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選択 -Rhythm of the Rain/Crying in the Rain-
烏丸千弦
現実世界現代ドラマ
2024年11月06日
公開日
17,377文字
完結
舞台はアメリカ、ボストン郊外。同じハイスクールに通うカイリーと付き合う、青春真っ只中のイーサン。
ある日の夕食時、父がニューヨークへ転勤することが決まったと話し始める。栄転と聞き、へえ、おめでとうと他人事のように返したイーサンは、家族みんなで引っ越すつもりだと云われ、猛反対する。
おまけにマンハッタンの高層マンションに飼い猫のオレオを閉じ込めるのは可哀想だと、母はオレオを誰かに頼んでいくと云う。弟のように思っている大切なオレオを置いていくなんて、とイーサンはますます反発し、自分だけボストンの家に残ると云い張る。

だが、父も母もそんなイーサンの気持ちなど二の次、おとなの都合のいいように言い包めようとするばかり。自分は絶対ニューヨークへなんか行かないと、ますます意固地になるイーサンだったが、カイリーは留学が決まった、日本へ行くとイーサンに打ち明ける。
残りたいいちばんの理由を失い、とうとう自分もニューヨークへ行くよと折れたイーサンだったが、気がつくとオレオの姿がどこにも見当たらなくなっていて――。

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※【ステキブンゲイ】【pixiv】でも公開しています。
※ 本作品収録のオムニバス短篇集〈 10 Love Songs and Stories -君を想いて-〉は【カクヨム】【pixiv】にて公開しています。
※ 作者は未熟です。加筆修正については随時、気づいた折々に断りなく行います。が、もちろんそれによって物語の展開が変わるようなことはありません。
※ この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

scene 1. A Teenager in Love

 ベッドのヘッドボードの上にはフォール・アウト・ボーイやマイ・ケミカル・ロマンスのピンナップといっしょに、ジャパニメーションらしいなにかのポスターが貼られていた。デスクには友人たちとの写真やファッション雑誌の切り抜き、そして縁にハートのシールが貼られた鏡と綺羅びやかなメイクグッズ。

 ごてごてと飾りつけられた、いかにも十代の少女らしいポップな部屋で、イーサン・デッカーはガールフレンドのカイリーを椅子に押しつけるように縫いとめていた。

 勉強なんか捗るはずがなかった。そもそもやるつもりがあったのかどうかさえ疑わしい。一緒に勉強しようなんて、部屋に入れてもらうための口実でしかない。そんなのは冷めたチーズが硬くなるくらいに明らかなことだった。


 カイリーと付き合い始めたのは今年の夏からだ。彼女と並んで自転車を押し歩く、ハイスクールからの帰り道。少しでも長く一緒にいたくて公園に寄り道し、フードトラックでブリトーを買って、半分ずつ食べてコーラを飲んで。それから彼女の家まで送ってきたが、やっぱりまだ帰る気がしなかった。

 彼女もなにか云いたげにもじもじとして、なかなか家の中に入らなかった。意味ありげな笑みを浮かべて顔を見合わせ、今から勉強? 俺もしなきゃ。じゃあ一緒に? うん、勉強しよう。と、そんな感じでイーサンはカイリーの部屋に寄っていくことになった。お互いの家にはもう何度か行き来していたし、自分たちが付き合っていることはどっちの親も知っている。

 けれども部屋で勉強以外のことをするのは、さすがにこっそりとだった。

 在宅だったカイリーの母、ヘザーが、一度だけコーヒーとクッキーを持って階上うえにあるカイリーの部屋までやってきた。だが、そのあとはずっとふたりっきりだった。

 ノートを開いたのはいつでも勉強をしている振りができるようにするためで、実際にしていたのは数えきれないほどのキスだった。何度も何度も角度を変え舌で深く口内を探りながら、イーサンはカイリーの腰を抱いていた手をTシャツの裾の中へと忍ばせた。背中を辿った指先が小さなホックを探り当てると、身を離そうとするようにカイリーがイーサンの肩をぐっと押してきた。

「ん……だめよイーサン。階下したにママが――」

「大丈夫だよ、もう来ないさ」

「だめ。ストップ」

 彼女に止められ、イーサンはしょうがなく手を引っ込めた。下がって坐り直すと椅子ごと移動し、はあ、と息をついてすっかり冷めたコーヒーを飲む。

「夜は? 出られない?」

「無理よ。パパが許さない」

 やれないならしょうがない、と思ったわけではないが、そろそろ夕飯だと彼女が云ったタイミングで、イーサンはじゃあ俺も帰るよと腰を上げた。

 部屋を出、キッチンを覗いておじゃましましたと声をかけ、玄関へ。カイリーも見送りについてきてくれた。

「イーサン――」

 じゃあまた明日、とドアを開けたとき、カイリーが名前を呼んだ。振り返ると、カイリーは照れ隠しなのかちょっとおどけたポーズで「……ううん、なんでもない。また明日ね」と微笑んだ。

 もう一度軽いキスをして、イーサンはカイリーの家を後にした。

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