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第34話

「お待たせしました」

「お! 来たね……ってマジであんたリアじゃないんだよね?」

「ええ、もちろんですけど?」

「いやあ、これは分からないなあ」


 アリアがジャネット達のところへ戻ると、着替えと装備をした彼女を見てクランの二人が絶句していた。似ているとは言ったが、ここまでとは、と。


「これなら町の人間でも分からないんじゃないか……?」

「だね……ま、まあ、それの方がこっちも安心だ。フランツも似合うじゃないか」

「ありがとうございます」


 横にいたフランツも声をかけられてお礼を口にしていた。


「じゃあ行こうか。打ち合わせどおり、フランツは新人、リアは風邪で声が出ないということで頼むよ」

「はい!」

「ちょっとワクワクしてきました……ワクワクしてきたぜ♪」

「ふふ、いいね」


 リアの真似をするアリアに笑顔で答えるジャネット。彼女は指で示唆してギルドへ向かう。


「……今日はなんの依頼を?」

「行ってみないとなんともだけど、簡単な魔物討伐かな? ……っと、到着だ。後は現地で」


 ランキーがそう言ってギルドの扉を開けて中へ入る。アリアとフランツも顔を見て頷き、後に続く。


「はは、また怪我か? 引退間近だろそりゃ」

「うるせえ! お前もパライズウィーゼルに追いかけられて逃げてたろ!」

「すまねえ、こっちにエールを一つ!」


 中に入ると今から準備をして出かける冒険者や、休みなのか朝から酒を飲んでいる者などが居た。


「朝からお酒……」


 ポツリとアリアが呟くのを聞いて、ランキー、ジャネット、フランツは苦笑していた。

 そんな中、依頼が貼られている掲示板まで歩いて行きランキーが物色を始める。


「お、リアじゃん!」

「ん?」


 そこで背後から誰かに声をかけられた。一同が振り返ると、そこに日焼けした男が片手を上げて笑っていた。


「ああ、『イドム』かい。おはよう」

「おう!」

「……」

「おはようございます」


 ジャネットは褐色肌の男の名前をハッキリと口にする。アリアとフランツがきちんと認識できるように取り決めたことだ。

 アリアが頷き、フランツが挨拶をするとイドムが首を傾げて言う。


「ありゃ? どうしたんだ、リア? それにそっちの兄ちゃんは見たこと無いな」

「ああ、リアはちょっと風邪で声が出なくてさ。で、そっちの兄さんは臨時でウチに入った新人だ。

「風邪だって? それに臨時メンバー?」

打ち合わせどおりのセリフを二人が口にすると、イドムが首を傾げていた。そのまま間髪入れずにランキーが説明した。

「お試しってやつだ。ウチに合えば残るし、ダメならクランには入らないってな」

「仕事も随分と減ってるけど、増やして大丈夫なのか?」

「そこは親方が考えることさ」


 ランキーが肩を竦めて事情はギルフォードに聞いてくれと掲示板に目をやる。


「まあ、クランが潰れても俺には関係ないけど、リアには困るよな。ま、俺と付き合ったら色々と便利になるぜ?」

「……!」


 そこでイドムがアリアの肩に手を回してニヤニヤと笑う。その瞬間、アリアは彼の手の甲を抓った。


「いででで!? 声が出せないから暴言が飛んでこないと思ったら手が出るのかよ!」

「ふん」

「あんたもいい加減リアに言い寄るのはやめなって。この子、彼氏とかより仕事だからね」

「それなら俺が稼げば――」

「お金だけじゃないよ。リアは仕事が楽しいからやってんだ」

「ぐっ……」


 このイドムという男も含めて、ジャネットはギルドでリアに声をかけてきそうな者の説明をしていた。

 イドムはその中でもリアに好意を持っており、言い寄ってくるのだと聞いていた。

 いつもは機嫌を悪くして追い払うらしいが、今日はアリアなので手を出したというわけだ。


「よし、今日はこいつだ。フランツの実力を見るにはいいだろ」

「お願いします」

「ほら、アタシたちは依頼を受けるんだ。あんたもとっとと出かけなよ」

「チッ、またなリア」


 イドムは抓られた手をさすりながら舌打ちをしてこの場を去って行く。当のアリアはツーンとした顔のままそっぽを向いていた。

 そのままイドムを見送りランキーと共に受付へ移動する。


「はーい、おはようございます! あら、皆さんお揃いで……って新顔もいますね?」

「ああ。臨時メンバーだ。ブルグラップの依頼を受けるぜ」


 受付に居た女性が顔を見て気さくに声をかけてくる。ランキーは適当に返事をしながら依頼票をカウンターに置いた。


「ああ、お願いします。あまり報酬は良くないのですが、近くの村で農作物を荒らしに来るんですよ。柵も壊されるしで大変だそうです。他の魔物対策のためにも速やかに!」

「オッケー。こっちはアタシとランキー、それとリアが居るから大丈夫だよ。新人を鍛えるのにちょうどいい」

「ふふ、そうですね! ではよろしくお願いいたします!」


 受付嬢が受領のサインをすると、ランキーはカバンに受付票を入れると、三人に指で示唆してギルドを後にする。


「お、依頼か。気を付けてな」

「ああ」


 町の門番があくびをしながら馬車で移動するアリア達を見送ってくれた。その後、町から離れたところでジャネットが口を開く。


「……オッケー、もう喋っても大丈夫だと思う」

「ふう、黙っているのも大変ですね」

「本当だよ。危うく、僕も手を出しそうになったし」

「おっと、優しい顔してフランツは怖いね」

「はは、男なら好きな女に変な事されたらそうなるって。むしろ、その気概があるとは思ってなかったから驚いたよ」

「あ、あはは……」

「フランツはカッコイイですからね」


 いつもアリアの言うことを聞いているばかりで、気が弱いのかと思っていたが今の言葉でそうでもないとジャネットが褒めていた。


「……僕は彼女を守る必要があります。そのためにできることはなんでもやる心づもりでいます。もちろん、アリアの提案も無茶なものなら止めるつもりですし」

「フランツ……」

「ひゅう、これだけ言わせるとはあんた、逃がしちゃダメだよ」


 フランツの決意は固く、ジャネットは揶揄うわけでもなく真面目に返した。恐らく本当にアリアが無茶や我儘を言った場合、止めるか怒るかをするだろうと感じたからだ。


「そうですね」


 アリアは微笑みながら隣に座るフランツの手に、自分の手を重ねるのだった。

 そんな話をしていると、一行は依頼を出してきた村へと到着した


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