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第20話 迷子の発見



「昭唯」

「おや、早かったですね」


 通行人と話し終えたところだった様子の昭唯に、透理は声を潜めて状況を語る。


「――というわけだ。まずは位置も近い三春の保護を」

「わかりました。さすがですね、透理。行きましょう」


 大きく頷いた昭唯を見て、小さく頷き返してから足早に透理は歩きはじめる。一人で走る方が早いし、そうしたい気持ちもあったが、昭唯を置いていく気にはならない。錫杖を手にしている昭唯もまた、透理より遅いとはいえ早足だ。


 こうして最初の通りの井戸の前に行くと、そこにはすすり泣いている三春がいた。


「三春!」


 めったに大きな声を出さない透理が、声を上げて、思わず走り寄った。


「あ……透理、透理!」


 立ち上がった三春が、泣きながら飛びつくように透理に抱きつく。それを抱き留め、片手で己の胸に三春の額を押しつけながら、透理は安堵の息を吐く。


「よかった、無事で」

「……うん」

「ついてくるなんて、無茶なことを……待っていて欲しかった」

「だって透理、もう帰ってこないみたいな顔してたんだもん」

「っ」

「僕にだってそのくらい分かるよ。僕は、透理と一緒にいたかったんだよ……ごめんなさい、ついてきちゃって。だけど、僕はきちんと透理を連れ帰りたいから、ここに来たんだよ」

「三春……ありがとう。ただし着いてきたからには、今後は俺が言わないかぎり、俺から離れるな」

「うん、うん。分かった」


 小さな三春の体を両腕で抱きしめ直し、目を伏せ透理が礼を述べる。

 すると三春もギュッと透理の背に腕を回し返す。

 そこへ昭唯がゆっくりと歩み寄ってきた。


「感動の再会に、私も三春の無事に喜んでいますが、ところ嘉唯は……?」


 昭唯の言葉に、三春が腕を離して、顔を向ける。


「嘉唯、一人でどんどん先に行っちゃったんだよ。僕は待ってた方がいいって言ったら……臆病者は、待ってろって言われた……」

「全く……三春、貴方が正しいですし、貴方は決して臆病ではありません」


 昭唯が呆れたように吐息する。

 居場所自体は、既に透理が調べている。


「バカ弟子を迎えにいかなければ」

「行こう」


 三春の背に触れながら、透理が頷いた。

 そして三人は、そのまま先の大きな通りを目指して歩いていく。

 透理は位置を記憶していたので、先導するように先頭を歩く。その少し後ろを昭唯と三春が並んで歩く。透理は肩の力が抜けているが、昭唯はまだ緊張した面持ちだ。


 少し歩いて行くと、水が湧き出ている不思議なものの前に出た。

 そこで、映像の通り、不思議な髪色をした端整な顔立ちの少年と談笑している嘉唯を見つけた。


「嘉唯」


 昭唯が声をかけると、嘉唯がハッとしたように目を丸くし息を呑み、勢いよく振り返った。


「お師匠様! 見てくれこれ、噴水って言うらしいぞ!」

「そうですか。とてもご機嫌な様子ですね。全く……私達は感動の再会とはいきませんね。後で説教をするので覚悟してください」

「えっ」


 昭唯は笑顔だが、その瞳は冷ややかだ。片手の指でこめかみに触れている。これは怒っている時や疲れている時の仕草だと、透理は知っている。


「そちらは?」

「あ、ああ、リオンだよ。リオン、こっちは俺がさっき話した師匠の昭唯様だ」

「――はじめして」


 にこやかにリオンが昭唯を見る。

 それから何気ない様子で、三春を見て、そうして透理を見た。その瞬間、凍りついたような顔をした。だがそれは一瞬のことで、瞬きをした次の瞬間には穏やかな笑顔に戻っていた。


 ――?


 一瞬睨み付けられたように感じたが、気のせいだろうかと透理は内心で考える。


「俺はリオンといいます。嘉唯とはここでたまたま会って、そうしたら地上から来たと言うから驚いて。どうぞ日高見国を楽しんでください」


 柔和な声音だった。

 己が記録を消してきたことは、不要かつ杞憂であり、寧ろ残しておいて保護してもらうべきだったのだろうかと、透理は思案したが、それでもやはり行動が筒抜けというのは気分がよくなかったので、これでよかったと思うことにした。


「それでは、俺はそろそろ。嘉唯、またな」

「うん! また会おうな!」


 そのようにして、リオンは手を振ってから帰っていった。通りの人波に紛れていくリオンの背を見送ってから、一同は各々を見る。


「まずは私と透理がの宿へ戻りましょう。説教……話はそれからです」

「師匠……お、俺はただお師匠様が心配だっただけで――」

「だとしても、私は着いてこないようにと話したはずですが?」

「……でも」

「『でも』も『だって』もないのです」

「はい……」


 師匠と弟子の会話に耳を傾けつつ、透理は三春の手を握って歩く。

 こうしてゆったりと、狭い子供達の歩幅に合わせながら歩き、全員で、拠点にしようと透理達が決めた宿へと入った。嘉唯が布団に大の字に寝転び、三春は物珍しそうに隠力倉庫の扉を開けている。それを見ながら、透理は冷静な表情で腕を組んだ。


 その眼差しに気づいた昭唯が、隣に並んで立つ。


「残るは、ギオン様に関してですね。いかにして会うか」

「ああ」

「少し調べてみましょうか?」

「そうだな」

「――ただ、明日としましょう」


 三春が取り出したまんじゅうを見て、瞳を輝かせて嘉唯が起き上がっている。


「まずは食事をし、英気を養いましょうか」


 昭唯の言葉に、小さく透理が頷く。

 室内のテーブルの上に食べ物や飲み物を置いて、四人で食べる。いずれの飲食物も美味だった。






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