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第31話

「ふあ……今日のメニューはなんですの?」

「リア、おはようー。こういう時だけお嬢様なんだから。昨日は結構な魔力が減っていたけどどう?」


 依頼を受けた翌日、あたしは久しぶりの戦闘でぐっすり寝た。むしろ寝足りないくらいくらいだった。

 シルファーの言う通り、昨日は大きな魔法を使い、さらにゴブリン達を倒すのにずっと魔法を使っていたから魔力の消費が激しかった。

 ギルドまではなんとかなったけど、帰りの馬車では寝ていたりする。

 食事もかなり遅くに食べるくらい起きなかったんだよね。


「とりあえず少しだけ眠いけど昨日ほどじゃないね。朝ごはんを食べてから謁見の準備をしよう」

「うんー」


 あたしは起こしに来てくれたシルファーと食堂へ向かう。

 ……今後、魔法を使う時には魔力残量に気を付けないとまずいなと思う。シーフとして動いていた時は緊張しているから眠くなるなんてことは無かった。

 けど、依頼中に魔力消費で眠くなった時はなにも出来なくなるので、きちんと訓練を積んでおくべきだなと感じた。

 残量はどれくらいなのか? 今はどの程度の魔法をどれだけ放てるのか? この辺りを後で特訓してみようと思う。使えば魔力量は上がるらしいし。


「おはようございます、リア」

「おはようディーネ」


 食堂に到着すると食事当番のディーネがあたし達に気づき、挨拶を交わす。


「いいですねリアさん。振る舞いがそれらしくなってきました」

「ありがとう……って言いたいところだけど、あたしはその内出ていくんだからそこまで重要視することじゃなくね?」

「まあアリアが見つかれば、だけどねー」

「報告は?」


 シルファーがあたしの椅子を引きながらため息を吐く。それなりに時間が経ったけどどうなったのか尋ねてみた。


「今のところ情報は無し。上手く逃げ切られたのかもしれないねー」

「それは困るだろ!?」


 逃げ切られたならもうあたしの国に入っているということになる。

 そこでアリアが掴まってバレていたら色々とまずいとは周知のとおりだ。


「どうするんだよ……あたしも逃げる準備が必要かも……」

「まあまあ、そう言わないでよー。こっちも必死で探しているからさ」

「そうですね。ここは精霊や眷属に頼るしかありませんし、もう少し待ちましょう」


 いざとなれば……とディーネがなにかを口にしかけたが、その先は聞き取れなかった。

 なにか策があるのだろうか?

 ひとまず、あたしはバレないように立ち回るしかないようだ。


「魔法が使えるようになったのはありがたいですけれども、ずっとこのままというわけにはいきませんわ」

「ぐっ……正論をきちんとした言葉遣いで言われると胸が痛いですね。とりあえず今日も謁見はあります。朝食はすぐに済ませてしまいましょう」

「オッケーって、イフリーとノルム爺さんは?」

「今日は庭の掃除があるから先に食べて仕事をしていますよ」

「あー、そうだっけ。ならあたしも頑張りますわっと」

「リアさん!」


 不真面目な感じでそう言うと、ディーネが声を上げていた。あたしは舌を出して肩を竦めるとそのまま食事に入る。

 このまま謁見をして訓練をして、たまの買い物に出る。それだけのことを繰り返せばいい。

 でもやっぱりそうなるとアリアが出て行ったのは分かる気がするなあ。

 こんなところに押し込められて、子供が出来たらハイさよならは生きていて……いや、なんのために生きているか分からない。


「今はどこにいるのかねえ……」

 あたしは普段じゃ食べられないような柔らかいパンを口にしながらそう呟くのだった。


◆ ◇ ◆


「フランツ、皆さんは?」

「依頼に出ているよ。まだそれほど経っていないけど、本当にひと月もここに居るのかい?」


 アリアは部屋に戻って来たフランツに声をかけると、そんな答えが返って来た。

リアのクランに世話になると決め、客室でのんびり暮らしている二人。だがフランツは早めに出た方がいいのではと口にする。


「ええ! もちろん意味はあるわ。リアはこのシーフクランの娘である、というのは町の人間も含めて良く知っています。同じ顔をした私を『そうである』と言ってくれれば、追手に見つかっても誤魔化せるわよね」

「あー、そういうことか」

「さすがフランツ。分かったみたいね!」


 追手に見つかってもクランの誰かが『この娘はリアだ』と言えば、それは真実となる。

 そのため、むしろ見つかってもいいくらいの温度感で考えていたのだ。


「でも、身代わりにしてきたリアさんが話していたらどうするんだい?」

「大丈夫! 私が聖女だって話はしていないし、違うって分かったらディーネ達はすぐ解放するでしょ? だから、あくまでもここでの私は『リア』で通せばバレないわ」

「もし、リアさんが身代わりにされてたら……」

「あはは! そんな大それたことをするとは思えないけどね? というかもう神聖国は出たし、ゆっくり次にどこへ行くか地図でも見ながら考えましょ」


 楽観的なことを言うアリアに、難しい顔で顎に手を当てて考える。確かにここまでくれば追っても来ることができない。基本的にギルドに相談しにくい話だからだ。

 そして、すでに隣国に居る現状、アリアの言うことも分かると。


「……そうだね。一応、警戒はするけど、もしかしたら依頼を一緒に受けるのもアリかもしれない」

「え? 依頼を?」

「うん。気を悪くするかもしれないけど、アリアは箱入りだっただろう? だから常識に疎い。もし、リアさんを演じるのであればギルドなんかに出入りして知識を得た方がいいと思うんだ」

「あ、そういうことね」


 フランツが前置きをして自分の考えを述べると、アリアはポンと手を打ってからなるほどと納得する。

 魔法はそれほど上手くないが、本を読むくらいしかやることが無かったので、勉強はそれなりにできるアリア。


「確かにここまで一気に駆け抜けてきたし、外の世界を見て回る余裕はなかったもんね。それじゃ、ギルフォードさんが戻ってきたらお話をしましょうか」

「そうだね。僕も居るし、一緒に行こう。リアさんの服を借りたら分からないんじゃないか?」

「そうね。ふふ、その辺りも含めて交渉しましょう。シーフってどんなことをするのかしら? リアさんは盗賊じゃないって言っていたけど」

「基本的には罠を見破ったり、斥候をするとか補助的な行動が多いかな? 僕も冒険者じゃないからそこまで詳しくはないんだけど、ダンジョンの宝箱を開けたりする際の鍵開けとかシーフじゃないとできないって聞くよ」

「そうなのね。面白そう、教えてくれるかしら? もし捕まった時に自分で鍵を開けて逃げる、とか」

「はは、難しいって聞くからここを出るまでに覚えるのは無理だと思うよ」

「なによ、やらないと分からないじゃない!」


 流石にそれは無理だと笑うフランツに口を尖らせるアリア。

 それでも依頼は面白いかもという気持ちが高まり、早くギルフォードさんが帰ってこないか待ちわびるのだった。


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