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第5話 聖処女と牢獄

 すぐに気を失った茜を車に担ぎ込み、自宅のガレージを目指した。

 深夜の道路を爆走し、スピード違反、信号無視も諸共せず自宅へ急いだ。一刻も早く茜の肌に触れたい。一刻も早く茜と同じ部屋で、同じ時を共有したい。そんな思いばかりが僕の中では先行していたのだ。


 自宅に着くころには午前三時を過ぎており、近所の住民に目撃される危険性も低かった。

 ガレージに車を駐車する頃には茜の意識を朦朧とだが回復していた様で、顔を隠した僕に目をやりながら震えていた。見知らぬ男に突然、誘拐されれば無理もない。

 僕は口を封じられている茜が可哀想になって茜の口元のタオルを解いてやる。

 震えた唇からは、小さく弱々しい声が漏れた。


「助けて……お金なら、払います。だから……」


 涙ながらに助けを求める茜。小動物のように怯えるか弱い茜は、とてつもなく弱々しい。

 か弱い茜をこうして恐怖させている事に改めて胸が痛む。けれど、これは茜の美しさを保全するためには不可欠な事なのだ。こんな手段でしか君を連れ出せなかった僕を許して欲しい。


「どうして、何も言ってくれないんですか……」

 顔を隠し、ただ視線だけを茜にやる僕に茜は恐る恐る聞く。

 茜の問いに、僕は一切答えなかった。何故なら答える必要など最早無いからだ。

 茜はあの時、僕の言葉を否定した。茜が僕の言葉を理解できないというのは、すでに分かっているのだから、彼女の問いに耳を傾ける必要も、答えを与える必要も無いのだ。


 茜の共感も賛同も必要ない。ただ、淡々と非情に僕は僕の役目だけを果たせばいいのだから。


 君は、僕にとっての『理想の聖処女』となってくれれば、それで良い。

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