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第6話 悲劇Ⅱ

 そして、本殿に私は辿り着いた。この障子の向こう側で多くの村人たちの影が蠢いているのが分かった。

 真理亜に呼ばれたのだから、堂々と障子を開けて入っても良かったのだが、儀式とやらの邪魔になるのも気が引けたので、私はそっと障子を開いて隙間を作り、様子を伺うことにした。

 しかし、障子から中を覗くと、そこには想像を絶する光景が広がっていた。

「……な、に……これ」

 本殿は蝋燭のみでは不安定な明かりのみが灯されており、それに加えて甘ったるいお香のようなものが焚かれていた。そして、その妖艶な空間の中には……大勢の裸の男たち。

「一体……こんな所で、みんな……何をしているの」

 裸の男たちは、『何か』を囲う様に蠢めいていた。その歪な光景は、この世のものとは思えない程に醜悪なモノだった。

 そして、蠢く男たちの隙間から、私はその中心にあるものを目の当たりにする。

「ふふ、相変わらず強引ですね。秋乃様にもこんな乱暴しているのかしら」

 その中心には、深紅の着物を脱ぎ捨て、裸体を露にした真理亜が横たわっていた。

 そして、その真理亜と肌を重ねている男。その男は、私にとって最も近しいはずの男だった。

「君にだけさ。愛が深いからこそ、自制が利かなくなる」

 男は……私の夫である文也は、真理亜の髪を優しく撫でながら囁いた。

「あら、秋乃様が可哀想、あんな綺麗な奥様がいらっしゃるのに」

「この村の男は、君を忘れることができない……分かっているだろう」

「ふふ……悪い人ですね、文也様は」

 そう言って、夫と真理亜が唇を重ねる。

 その瞬間、周りの男たちからは歓声が上がる。

 狂っている。そう思わせるような魔力が、この空間には満たされていた。

 私は猛烈な吐き気と目眩で意識を保っていられなくなりそうで、すぐに神社から抜け出した。


 神社からどうやって診療所に戻ってきたのかは全く覚えていない。ただ、猛烈な吐き気に耐えることで精一杯だったのだ。

 気が付けば、診療所の手術台の上に座り込んでいた。

「嫌……なに、あれ……何なの!」

 頭を抱えながら、私は叫ぶ。そうしないと、心と頭が破裂してしまいそうだった。

 なぜ、夫が真理亜と……あの光景が頭を過るたびに吐き気と頭痛が増す。

 とうとう手術台に座っている事すらできず、私は床に膝を着く。

「はっ……は……ぁ」

 吐き気も頭痛を悪化する一方だ。私は朦朧とする意識の中、薬棚を開け、使える薬を探す。

 薬を飲めば、少しは楽になるはず。その一心で霞んだ視界の中に移る薬を一つ一つ手に取る。

「っく……こんな時に限って、どうして見つからないの……っ」

 苛立ちが積もる中、私は誤って薬瓶の一つを床に緒と死してしまう。派手な音と共に中の液体がぶちまけられ、刺激臭が充満する。

「っく……」

 仕方なく私は薬を探すのを中断し、割れた瓶と床に撒かれた液体の処理を行う。途中、刺激臭に耐えきれず、窓を開け換気をしたが、その独特な刺激臭が消えることは無かった。

「一体、何なの……この薬」

 こんな独特な薬品はこれまでの医師経験でも経験したことが無かった。私は割れた瓶をもう一度ゴミ袋から取り出し、そこに記された薬品名を目の当たりにする。

「これって……」

 その薬品は、通常の医療機関ではまず使われることのない代物だった。何故ならそれは……扱いには細心の注意が必要な『劇薬指定の薬品』だったからだ。

「何これ……この村は一体……何なの……」

「おや? こんな夜中にまでお仕事ですか? 精が出ますね秋乃先生」

 薬瓶に釘付けになっていた私は、背後に立っていた村人の存在に気が付く事が出来なかった。

 声を掛けられ、後ろを向いた時には既に十名程の男たちが部屋の入口に立ちふさがっていた。

「何の御用ですか……今日の診察は終わりです。また明日になってから……」

 私の言葉を無視して、先頭の男が部屋に入り込んでくる。

「きゃあっ! やめて、離してください!」

 そして、それに続いて後続の男たちも部屋に押し入り、更に私の身体の自由を奪っていく。

「冷たいこと言わずに、俺たちの相手してくださいよ? 知っているんですよ? さっき、儀式の覗き見していたでしょ。秋乃先生だけ除け者っていうのも可哀想ですし、わざわざ気を遣ってここまで来たんですから」

 男の一人が下衆な笑みを浮かべる。あの時、既に私の存在は認知されていたのだ。

「じゃ、始めますかね」

 男が乱暴に私の衣類を引きはがす。男たちの中から歓喜の声が上がる。

「な、何するんですか!? 自分たちが何をしているのか分かって……」

「何って、『子宝の儀』でしょう。 子を授かるための、神聖な儀式に決まってるじゃないですか」

 私は他の男に唇を強引に塞がれ、さらに激しく抵抗する。

「この村では、子を産める女は神にも等しい。けれど、それと同時に子を産める女には子を産む義務と責任が生じる。それは、村の男たちの子種を一身に受け入れる義務と責任がね」

「子は宝や。そのための儀式を拒否するってことは、この村の発展を否定する事になる……そんな真似、この村にいる限りは許されん!」

 村人たちの声など、私にはほとんど聞こえなかった。

 真理亜の言う儀式、それは『子宝の儀』と称して生殖機能のある女性を輪姦し、懐妊させる儀の事を指していたのだ。

「おら、暴れんな!」

 抵抗する私に、男の一人が腹部に思い切り殴打する。

「……っぁ!」

 声にもならない悲鳴が漏れる。

 私が腹を抑えてうずくまっても、その上から男たちが容赦なく蹴りを放ってくる。

「待って、乱暴にしないでください! お腹に、お腹に子供がっ……」

 しかし、私の声に耳を貸す者などいなかった。服は剥ぎ取られ、強姦に近い形で『子宝の儀』は開始された。


それからは、地獄のような時間が続いた。顔も知らないような男たちから辱めを受け、まるで道具のように乱雑に犯された。

「いやぁ!助けてっ、誰か……っ」

 何度叫んでも助けなど来なかった。暴力と性欲に塗れたこの空間で、私は朝まで犯され続けた。

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