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第33話

――アリアとフランツがギルドで依頼をすると決めた翌日は打ち合わせのみで終わった。

ジャネットともう一人の同行者であるランキーという男と、立ち回りや依頼を受ける時、フランツが何者なのか? そういった話である。


「さて、今日はいよいよギルドで依頼ね」

「うわあ、リアそっくりだな……」

「ね……」


 アリアはリアが普段来ていた服に髪を後ろに束ねてポニーテールにしていた。たったそれだけのことですっかりリアに成り代わっていた。

 それを見たランキーとジャネットは目を丸くして驚いていた.


「そんなに似ているの? ……こんな感じでよろしいかしら?」

「ははは、もっと雑だよリアは! フランツ君もクランに合わせてくれたし、完全にウチのメンバーだな」


 こちらはこちらでリアがディーネに言われた時のように言葉遣いで指摘をされていた。

 アリアは丁寧すぎるからもっと雑でもいいとランキーが言い、そのままフランツへ話題が移った。


「服を変えるだけでも全然違いますね」

「髪型も変えて貰っているし、フランツ君とはすぐには分からないと思う。後は親方が装備を持ってくるはずだから、もうちょっと待ってくれ」

「ありがとうございます」

「変装、早くすれば良かったわね」

「ホントそうだね……」


 逃避行を続けて来た二人だが、町へ入った際に服を変えれば良かったと今更になって口にする。

 フランツは逃げることに必死だったが、アリアはそもそも発想が無かった。

 彼女は精霊たちとの勉強時間があるので決して頭が悪いわけではないが、ルーチンワークばかりだったので応用力が足りないのである。


「すまねえ、待たせたな」

「いえ、大丈夫です。無理を言っているのはこちらなので」

「アリア、しっかりしてきたね」

「そう? あまり変わらないと思うけど……」


 応用力が足りないとはいえ、聖殿に居る時よりは我儘が減ったとフランツは感心していた。


「(リアさんに会った後からこの調子だな。あの時言われたことが身になっているんだろうな)」


 リアと一緒に行動している際、お金の件でアリアが軽率な発言をしてリアが怒った。

 移動時はアリアのお金の管理をし、フランツが支払いをしていたため、なににいくら使っているかというのを把握していなかった。

 リアに怒られた後、町に行くと自分で色々と考えるようになった気がするとフランツは感じていた。

 このクランに来ようと言ったり、ギルフォードと交渉をした。さらにこういった追手の目を欺く提案をするなど、彼女に会った後の変化は目覚ましい。

 最初は少し不安もあったが、結果的に外の世界に出たのは良かったのだろうと思いながらギルフォードに声をかけた。


「これが装備ですか? かなり程度の良さそうな感じがしますが」

「お、流石だな。客人に変な装備をさせるわけにはいかないだろう? ガラド製のものを見繕っておいた」

「……!?」

「ガラド製?」


 ギルフォードの言葉にフランツが目を丸くして驚き、アリアは首を傾げていた。


「ガラドっていう特殊な製法で作られた頑丈な装備なんだ。値段も割とするんだよ」

「ほう、分かっているな。こいつは立て替えておいてやる。稼いだ金で買い取ってくれ」

「ええ? どうして私達が買わないといけないのかしら?」


 ギルフォードはくくっと笑いながら後で金を返せよという。当然、勝手に売りつけられた形になるため抗議の言葉を上げた。


「この先、逃避行するにもフランツだけが戦えるというのはきつくなる。それに仕事をするなら、ひとまず冒険者としてやっていくのはアリだと思うぜ?」

「ふむ」


 ギルフォードはギルフォードは続けて、そうなると装備一式が無いと戦いにすらならないから持っておいた方がいいと語った。

 嫌味とかではなく、リアにそっくりなアリアに怪我をされると寝覚めが悪いからとも言う。


「アリア、これは受け取ろう。最悪、宝石を売ってでも欲しいところだよ」

「フランツは鎧を持っているじゃない」

「ガラド製に比べたら少し落ちるんだ。強度、といようり重さかな? こっちの方が軽いから動きやすい」

「へえ、色々あるのね」


 フランツは装備の有用性を説くと、アリアは手を合わせて感心する。


「ま、そういうことだ。アリアもこの先、フランツの足手まといにならないよう装備くらいは整えておいた方がいい」

「お金は勿体ないけど……わかりました。依頼のお金と宝石で手を打ちましょう」

「オッケーだ。二人の装備を合わせて金貨十枚だ」

「高くありません?」

「いや、むしろ安いくらいだよ」


 不満を隠さずに言うアリアに、実際はもっと高いと耳打ちをする。フランツの言うことは聞くので小さく頷いて納得していた。


「実は追手よりも魔物の脅威が一番怖いと考えている。ここは好意に甘えておこう」

「ま、出ていく前にでも払ってくれや。じゃあジャネット、ランキー二人を頼む」

「あいよ親方」

「ま、今日は軽いやつで済ませておくよ。そんじゃ着替えてきてちょうだい」


 そう言われて二人は一旦部屋へ戻り装備を整えることにした。装備の入った箱を持って自室へ戻ると、服を脱ぎながらアリアが言う。


「ここまでする必要があるかしら?」

「さっきも言ったけど、今後は必要になる可能性が高いよ。僕だけで倒せない魔物が出た時、アリアだけでも逃げられるようにしておきたいね」

「……!」


 フランツがガントレットの具合を確かめながらそう口にする。するとアリアはハッとした顔で彼の方へ視線を移した。


「……そっか、私が足手まといになってしまうとフランツが死んだりするんだ……」


 フランツは強い。アリアはそれについて盲目的な信頼を寄せている。

 そのまま守ってもらえると思っていた彼女だが、自身が魔物に対抗できない場合、数で攻められた場合フランツはどうなるのか? その答えが頭に浮かんでいた。

 聖殿を出たのも、フランツと一緒になりたいというのも我儘から始めたもので、アリアはそれが我儘であることは十分承知していた。

 外に出るだけでは意味がない。フランツが居なければ。


「……よし」

「準備ができたのかい? 手伝うよ」


 アリアはとある決意をしてポツリと呟いたのを、フランツが『装備ができた』と思って声をかけた。


「ええ。大丈夫、いきましょう」


 アリアは真剣な顔でそう告げると、フランツがギクリとなった。

 いつもならすぐ頼ってくるのにと考えていたが、しっかり装備をつけていたからだ。


「よ、よし、行こうか」


 フランツが困惑しながらも、アリアの手を取ってジャネット達の下へ向かうのだった。


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