「なんで…なんで、私が、なんで……なんで!」
顔を歪め、茜は僕に何度も同じ事を叫び続ける。自身に起きた現実を、茜は認められていないようだった。
「なぜ? 君が美しいからだ。君は、自身の美しさを少しは自覚すべきだ」
それに対し、僕は当たり前の答えを当たり前のように返す。
僕にとって、それは愚問だ。
「この君と僕だけの狭い世界で、その美を独占し、保全したい。だが、そのためには膨大な時間と手間がかかる。そんな中、君を僕の支配下に置くため、仕方のないことなんだ」
僕は茜が欲しい。けれど、茜はそれを拒む。僕を拒絶し、僕から逃れようとする。
だから、僕は茜がそうできないように躾をした。僕の従順な少女となるように。
これから膨大な時間を過ごす中、彼女が僕の元から逃れる可能性……手足を排除した。ただ、それだけの事なのだ。
「その身体では、ここから逃げ出すことも、満足に日常生活を送ることもできない。つまり……誰かの助けがなければ、君は生きることすら困難」
「…………っ!」
茜の顔から血の気と生気が一気に引いていく。彼女は、もはや彼女一人では生きられない程の欠陥を抱えているのだ。
四肢を失い、代わりに美しい人形の四肢を与えられた。
しかし、いくら外見が美しくても、機能としては血も神経も通わない偽りの四肢。彼女は打ち込んできた陸上どころか、自身の足で歩く事も、生活する事すらできないか弱い存在。
そして、そのか弱い茜がここで生きる為の方法……それは一つしかない。
「つまり、君は僕の機嫌を取り、喜ばせなければいつ餓死してもおかしくないという事だ。死にはしなくとも、それに限りなく近い苦痛を与えることだってできる」
皮肉な事に、毛嫌いしている僕に頼らなければ、彼女は生きる事すらできない。食事、入浴、排泄……全てにおいて僕の介助が必要になる。
生きていく為、茜は僕を受け入れるしか無い。
「……嫌、嫌……帰して、お願い……お願い、高城くん、お願い……」
「子供みたいに駄々をこねても無駄だ。この現実は、誰にも変えられないのだから」
涙を流し、首を壊れたように横に降る茜。それを僕は優しく抱きしめながら髪を撫でる。
「僕の元から、無事に逃れることなんてできないんだよ、茜。君が、生きる為には僕に従うしかないんだ」
茜が僕を拒む時、それは茜が死ぬ時だ。