毎日置きに来る。約束するわ」
「それやると野良の溜まり場になるよ。……でも、ありがとう」
イーサンはじっとカイリーを見つめた。カイリーも自分を見つめ返してくれる。そして、少し寂しげに微笑んだ。
「……行くのね、ニューヨーク。明日だっけ」
「うん、明日」
ざぁ……と風が吹いて、枝葉の擦れる音がした。空を見上げると、また雲行きが怪しい色になっていた。
「また雨が降りそうだな」
「イーサン、雨男なんじゃない?」
「えぇ? カイリーかもしれないじゃないか」
「私たちが一緒にいると降るのかも」
ふたりしてくすっと笑って――イーサンは、すっと立ちあがった。
「傘、貸すよ。……って、もう棄ててくれればいいけど」
「うん、借りとく。……いつか、もっとおとなになってから返したいって思うかも」
そんなことを云ったカイリーに堪えきれなくなり、イーサンはハグをした。
「離れても忘れないよ。……いつか、とびきりのいい女になったおとなのカイリーに再会できることを祈ってる」
「イーサンも……ニューヨークのビジネスマンになった、かっこいいイーサンにいつか会えるって信じてるわ。元気で」
「ありがとう。カイリーも、元気で」
頬にキスをし、傘を手にカイリーが帰るのを見送って、中へ入ろうとしたとき――ああやっぱりと、イーサンは降ってきた雨に顔を顰めた。
オレオ、オレオ。俺たちはもう明日行ってしまうよ――心のなかでそう話しかけながらイーサンは、オレオがどこか雨風の凌げるところにいますようにと神に祈った。