「うっ……う」
茜の口を縫い付けてから約二日。傷口の血も固まり始めていた。
少しずつだがワイヤーに茜の肉が馴染み始め、違和感も徐々に薄れているはずだった。
だというのに、茜はこの二日間泣きっぱなしだ。手の拘束を解いてやり、少しだが自由にもなれたというのに、茜は自らの口元に触れる度に大粒の涙を流し、嗚咽するのを何度も繰り返している。
茜は何故泣いている? 僕には理解が到底及ばない。分からない。
「おいおい、泣くのはおかしいだろう。僕は君が間違いを犯したから罰している。正当な理由の下に君を罰し、正している。君を正しい道を導くためにね。なのに、何故泣く? 何が気に入らない?」
自ら罪を犯し、罰を受ける。人として当たり前のことじゃないか。
茜は僕を口汚く罵り、僕を傷付けた。だから、僕は茜に罰を与えた。この図式に、全く間違いなど無い。
なのに、何故茜は自分だけが損をし、被害を受けたような態度で涙を見せる? 僕を加害者の様な目で見る?
僕にとって茜の態度は全く理解不能、理不尽でしかなかった。
「残念だが君はあまり利口ではない。だから、反射的に善行と悪行の分別ができるよう、身体に直接教え込んでいる。多少の痛みが伴うのは致し方ない事なんだ」
痛みは人体にとって最も刺激が強く、鋭利な感覚。それも用いて教育を行うのが最も効果的なのだ。
君がもう少し利口ならこんな事もせずに済んだけど、そうはならなかった。だから、仕方の無い事なんだ。
「っ……う」
しかし、茜の目は僕を恨めしそうに捉えたまま。僕の理屈をこれ以上、彼女に語っても無駄なようだ。残念だが茜は、僕の当初の予想以上に頭が悪いようだから。
「……僕は君に非難される覚えなんて無いのに、何故そうも僕を恨めしそうに睨みながら涙を流す? 君が僕に怒っている意味が、分からないんだ」
痛みを与えたから、痛みを与えられる。人はそうやって生きるものだろう。そうやって、学んで生きていく生き物。その仕組みすら理解出来ない、それは家畜と同じくらいに低俗で、愚かだ。
今の茜は、家畜にも等しい愚かな存在。
「……まぁいい。愚かで、低脳で、卑しい君でも僕は許そう。これから僕が君を造り替えていけば良いだけ話だ」
だが、今はいくら惨めで愚かでも構わない。これから、何十年と歳月を用いても、僕が彼女を作り替えるのだから。それが僕の責任なのだから。
その為ならば、僕はどんな事だってやってみせる。茜の愚かな面を目にする度に、僕の身も更に引き締まる。
「その為にも僕は何事においても手を抜かない。例えば、食事にも細心の注意を払う。やがて君の血となり肉となるのは与えられた食事だ。だからこそ、僕が君の為だけに考案した特製の料理で、寸分の狂いもなく僕の望む通りに君の血と肉を造り替えよう」
食事の僅かな素材の一つにも茜への想いを込める。
それも、僕の彼女への愛の形の一つなのだから。