ベッドのヘッドボードの上にはフォール・アウト・ボーイやマイ・ケミカル・ロマンスのピンナップといっしょに、ジャパニメーションらしいなにかのポスターが貼られていた。デスクには友人たちとの写真やファッション雑誌の切り抜き、そして縁にハートのシールが貼られた鏡と綺羅びやかなメイクグッズ。
ごてごてと飾りつけられた、いかにも十代の少女らしいポップな部屋で、イーサン・デッカーはガールフレンドのカイリーを椅子に押しつけるように縫いとめていた。
勉強なんか捗るはずがなかった。そもそもやるつもりがあったのかどうかさえ疑わしい。一緒に勉強しようなんて、部屋に入れてもらうための口実でしかない。そんなのは冷めたチーズが硬くなるくらいに明らかなことだった。
カイリーと付き合い始めたのは今年の夏からだ。彼女と並んで自転車を押し歩く、ハイスクールからの帰り道。少しでも長く一緒にいたくて公園に寄り道し、フードトラックでブリトーを買って、半分ずつ食べてコーラを飲んで。それから彼女の家まで送ってきたが、やっぱりまだ帰る気がしなかった。
彼女もなにか云いたげにもじもじとして、なかなか家の中に入らなかった。意味ありげな笑みを浮かべて顔を見合わせ、今から勉強? 俺もしなきゃ。じゃあ一緒に? うん、勉強しよう。と、そんな感じでイーサンはカイリーの部屋に寄っていくことになった。お互いの家にはもう何度か行き来していたし、自分たちが付き合っていることはどっちの親も知っている。
けれども部屋で勉強以外のことをするのは、さすがにこっそりとだった。
在宅だったカイリーの母、ヘザーが、一度だけコーヒーとクッキーを持って
ノートを開いたのはいつでも勉強をしている振りができるようにするためで、実際にしていたのは数えきれないほどのキスだった。何度も何度も角度を変え舌で深く口内を探りながら、イーサンはカイリーの腰を抱いていた手をTシャツの裾の中へと忍ばせた。背中を辿った指先が小さなホックを探り当てると、身を離そうとするようにカイリーがイーサンの肩をぐっと押してきた。
「ん……だめよイーサン。
「大丈夫だよ、もう来ないさ」
「だめ。ストップ」
彼女に止められ、イーサンはしょうがなく手を引っ込めた。下がって坐り直すと椅子ごと移動し、はあ、と息をついてすっかり冷めたコーヒーを飲む。
「夜は? 出られない?」
「無理よ。パパが許さない」
やれないならしょうがない、と思ったわけではないが、そろそろ夕飯だと彼女が云ったタイミングで、イーサンはじゃあ俺も帰るよと腰を上げた。
部屋を出、キッチンを覗いておじゃましましたと声をかけ、玄関へ。カイリーも見送りについてきてくれた。
「イーサン――」
じゃあまた明日、とドアを開けたとき、カイリーが名前を呼んだ。振り返ると、カイリーは照れ隠しなのかちょっとおどけたポーズで「……ううん、なんでもない。また明日ね」と微笑んだ。
もう一度軽いキスをして、イーサンはカイリーの家を後にした。