薄暗い部屋の中、可憐な少女が啜り泣いている。
「あなたは、何なの……?」
少女は目の前に立つ僕を見上げて、悲鳴のような声で問う。
「教えて……なんで、こんな惨い事を……私に」
「惨い? どこが惨いというのか。僕は君を想うからこそ、君をこの姿に造り替えたというのに」
僕は彼女に惨い事をしたとは思っていない。いや、世間一般では僕の行為を惨いというのかだろうか?
可憐な少女の生身の手足を切り落とし、その代わりに朽ちる事のない美しい人形の手足を接合する行いは、惨いのだろうか。
僕はそうは思わない。今、目の前で醜い生身の肉体から美しく無機質な人形の手足を生やしている彼女は、この世のものとは思えぬほど美しい。
そして、筋肉も神経も通っていない形だけの手足の彼女には自由はない。目の前の美しい彼女は、僕と言う存在を求めなければ生きていけない。僕は、彼女に必要とされているんだと改めて感じる。
その事実を頭の中で何度も反復させ、僕は笑みを隠しきれずにいた。
「君は美しい、だからこそ、生身の肉体から解放されるべき高尚な存在なんだ」
だが、今の彼女ではまだ不完全だ。最終的には彼女の人格を保ちながら彼女を完璧な理想の身体へと造り替える。そのための技術を完成させるには、あと何年、何十年と時間がかかるか分からない。
だから、その間に彼女が俗世間のものに汚されぬよう、僕が彼女を保護したのだ。
だというのに、彼女は目を覚ましてから一向に泣き止まない。彼女を想っての行動だというのに……どうして。
「まだ傷が痛むのかい? すまないね、接合部がまだ馴染んでいないのか、もう少し我慢してくれ、すぐに君の身体にも馴染むはずだ」
きっと接合部が痛むのだろう。切断面にボルトを埋め込んで強引に人形の手足を固定しているから、その痛みで彼女は泣いているんだ。
けれど、人間の身体は案外、馬鹿だから、痛みでも何でもすぐに馴染ませてしまう、心配いらない。
「君が完全な『生き人形』になるまで、もう少し待たせてしまいそうだ。それまで、あともう少しだけその歪で醜い生身の肉体で我慢してくれ」
僕は彼女に対して申し訳ないという気持ちで一杯だった。
なぜなら、彼女を醜い生身の肉体から解放するためには、あとどれだけ時間がかかってしまうか、分からない。それまで彼女の魂を生身の肉体に縛っておかなければならないのだから。
僕はただ、欲しかっただけなんだ。僕の言う事には一切逆らわず、全てを受け入れてくれる完璧な肉人形。
だが、そのためには色々と修正点が山積みだ。少女の美を永遠に保ち、その心を僕のモノにし支配する。
その為ならば、僕は彼女の生身の肉体も純潔の心も、壊す事を躊躇わない。