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最終話 劇薬

 それから、真理亜に対する村人からの仕打ちは残酷なものだった。祖父と共謀し、村を欺いたペテン師として、真理亜は酷い迫害を受けた。 

 御池家全体も大きな打撃を受け、村で御池家や真理亜を崇めるものなど誰一人としていなかった。

 その異様な外見から、真理亜は『芋虫』と蔑まれ、村人たちの目を避けるかのように村の端にある小屋でひっそりと暮らす日々を送っていた。


「真理亜、もう外に出るのは止そう。君が辛いだけだ」

 外から帰宅し、顔に大きな傷を作った真理亜に対し、真理亜の叔父であり元側近の『源氏』が忠告する。御池家の中から、唯一真理亜を見捨てず、今もなお彼女を守り続けている。

 だが、それは側近としてではなく、叔父として。

 手足を失い、自立もできない真理亜は源氏が付き添いでの散歩を唯一の楽しみであり、何度村人たちから汚い言葉を吐かれ、石を投げられようがそれだけはやめようとはしなかった。

 今日は村でたった五人の子供のうちの一人……真理亜が産んだ子共に石を投げられ、負傷した。

 子供たちには母親が真理亜だとは知らされず、他の家に引き取られて生活している。

「大丈夫よ、叔父様。ちょっとした掠り傷だもの。痛くなんてない」

 しかし、真理亜は笑顔だった。『子宝の儀』で授かった実の子供に石を投げられようが、村人たちから迫害を受けようが、もう何も怖くない。

「今は、叔父様が……特別な人が、私を愛してくれている。それだけで、私はもう……幸せ。だから、こんな傷、痛くもないから……」

 真理亜は多くの村人たちからの信頼を失った。

 だが、それと同時にかけがえのない、『唯一無二の特別の人と過ごす幸福』を知った。

「多くの者から愛されなくていい。ただ、特別な一人が私を愛してくれれば……」

 そう言いながら笑う真理亜を、源氏は優しく抱きしめた。


 その一方で私、火村 秋乃は同じ村の仲であっても真理亜とは対極の位置に存在していた。

「秋乃……もう、東京に帰ろう。こんな村に君が縛られる必要なんて」

「あら、嫉妬しているの? 『子宝の儀』で、私が他の男に抱かれているから……」

 今夜の『子宝の儀』に備え、深紅の着物を身に付ける私に、夫の文也がそう言ってきた。

 あれから、子を産めなくなった真理亜に代わり、私がこの村唯一の『苗床』として村の男たちの子を一身に孕む『真理亜の後継者』としてこの村に留まっていた。


 ……私は真理亜の奴隷になると同時に、私は夫・文也の手によって『子宮全摘出手術』を受けたと、そう真理亜には見せかけた。

 手術は実際に行った。だが、それは子宮を摘出するためではなかったのだ。

 あの手術は、子宮に留まっていた『我が子の亡骸』を摘出するための手術。せめて一度だけでも、外の世界を見せてあげたい。その願いを叶えるため、夫が執刀してくれた。

 真理亜の信用を得るため、その手術が子宮摘出のためだと夫にも嘘をつかせた。子を流産して以来、罪の意識に苛まれていた夫は、簡単に真理亜を裏切り、嘘をついてくれた。


 つまり、私は再び子を産める。何度でも、子を産める……『聖母』になる資格を持つ女。


「ああ、そうだ! 俺だけの、俺だけの秋乃に戻ってくれ……頼む」

 迫る夫を軽くあしらい、私は『子宝の儀』に向けての準備を進める。

「それは駄目。だってもう知ってしまったのだもの。多くの者から愛される幸福を。あなた一人の愛なんて、軽すぎる」

 だって、もう戻れるわけがない。真理亜に全てを奪われた私を、村の男たちは求めている。

 私はただ、子供を産むだけの『苗床』なのかもしれない。けれど、この村には私が必要。

 だから、皆が私を愛してくれる、過去の真理亜のように、多くの人間が多大の愛を私に注いでくれる快感を知ってしまったのだから。

「特別な一人……あなたからの軽薄な愛なんていらない。ただ、多くの人間が私を愛してくれれば……」

 今夜も村の男たちから犯され、愛される。夫一人から得られる愛など、今の私には軽すぎるのだ。


 私は、火村 秋乃ではなく、この村の『聖母』として生きる事を決意した。

 対極に位置する私の姿を見せつけ続ける事で、真理亜を一生苦しめ続けるのだ。


 これは、自身の欲の為ならば容赦も無く他人を蹂躙する『劇薬』のように危険で狂った女たちによる、単純明快な復讐の物語。


 この物語は、これからもずっと続いていくだろう。

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