「この村は?」
「今回の依頼をしてきた村だ。見てくれ」
「うわ……」
村の入り口に近づいたところでアリアが村について疑問を投げかけた。ランキーがとある場所を指差しながら答えた。
そこは魔物に破られた外壁があり、簡易の板で応急処置をしていた。結構な被害なのでフランツがポツリと呻いていた。
「ギルドの依頼を見て来たんだけど、いいかい?」
「……! おお、来ていただけましたか! まずは村長に会ってもらえますか」
門の辺りで武装した男を見つけて声をかけると、そんな答えが返って来た。一同が頷くと開門してくれ、中へ入れてくれた。
「……村に入るんですね? そのまま倒しに行くと思ってました」
「この依頼は村からの依頼だからね。闇雲に探すより、待ち構えた方が楽ってこと」
「そういうことですか」
「アリアが興味を持つなんて珍しいね」
「今からお仕事をするわけだから、これくらいはね?」
フランツが尋ねるとアリアは微笑みながらそう返す。その表情を見て呆気にとられながら頭を掻く。
「村長、ギルドから人が来ましたよ!」
程なくして村長の家に到着すると、案内してくれた男がノックをする。
その間に馬車から降りたアリア達がその場で待っていると家から白髪に口ひげを生やした初老の男性が姿を現した。
「これはようこそおいでくださいました! ささ、ひとまず中へ――」
村長は家へ入るように促し、一行は中へ。案内してきた男は持ち場へと戻っていく。
適当に座るように促されて各々着席すると、受領された依頼票を見た村長が、深呼吸した後に口を開いた。
「改めまして村長のオルと申します。ブルグラップの退治をよく引き受けてくださった。報酬が少ないのに……」
「いえ、困っているなら助けになりますよ。それで、よく出現する時間帯などが分かれば教えていただけますか?」
「どこの畑が一番狙われているとかもね」
「おお、そうですな。基本的にヤツは夜に出現します。それも寝静まった時間ですね。賢いようで、破った柵の近くにある畑が狙われています。また、破壊した柵が脆いことを認識していますね」
「それだけでも結構いい情報だね。オッケー、まずは夜まで待つのが最善か」
ジャネットが頭を掻きながら夜まで長いなといった感じで肩を竦めると、オルは苦笑しながら話を続けた。
「罠も仕掛けているのですが、大きい個体なので。申し訳ありませんがよろしくお願いいたします。空いている家があるので、そちらをお使いください」
「それは助かります。ありがとうございます」
ランキーがお礼を言うと、オルが席を立って空き家へと案内してくれた。
馬を繋ぎ、家屋に入るとそれぞれ荷物を置いて周囲に人が居ないことを確認して会話を始める。
「まあこの辺ならリアを知っている人も居ないし大丈夫だろうけど念のため注意しておこうぜ」
「そうだねえ。ま、とりあえずゆっくり過ごさせてもらおうよ」
「はい。今のうちに武器のチェックをしておこうかな」
戦闘に慣れている三人はすぐに個別で荷物のチェックや武器の手入れに入っていた。
そこで慣れていないアリアが手を上げて言う。
「そういえばリ……知り合いの冒険者の依頼に一回だけ付き合ったことがあるのですけど、その時は森を徘徊して魔物を狩っていたわ。待ち伏せとかもあるのね」
「ん? まあ、そうだな。魔物の素材を集めるという依頼ならそうなる。今回は村の依頼だったから話を聞くのが手っ取り早いんだ」
「色々とあるんですね。ちなみにブルグラップとはどういう魔物なの?」
「えっと――」
段々と言葉遣いが普段の調子に戻っているなと思いつつ、フランツは魔物の特徴を話す。
イノシシに近い見た目をした姿で鋭い牙が二本あると言う。
野菜やキノコを好むため人間を襲うことは無いが、食事の邪魔をされると怒りだし、巨体を活かした体当たりをしてくると説明した。
「そういう感じなのね。大きいなら鈍そうですけど」
「それが魔物だけあって足が速いんだよ。だから食事中を狙うのが効果的だけど、一度失敗すると反撃が手痛かったりね」
「ふうん」
フランツの説明にアリアが納得する。そこで黙って話を聞いていたジャネットが口を開く。
「いいね、フランツは冒険者をやっていた感じがあるよ。というわけで、まあ突進は怖いけど、正面に立たなければ問題ないからそれだけ気を付けておいて。後はアタシとランキー、フランツでなんとかするから」
「今日は見学って感じだな」
「……わかりました」
ひとまずアリアは見ているだけでいいと言われ、少し間を置いて頷いた。そのまま借りたダガーを抜いて具合を確かる。
「大丈夫かい?」
「ええ、向こうでもそういう訓練は少しやってたし」
「ああ、彼か」
イフリーと剣術の訓練をしたことはあると暗に口にし、フランツが理解を示した。
「それじゃ夜まで自由行動だ。アリアは外に出なくていいからゆっくりしていてくれ」
「フランツと一緒ならいいかしら?」
「もちろんいいわよ。村でやることはあまりないと思うけどね」
ジャネットがウインクをしながらそう言うと、テーブルに道具を広げていた。
夜までに出来ることをやるつもりのようだ。
とりあえずダガーを眺めていたが、アリアはすぐに飽きて鞘に納める。
「フランツ、外に行ってみない?」
「ええ? あんまりおすすめはできないけど……」
「だって絶対夜までもたないって!」
「昼寝でもしとけばいいじゃないか」
「まだ朝なんですけど……」
くっくと笑いながら意地悪く朝から昼寝でもすればいいと言うランキーにアリアが呆れて返す。
「はは、朝から昼寝は言い過ぎですよ。なら少しだけ出ようか。現場も見ておきたいし」
「さすがフランツ! 話が分かるわね!」
フランツも苦笑しながらランキーに返してから剣を腰に下げて立ち上がった。
アリアも椅子から腰を上げると、歓喜の声を上げながらフランツについていく。
「村に入るときに見た外壁に行こう」
「なんかその近くの畑を荒らしているって言っていたし、そっちも見ておきたいわね」
二人はそんな話をしながら家屋を出る。残ったジャネットとランキーが見送った後、話を始めた。
「アリアって子はよく分からないな。お嬢様かと思えば意外と肝は座っている」
「そうさねえ。どこかから逃げて来たみたいだけど、どこのお嬢様かは知らないんだよね。ま、しばらくの辛抱だよ。魔物を見たらビビッてもうやらないとでも言ってくれれば助かるし」
「そうだな。さて、夜まで長いし昼まで道具の手入れをして昼過ぎに仮眠を取るか」
指示されてお守りをしているが、できればケガもさせたくないしで来て欲しくはないと考えるランキー。
それでもまずは目の前の依頼を片付けようと仕事モードに切り替えるのだった。