目を見開き、涎を垂らしたまま意識を失った茜。身体には力は入っておらず、手足もだらんと投げ出されたまま。
気付いた時には、もう茜は意識を失っていたのだ。死んでいないのは確かだが、その姿は糸が切れた人形だ。
「僕としたことが、つい感情的になってしまったね」
感情に任せ、茜を絞殺するところだった。いくら彼女を僕好みに再教育するために必要な行為だとはいえ、殺してしまっては意味がない。
彼女は大切な唯一無二の素材。その素材を元に茜を新たな姿に造り替えるのが目的なのだから。
幸い、首筋には痣などは残ってはいなかったが、僕は無意識のうちに物凄い力で茜の首を締めていたようだ。茜の苦悶の表情がそれを物語っていた。
僕は彼女の目を閉じてやり、口元も綺麗に拭き取ってやり、気を失った彼女の表情を整えてやった。美しい。
「だが、こうして眠っていると先ほどまでの君が嘘の様だ。こんな手荒な手段になってしまったが……」
僅かな歪みも無い茜の表情に、僕は目を奪われる。
先程までの、鬼の形相で僕を罵詈雑言、責め立てる表情とは全くの別物。芸術品のような、気品の漂う美しさに、僕は目を奪われていた。いつまでも眺めていられる。
「すまない、茜。こんな真似はこれで最後にするよ。次からはこんな真似をする必要が無いよう、僕が手を打っておく。これも……僕の役目だからね」
だからこそ、こんな美しい茜の表情を二度と崩したくない。
けれど、また茜が僕を罵れば、僕は今度こそ感情に任せて茜を絞め殺してしまうかもしれない。他の人間からなら無視できても、茜が僕を罵る事は許せない、許してはならない。
だって、茜は僕を愛すべき存在でなければならないから。
だから、そんな危険が起こらぬよう、事前に手を打っておくべきだろう。もう、僕自身が彼女の首を絞め、苦しめる必要の無いよう、手を打っておこう。
そして、茜が目覚めたときには何の心配もかけぬよう、早急に施そう。
「僕を罵るだけの口なんて、いらないんだ。だから茜、君の口は暫くの間は……要らない」
僕はガレージ内から予め用意しておいた麻酔薬、針、鉄製ワイヤーを持ち出し、僕は茜にある施しを行なった。