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劇薬
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柘榴
ホラー都市伝説
2024年11月05日
公開日
3.3万字
完結済
『己の愛と欲のため、二人の女は奪い合う』
『一度侵入すれば、全てを容赦なく破壊する。まるで劇薬のように危険で狂った女達の凄惨な復讐劇』

昭和二十五年、終戦後日本は平和に向けての復興に向かう最中。
当時としては異例の天才女医・火村 秋乃は戦争から帰還した夫・火村 文也と共に東京で医師として多忙な日々を送っていた。

しかし、新婚でありながら互いに医師としての業務に追われ続ける東京の生活に嫌気がさした夫・文也は秋乃に対し、自らの田舎である『輪廻村』へ移り住む事を提案し、移住する事となる。

しかし、村には秋乃の想像を絶する狂気が蔓延していた。

『女性の子宮を苗床にし、生殖機能を破壊する奇病』
『奇病により子宮と生殖機能を失った村の女たち』
『唯一、奇病に感染せず、唯一、子供を産める少女・真里亜』
『その少女を懐妊させる風習・子宝の儀』

全ての狂気が秋乃と真里亜、二人の女を巡り合わせ、そして悲劇は繰り返される。

第1話 聖母Ⅰ

 昭和二十五年の秋。私は夫の故郷である『輪廻村』へと足を運んでいた。

 それは旅行や観光ではなく、夫婦揃って東京からこの輪廻村へと移住をするためだ。

「確かに周りには何もないけど、すごい自然ね。東京じゃ味わえない景色!」

 私、火村 秋乃は東京では決して味わうことのできない大自然を前にして子供のようにはしゃいでいた。

 噂には聞いていたが、秋にはこの村一帯を覆う紅葉が村を深紅に染め上げる。

 絵画のように美しいと同時に、その深紅は周辺に血を塗りたくったようにも見えて……私は少し妙な予感を覚えていた。

「だろう? 娯楽は少ないけど、君もきっと気に入るはずだ」

 その様子に、夫である火村 文也も微笑んでいた。

 東京で働き詰めだった頃ではこのような夫婦水入らずの時間も持てなかっただろう。

 だからこそ、私たち夫婦は輪廻村への移住を決意したのだ。

「じゃあ、まずは僕の実家へ行こう。両親には連絡してあるから」

 急な引っ越しだったのでしばらくは夫の実家にお世話になる事となっていた。まずはそのための挨拶に向かうため、私と夫は紅葉の景色を楽しみながら車で先を急いだ。


 私たちは夫婦揃って東京の大病院に勤務している医者夫婦だ。夫婦揃って外科だが、産婦人科の知識もあったため、東京の病院では重宝された。

 この時代、女性の外科医だなんて随分と珍しいけれど、私は実力と実績で医者としての階段を駆け上がり、周囲も徐々に私を認めざるを得なかった。近頃では、そんな私を『天才女医』と呼ぶ声も増えてきている。

 対して夫は医者としては優秀とは言える方ではないが、それでも地道に仕事をこなし続け、今や私と同じ東京の病院に務めるほどまでになった。

 戦争が終わり、日本が平和へと進んでく最中、私たち夫婦を着実に幸福へと進み始めていた。

 東京から離れ、仕事に悩殺される日々からの解放。そして……私に宿った『新たな命』の存在。お腹を摩りながら、期待に胸を膨らませる。

 この日から、私と夫・文也との新たな幸福が始まると、そう思っていたのに……。


 私は、知る余地も無かった。輪廻村で起こる惨劇の未来を。


 それから二十分ほど車を走らせると夫の実家に到着した。夫の実家と言えば随分と堅苦しい家系『火村家』で、私はあまりいい思い出は無かったが、これから新居が定まるまでの辛抱だと思えば、大した問題にはならなかった。

「では、これからしばらくの間はお世話になります。お母様」

 目の前に正座する文也の母・裕子に頭を深々と下げる。私の苦手とする、堅物の怖い姑だ。

「この村にはこの村のしきたりというものがあります。慣れるまでは大変だとは思いますが、これから夫婦でこの村の一員となる事を肝に銘じて頑張りなさい、秋乃さん」

 その一言だけ言い放ち、裕子は部屋からスタスタと立ち去ってしまった。

 最初はこの言葉の意味が分からなかった。しきたりと言っても、軽いものとしか考えなかったからだ。

「はぁ~……緊張した。これから毎日お母様と一緒だと思うと、お腹の子にも悪影響なんじゃないかなぁ」

「まぁそう言うなよ。お袋も内心じゃ秋乃が村に住むって決意してくれて喜んでいるはずなんだから。ただ、素直になれないだけだって」

 夫が私のお腹に手を当て、そこに宿る新たな生命の鼓動を感じようとしている。

 私たち二人の間に生まれた尊い命。この子のためにも、こんなことで泣き言は言っていられない。

 私は、強く逞しい母親になるんだと、改めて心に誓った。



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