全身麻酔で真理亜の意識を完全に消し去り、手術は翌日の早朝まで続いた。真理亜を私好みの姿に『加工』するには、それでも時間が足りないくらいだったが、あまりやり過ぎると真理亜の生死にも関わる。ほどほどの所で私は手術を終えた。
手術を行うにあたり、御池家の連中を誤魔化すのにも苦労した。真理亜の生死が関わるとなれば、奴らも黙ってはいない。手術室の中にまで押し入ろうとして来たが、なんとか診療所の外で待機させるところまで持っていった。
奴らが手術室の中にいれば、真理亜を私好みに『加工』することができなくなってしまう。真理亜を歪に『加工』することが最大の復讐。誰にも邪魔をさせるわけにはいかない。
手術を終え、『加工』された真理亜を目の当たりにする。
「ふふ……醜い、惨め。あんたの全てを奪ってやった。あんたの人生の全てを……私が、この手で奪ってやった」
村を統括し、崇められてきた真理亜。その彼女の全てを、たった数時間の手術で私がこの手で奪った。その人間を更生する『幸福』など、こうも簡単に奪われ、壊されてしまう。
なんと脆いものなのだろう。その脆弱さに、私は笑いを抑えられなくなる。
「ふふ……目を覚ました時、どんな反応を示すのだろう。ねぇ、真理亜様?」
目を覚まし、自らの姿を目にした瞬間の真理亜の表情を見逃さぬよう、目を凝らして真理亜が目覚めるのを待つことにした。
手術を終えたことを知ると、真理亜に会わせろと御池家の人間が押しかけて来た。しかし、私は目を覚ますまでは面会謝絶だと言って真理亜に会せることは許さなかった。
真理亜の表情が歪み、絶望に染まる瞬間は、この私が独り占めしたかったのだ。
そして、昼頃だろうか。全身麻酔を受けていた真理亜の瞼がゆっくりと開いたのは。
「目が、覚めましたか?」
「……ここは」
診療所の純白のベッドの上で、真理亜が目覚める。
眠り姫が目覚めたかのように、美しい光景。だが、それと同時になんて残酷な光景なのだろう。
「診療所のベッドです。覚えておられないのですか?」
「私、食事の時……急に気分が悪くなって」
彼女は食事中、突然気分を悪くして倒れた。そして、私の診療所に運び込み、手術を行う。
全て私の計画通り。私が、真理亜の全てを奪うための計画通りに事は進んでいる。
「ええ、そこで私がすぐに診療所に運んで処置……いえ、『緊急手術』をしました。その処置の甲斐あって、命にも別状が無くて……良かった」
「手術……?」
私の言葉に、真理亜はようやく自身の身について、違和感を覚え始める。
そして、彼女の顔から徐々に血の気が引いていく。彼女はようやく認識した、私によって自らが『加工』されたことを。
「気付きませんか? ご自分の身体が……どのように『加工』されているのか」
その時、私は真理亜の身体に被せられていた毛布を一気に剥ぎ取る。
真理亜が自分の身体を目にし、声にならないような悲鳴をあげた。
存在しなかった。包帯だらけの身体には、数時間前まで存在していたはずの部位が存在していなかった。
彼女に残されたのは、胴体と頭。
手足を失くし、ベッドに這いつくばる彼女の姿は、まさに惨めな芋虫のようだった。
「誠に残念ですが……『両手足』……そして、『子宮』と『その中のお子様』を切除させていただきました」
ベッドの上で、芋虫のように這う真理亜に対して、私は冷酷に告げた。
「嫌……あ、あ……嘘、嘘……っ、こんなの……う、そ」
「優しいあなたとは違い、私は医師です。不要なものは、切除するのが信条です。ですから、あなたから不要なものを取り除いて差し上げました」
涙を流しながら、真理亜は虚ろな眼で茫然と虚空を見つめる。
彼女は泣き叫ぶわけでもなく、自身に起こった『加工』を現実として受け入れられないような素振りだ。
「あの真理亜様が、たった数時間、私の手によって壊れた人形のように……」
こんな小さなきっかけで、私は他人を『加工』し、作り替えた。
幸福な人間を、不幸にした。それを実感すると同時に、私の心は幸福感と満足感で満たされる。
「ぅ……ぁ……あ」
真理亜は涙とヨダレを無様に垂れ流しながら、ベッドで蠢いている。
こうも簡単に壊れてしまうとは思わなかったが、まだ終わらない。
彼女の全てを奪うためには、まだ終わらない。これからが本番だ。
私は真理亜の髪を強引に引っ張り上げ、耳元で囁く。
「村人たちが真理亜様を大変心配しています。あなたの口から、村人たちを安心させてあげてください。それが……今の無能なあなたにも、そのくらいはできるでしょう?」
真理亜を『加工』し、全ての下準備は終わった。後は、この私の素晴らしき復讐の終劇を相応しい舞台で披露する。そのために、私は誰にも気づかれぬよう、慎重に真理亜を診療所から車で連れ出した。