「どうだい茜、新しい身体は。今はまだ不便もあるだろうが、すぐに……」
ボルトで接合した傷口が癒えれば、ある程度の痛みは和らぐだろう。
だが、茜は納得してないようだ。茜が不満を向けているのは、そんな事ではなかった。
もう涙すら枯れてしまったのか、目を虚ろに開いて度々嗚咽を漏らすだけの機械のようになってしまっていた。
「なんで……こんな事、なんで……」
「はぁ、何度も同じ事を言うのは好きじゃないと言っただろう? 僕は君を……」
美しいものを、美しいままの姿で保全したいと。それは人として当然の心理ではないのか。
だが、茜はそれを理解しようとしない。自らの美が、どれだけの価値を持つ芸術であるかをまるで理解していない。
「もう嫌……嫌嫌嫌……ッ! お父さんっ、お母さん……っ」
茜が柄にもなく癇癪を起こす。ただ自分の意思で動かせるのは胴体と首のみ。人形の手足は、球体関節からキシキシと虚しく音を立てるだけだ。
「何を嘆く事がある? 君は途上ではあるがこうして永遠の美の一歩を踏み出したのだよ?」
今の茜は、もう人間とは呼べない。胴体から作り物の無機質な手足を生やした生き人形の途上品。
その姿を、茜は歪と嘆く。
「陸上どころか、友達と、好きな人と……並んで歩いて、手を繋ぐことすらできないこんな身体……」
「君がそんな事をする必要はないから、その身体を与えたんだ。心配無い、君はここで、僕と永遠に二人で……」
そんな事を茜がする必要がないんだ。君は、ただ僕の隣にいればいい。
そして、その手足は僕が好む体制を保ち、好きに僕が動かす為の施し。君の意思で動かす必要なんてないんだ。
「……っく」
茜は鬼の形相で僕に飛び掛かろうとする。だが、手術台から僕に飛び掛かるどころか、茜は勢い良く手術台から転げ落ちる。
「もう、君の意思で僕を殴る事も出来ない。分かるかい、今の君の無力さが」
四肢に力も入らない茜では、自力で起き上がる事すらできない。そう、彼女は無力なのだ。
「許さない……絶対に許さない……ッ!」
「許す必要も、許される必要もない。君は、ただその美しい姿を保って僕の隣に居てくれればいい。君が美しい限り、僕は君を守ると約束しよう」
彼女に力も自由も必要ない。ただ、その美しさで僕を魅了してくれればいい、永遠に。