茜の桜色の唇を縫い付ける歪なワイヤーの隙間に、無機質な管を通し、それを喉奥にまで強引に詰め込む。
茜は何度も苦しそうに嗚咽を漏らすが、それでも強引に管を胃の内部にまで押し込む。これで食事の準備は整った。
「さぁ、食事の時間だ。遠慮する事は無い、君にはその美しい姿を保ってもらわなければならないのだから」
生物である以上、茜の美しさを保つには栄養摂取が必要だ。やがてそんな必要も無い高尚な存在に茜を押し上げるのは僕の役目だが、それまでは茜には十分に栄養を蓄えて貰い、美を保ってもらう必要がある。
「がっ……あぁッ……」
強引に喉奥に管が押し込まれ、茜が呻く。
例え茜が苦しもうが、構わない。茜自身が茜の美を否定する事は、この僕が許さない。
それに、食事の内容だって特別製だ。咀嚼を必要としない流動食を用意したのだが、単なる流動食ではない。
「さぁ、しっかり味わうんだ。舌を絡ませ、内容物の一つ一つの味を覚えながら」
僕の言葉と共に、茜の喉奥に無造作に流動食が注ぎ込まれる。
「おっ……あッ……」
茜の様子など最早目に入らない、これは家畜に餌をやる単なる作業なのだ。家畜の餌やりで家畜に気を使う必要は無い。
「どうだい? 味はいまひとつかもしれないが、栄養に関しては申し分ない。たったこれだけの注入を日に一度行うだけで十分な栄養補給ができる」
お世辞にも美しいとは言えない粘度の高い嘔吐物を混ぜ込んだような流体が、茜の細い食道に流し込まれている。
「がッ……ァ」
そして、胃に入ったそれは消化され、やがて茜の身体を構成する。僕の愛が、茜を構成する。
「栄養だけじゃない、僕の想い……愛も詰まっている。君の身体の中に、僕の一部を宿してもらいたい。だから……その中には、僕の色々な成分を抽出し、多く混ぜ込んである。それが何かは……あまり聞くべきではないと思うけれど」
その醜悪な流体には、考えられる全ての手段で抽出した『僕の体の成分』を含まれている。
その僕の身体から抽出されたあらゆる成分が、茜の血と肉となる。僕を礎に、茜という存在が組み立てられていく。
一方、強引に流し込まれる流動食に、茜は嗚咽を漏らし続けていた。
自分が今、何を食わされているのか、茜は知る余地も無い。汗、血、排泄物、精液……考えれば、幾らでも嫌な想像はできるだろう。
そして、それらは茜の体内に流し込まれ、血となり肉となる。茜の身体を間接的に支配した様な、不思議な感覚に支配された。
「おっと、出されたものは全て残さず食べるんだ。僕が丹精込めて作った料理を無駄にする様な事をすれば、また罰を受けることになるのは分かるだろう?」
「うっ……ぐ……えっ」
茜自身も既に僕によって与えられる罰の重さを身を持って実感している。だからこそ、僕に逆らう事は極力避けようとしている事は分かった。
だが、もう限界を超えていた茜は唇に食い込んだワイヤーの僅かな間から吐瀉物を漏らす。しかし、ほとんど口の塞がれた状態での嘔吐は自殺行為だ。茜の喉元を、大量の吐瀉物と流動食が塞いでいる。
「おっと、そのまま嘔吐すれば窒息するぞ。頑張れ茜、飲み込め、飲み込め! 僕の愛を飲み込め! 受け入れろ!」
喉元までせり上がった吐瀉物を吐き出せない以上、再び流動食と共に胃に戻すしかない。僕の愛と共にだ。
「さて、どうする茜。僕を受け入れるしか、君に生きる道は無いんだ」
自身の吐瀉物で窒息する寸前、茜は僕の愛を受け入れるしかないのだ。