拘束を解き、手術台代わりのベッドで安らかに眠る茜に麻酔薬を打ち込み、痛覚を麻痺させる。
眠っているとはいえ、痛みで目を覚まして暴れられても面倒だし、せめて、意識のない中、痛みも無く施してやりたいという僕なりの気遣いだ。
そして、それと同時に目覚めた時の茜の反応を見たいという悪戯心も芽生えていた。
「君が口の利き方を覚えるまで……この唇が開く事はないだろう」
茜の桜色の柔らかい唇に触れ、僕は呟く。
施しと言っても単純明快。物理的に茜の口を塞いでしまえば良い。
現状、彼女の口から出るのは僕を罵る汚い言葉ばかり。ならば、罰も兼ねて茜から言葉次第を奪ってしまえば良い。
僕を罵る口なんて、開かない方が良いんだ。
僕は茜の薄い桜色に彩られた唇に針を向け、無心で無数の穴を開けていく。
唇の肉に鉄製ワイヤーが容赦なく突き刺さるたび、破れた肉から鮮血が流れてくる。
更に肉を押し広げ、ワイヤーで唇を貫通させ、上唇と下唇を交互に縫い合わせていく。
茜の唇に無骨なワイヤーが食い込んでいくたび、僕は言い表しようもない高揚感に満たされた。
本来ならこれは茜を律するための罰なのだが、その罰を受ける茜すら美しい。
「茜、しっかりと反省して、その身で僕の喜ばせ方を覚えるんだ、いいね?」
茜を励ます様に語りかけ、僕は唇から溢れる茜の鮮血を舐め、喉を潤しながら作業を夜明けまで続けた。
「っ……ふぅ」
施しが終わり、茜が目を覚ましたのは昼過ぎだった。
無機質なワイヤーの間から、茜の息が微かに漏れる。
「やぁ、目が覚めたかい? もう昼だ。君も僕も随分と長い間眠っていたようだね。無理もない、君も僕もも疲れているんだ。それに、時間は無尽蔵にあるんだ。まだ眠りたければ、眠ればいい」
僕の優しい声掛けも虚しく、目を覚ました茜は、僕の言葉など全く耳にしていなかった。
口元の痛みと違和感を感じ、恐る恐る口元に拘束を解かれた手をやる。
「ん……んっ……ッ」
唇に開いた痛々しい穴から乱暴に縫われた鉄製の極細ワイヤー。
茜が必死に声を上げようとしても、虚しくワイヤーの隙間から吐息が漏れるだけ。
「なんだい、赤ん坊みたいに喚いて。罵詈雑言の次は下品な呻きだなんて、もう少し上品に振る舞えないのかい茜」
茜はようやく自身の口が残酷にも縫い合わされてしまった事実を理解し、痛みによるものなのか目に涙が浮かぶ。
「んーっ! ぅー!」
金魚の様に必死に口を開こうとする茜。だが、開こうとする度にワイヤーが唇に食い込み、ワイヤーが通っている唇の穴が広がる。
「あまり無理に動かさない方が良い。君も、自分の唇が引きちぎれるところは見たくないだろう?」
既にワイヤーが通っている穴が広がり、桜色だった茜の唇は生々しい紅色に染まり始めていた。
「僕も悩んだんだ。躾とはいえ、君の桜色の薄い唇に無数の穴をこじ開け、そこから鉄製のワイヤーを通して文字通り口を縫ってしまう事は、果たして正しいのだろうかと」
自分でやっておいておかしな話だが、痛々しく、可哀想な茜。
だが、最終的に茜の美を保全するための必要経費だと考えれば、問題無い。
今の不完全な茜の身も心も壊し、その後で僕が再び理想の茜を造り出そう。
「けれど、物理的に口を塞いでしまえば、昨夜の様な汚い言葉も吐けない。可哀想だが、僕を不愉快にさせた罰だ」
茜はこれだけの痛みを与えられるだけの罪を犯した。僕の心に同じだけの痛みを与えた。だから、当然の施しなんだ。
君が僕の求める姿になるための施し。
「う、ぅ……っ、う」
茜は口を塞がれうまく泣けない。嗚咽混じりに涙と涎を垂らす茜の姿に、僕はまた新たな興奮と感動を覚えた。
こんな彼女を見たのは、世界できっと僕が始めてで、きっと僕だけ。
そして、僕がそれを仕向けた。
「けれど、僕も鬼じゃない。君が改心したと判断すれば、その口のワイヤーも取り外して、また君と言葉を交わそう。次は……君から悪口ではなく、もっと心地良い言葉を聞けるように……ね」
僕は茜の頭を撫で、頰に口付けをする。茜は、震えていた。
それが不快感によるものか、それとも恐怖によるものかは分からなかったが。
ただ、これだけは分かって欲しい。僕は、僕だけの茜を見て、感じたい。それだけの話なのだ。
僕だけに見せる、僕だけの茜を。