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第36話

「応急処置だけだと不安になるわね」

「村だとよくあるんだよ。すぐに建て直せるほど若い人が居なかったりすると特に」


 アリアのお願いで家屋の外に出た二人はブルグラップに破壊された外壁に来ていた。

 応急処置でレンガと木の板で穴を塞いでいるが、アリアの言う通り心もとない見た目をしていた。


「一度壊れたところを直しても脆くなってしまうから、結構大変なんだ」

「詳しいわね。フランツも村に居たことがあるの?」

「……ああ。王都で騎士になる前は村で暮らしていたんだ」

「そういえば初めて聞いたかも……」


 困った顔で肩を竦めるフランツにアリアはハッとする。何故なら――


「そう言えば私ってフランツのこと、あまり詳しく知らない……というか聞いたことが無い」

「あー、そうかもしれない。けど、あまり面白い話はないからなあ。君の境遇と比べたら自由だったけど」

「ふうん……でも、聞いてみたいかも」

「ええ? どうしたんだいア……リア。そんなことを言うのは初めてだ」

「うーん……あそこに居た時はフランツが居ればいいと思っていたけど、こうやって追手を撒いて自由に行動できているじゃない? だから考えがクリアになっている気がするのよね」

「へえ……我儘ばかりだったのになあ」

「まあ、そうかも……って、そんな風に思ってたんだ!?」


 急なカミングアウトにアリアが激昂する。そこでフランツが『あっ』っと呟いた後、頭を掻きながら言う。


「いやあ、はは……僕は好きだし、いいんだけどシルファーさん達は大変そうだったなって」

「むう。でも、そうだったかも。みんないい人達だったし、お母様には悪いと思うけどやっぱりあのしきたりはおかしいわ」

「そう、だね」


 聖女のしきたりのことだと瞬時に理解したフランツが言葉に詰まる。この件については罪悪感と恋心の二つがひしめき合うからだ。

 実際、アリアはともかくフランツが捕まれば極刑もあり得る。だからこそ必死で逃げている側面があった。


「逃げ切れると……いえ、絶対逃げ切るわ」

「ああ、もちろんだよ」


 小声でそんな話をしながら二人は決意を新たにしていた。この変装で依頼を受けているのはリスクが高いが得るものはあるはずだと。


「さて、私達のことはいいとして、この壁を破るってことを考えると危険な魔物ね」

「慣れるとそうでもないんだけど、まあ見たらびっくりすると思うよ」

「弱点とかは?」

「えっと……って、戦う気!?」

「知っておいた方がいいんじゃない? 私もせいれ……あの人達に色々と教えて貰っているから。それに戦えた方が『私』だって認識されにくいかと思うの」

「うーむ」


 その言葉を聞いてフランツが少し考える。戦闘をする気になっているのは微妙だからだ。

 剣はもとより、魔法の腕もそれほど高くないので戦いに参加させるのは不安しかない。

 だが、彼女の言う通り戦いをしているとなれば追手の目は欺きやすい。特に精霊達はアリアが自分から戦うなど考えていないからである。


「(許可だけしておいて、僕が先に倒してしまえばいいか。ジャネットさんやランキーさんもいるからアリアが手を出す前に終わらせられるだろうし)」


 フランツはそう結論付けてから頷くと、アリアへ言う。


「わかったよ。アリアがやりたいことなら手伝う。元々、色々とやりたいことを見つけるために旅立ったしね」

「フランツ……うん! それじゃ早速、畑へ行ってみましょう」

「わかった」


 アリアはドヤ顔で頷き、次は畑へ行くように頼み二人はこの場を後にした。


「村は初めて来たけど随分と貧しい感じがするわね」

「そういうことは村の人の前で言わないでくれよ? ふざけるなって絡まれるから」

「あ、うん」

「あ、冒険者さん」

「「……!?」」


 移動中、村の人に出会った。たった今、良くない話をしていたので二人は飛び上がって驚く。


「こ、こんにちは! いいお天気なので散歩をちょっと」

「ああ、そうですね。……それで、魔物は倒せそうですか? 畑を荒らされてしまうと、味をしめて何度もやってくるんです。ここの野菜が無くなれば次は別の畑が……」

「そっか、倒さないと何度でも来るのね」

「うん。だから冒険者は腕を上げてこういった依頼に対応できるようにするってわけだ」

「その通りです。頼りになるのはあなた方だけ……よろしくお願いいたします」

「はい!」


 アリアが元気よく返事をすると、村人は微笑んでからお辞儀をして立ち去った。

 気づけば荒らされている畑の前へとやってきていて、状況を見たアリアが困った顔で口を開く。


「うわ、穴だらけ……」

「こりゃ酷い……」


 どこもかしこも穴だらけで葉っぱ一枚残っていなかった。食いつくされかけた畑はまたすぐに利用するのは難しいほどだ。


「まだ残っているわね、お野菜」

「食いつくすと自分も困るから魔物も考えているんだよ」

「なるほどね」


 アリアはなんとも言えない表情で呟く。フランツは気になって彼女に尋ねる。


「どうしたの? なにか心配事?」

「んー、そういう訳じゃないんだけどね。ほら、私のところへ来ていた人達が居たじゃない?」

「うん」


 謁見のことだなとフランツが理解して頷く。アリアも小さく頷いてから小声で続ける。


「悩みとか、お土産を持くるみたいなのが多かったじゃない? なんであんなことするのかなーって思ってたんだけど……外の世界はみんな困っているんだなって」

「……」

「あの毎日は退屈で、聖女をありがたがって来る人達はなんなんだろうって感じていたわ。だけど――」


 そこでアリアはここに冒険者である自分達が来なければいつまで経っても解決しなかった。

 相談に来た人間もそういう切羽詰まった状況を話しに来ていたことをポツリと言う。


「もしかしたら、今みたいに私が助けることもできたのかなって思ったのよ」

「それは……あったかもしれないけど、あそこから出られるのは町に行く時だけだったから仕方ないよ」

「まあ、そうなんだけどね。聖域って本当に隔離された楽な場所だったなって思ったわ」

「戻ってみたいとか?」


 フランツはアリアの素直な感想を聞いて尋ねてみる。すると首を振ってから笑う。


「まさか! あそこに戻る選択肢はもう無いわね。お金を貯めて一緒に暮らすのよ!」

「それもそうか。今戻ってもいいことは無いだろうし、もっと厳重になるかもしれない。ひとまず過去のことは置いといて未来を考えようか」

「うん!」


 その後、アリアとフランツは村を適当に見回って小屋へと戻った。

ちなみに散歩をしている際、村の人からブルグラップを頼みますと本気でお願いされていた

 そして夜――


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