「ぁ……あ……ッ」
首を絞められ、茜の般若のような怒りの表情は徐々に苦痛へと変わっていく。
白く細い首筋に僕の野太い指が食い込んでいく様に僅かな興奮を覚えるが、それ以上に茜があんな醜い表情浮かべる事に衝撃を覚えていた。
「ぁ……あっ……」
だが、僕のこの腕の力加減で、茜の表情を操作していると考えると、それもまた堪らなく心地の良い事実だ。
「やめてくれ……茜が、茜の口から……そんな汚い言葉、聞きたくない」
彼女の美しい肉体を傷付ける、それは僕にのみ許された特権。
だが、やり過ぎてはいけない。食材が駄目になってしまえば、出来上がる料理の出来にも当然、影響する。食材にも細心の注意を払ってこそ、一流の料理人というもの。
しかし、僕にとって今の茜では、三流以下。食材としての質は高いのだが、加工の仕方が悪かったのか。
だから調理の前に、腐った部分を切除し、僕なりに再度の加工をする必要があるのだ。
その加工の有無は、料理の出来にも大きく影響する、極めて重要な事象。
壊してでも、茜を守る。
(高城君……悪いんだけど、もう少し離れてくれない?)
(うわ、高城の隣とか最悪……)
(気持ち悪い、臭い)
(死ね)
(何で生きてるの?)
(何でこんなこともできないの?)
僕の中で、過去に幾度も三流以下が僕に投げかけて来た言葉が反響する。
三流以下が、三流以下の言葉を投げかけてくる。そんな事はどうでもいい。僕にとって、今更そんなものは傷にも、痛みにもならない。
けれど、茜。君のような一流の才を持つ材が、三流の真似ごとで安易に言葉を吐き、格を落とす事は、耐えられない。許されない。
「君は、人の悪口なんて絶対に言わないとても良い子だって皆が褒めていたよ。なのに、駄目じゃないか、そんな口を聞いちゃ、なぁ」
茜が一流の材料である事は確信していた。だからこそ、君自身が君自身の格を落とすようなことがあってはならない。
もし、それでも君が三流に身を落とすのなら……僕は君を、廃棄しなければならなくなる。
ようやく見つけた僕に相応しい一流の材料。それだけは、何としてでも避けたい。
「ぁ…………」
目からは涙を流し、口元からはだらしなく涎を垂らす茜は、僕の言葉を理解できているだろうか。
けれど、こうして身体に直接、教えてあげているんだから、僕との主従関係くらいは理解できて貰わないと困る。茜は、本当は賢い子なんだから。
「駄目だよ。口を開けばまた、汚い言葉を吐くんだろう? 僕の美しい茜を汚す様な事をされるくらいなら……このまま絞め殺したって構わないんだ」
腐ったものを放置すれば、他のものまで腐らせてしまう。そうなる前に、早急な対処が必要だ。
だから、僕はこうして茜の首を絞め上げ、心苦しいが茜を苦しませている。ごめんね。
「君はもう少し自分の立場を理解した方がいい。その気になれば、僕は君をどうとでもできるんだ。こんな風に……抵抗できない君を殺す事だって、容易いんだ」
辛い、苦しい、悲しい……僕だって。けれど、君がいけないんだ。
あまり、僕を失望させないでくれ。お願いだから……茜。
……それから、どれくらいの時間、茜の首を絞めていたのだろう。
僕が我に返る頃には、茜の意識は完全に途絶えていた。