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第30話

 さて、休みの日に依頼をしてからまた忙しい日が続いていた。謁見は慣れてきたし、ムーンシャインはまあまあ使えるようになった。

よく分からない話を聞くのも……まあ、うん、慣れたかな……変な奴が多い気もするけど精霊達がフォローしてくれるし。

 しかし、まだアリアの行方は分からないらしい。本気で探しているのは間違いないようだけど、やはり聖女だとバレるのが怖いので聞き込みが難しいとのこと。


「リアお疲れ様ー!」

「ふう……サンキュー、シルファー! 晩飯前に風呂に行くかあ」

「そうしよっか。ディーネはご飯担当じゃないし、呼んでみようー」


 本日の謁見が終わり、自室へ戻るため廊下に出る。そこでシルファーが追いかけて来て一緒にお風呂へ行くことにした。

 自室で着替えた後、ディーネを探しに出ると、イフリーと会った。


「あれ、イフリーどうしたんだ?」

「お、リアにシルファーか。今日もお疲れさん!」

「おつかれー。って、なんか渋い顔をしているけど、どしたの?」


 シルファーも気づいたようでそんな質問を投げかけていた。するとイフリーは肩を竦めて持っていた手紙をひらひらとさせた。


「この前のホブゴブリン討伐の結果が来たんだよ」

「お、報酬の話?」

 あたしは思わず笑みをこぼしてしまう。結構いいお金になったと思うんだよね。

「ま、ひとまずそれだな。だけど、ひとつ問題がある」

「なんだよ?」

「……王都のギルドへ来て欲しいと言って来ているらしいんだ」


 手紙によると報酬は依頼を受けた場所で受け取れるけど、聖女が依頼を受けたことについて話を聞きたいとのことだ。

 それを聞いてあたしは腕組みをして答える。


「別に聞く必要はないんじゃないか? ギルドより聖女の方がランクとして上だろ? もし話を聞きたいなら聖殿に来いって言えば良くないか?」

「おお、ハッキリ言っちゃうねー、さすがリア。でも、わたしもそう思うよー」


 シルファーも同じ意見のようで、パチパチと拍手をしながら頷いていた。

 イフリーはどう答えるのか? すると少し間を置いてから彼が話を続ける。


「ま、確かにそうなんだよな。依頼を受けたのはロルクアの町だから王都のギルドが口を出すことはねえんだよ。リアの案で返しておくぜ」

「エルゴさんに迷惑はかからないかな? そこが問題なければあたしはそれがいいと思う」


 町のギルドがそもそも寂れている原因でもあるので、協力したくないといえばそうだ。

 何の話があるか知らないけど、こっちは悪いことをしていないから呼び出しに応じる必要は無いと考えている。


「一つ気になるのがギュスター伯爵の名前も入っていることだ。あのタヌキ親父、前にもアリアにアプローチをかけてきたからな」

「そうなのか?」

「それは益々行けないねー。身内の誰かと合わせたいって感じがするもん」


 なるほど、この前会った時に塩対応だったのはそういう理由があったのか。シルファーもあまりいい顔をしていなかったから何かあるのかとは思ったけど。


「そんじゃ、ノルムとディーネにも話してから返答をしとくぜ。報酬は次の休みに俺が取りに行ってくる。悪いが今回の休みは聖殿で大人しくしててくれ」

「オッケー、面倒ごとはごめんだしな」


 この前、久しぶりに依頼を受けてスッキリしたし、欲しいものも今のところないから大丈夫だ。

 手紙を出すかどうかだけど、悶着がある今はやっぱり難しいと思い書き直すことにした。

 まだひと月も経っていないし、親父も心配しないだろう。

 あたし達は特に気にすることもなく、イフリーに任せることにした。


◆ ◇ ◆


「ふむ、話し合いは拒否してきたか、コイル」

「そうですな。エルゴの奴がこちらへ回答を送って来たのですが、依頼の結果が全てだと聖女様達が言っていた、と」


 聖殿へ送った手紙の回答をコイルと呼ばれた男がギュスターに報告していた。顎に手を当てて眉を顰めるが、ギュスターは特に機嫌が悪いということも無かった。


「どうされますか?」

「まあ、これは想定内だ。こちらから出向く口実は出来たからこれはこれでいい」

「謁見ですか?」


 コイルが尋ねると、ギュスターは頷いてから答える。


「謁見はそうなのだが、少し時間を取ってもらおうと考えていてな。今回の件を深く切り込んでおきたい」

「しかし、あくまでも冒険者登録をしているイフリーという精霊の男が依頼を受けた形です。しかもゴブリン討伐のみならず、ホブゴブリンをも倒しています」


 故に話を聞きたいと言ったところで落ち度がないため、この回答も問題がないとコイルは話す。しかし、ギュスターはフッと笑ってから煙草に火をつけた。


「なに、それ自体は正攻法で特に問題はないから良い。しかし、依頼を受けるということは王都のギルドでも受けてもらえる可能性がある」

「なるほど。それで接触する機会を増やすという思惑ですか」


 コイルが小さく頷きながら理解を示した。


「謁見があるから毎回は難しいだろうが、先日のように休みの日に依頼をするというのはどうだろうか?」

「私は構わないと思いますが、応じますかね?」

「他のギルドを助けて、王都のギルドは助けられないということは無いだろう? そこを押せばいい」


 ギュスターは紫煙を吐きながらそう語った。

 聖女がギルドを助けたという話はギュスターにとって渡りに船だった。外で活動することが殆どないため、顔を合わせるのは謁見かパーティのみである。

 そのため、外で活動するという実績を知ったのなら依頼という形で外に出てもらうということが可能になったと考えていた。


「(……さて、問題は精霊達か。聖女が居なければならない状況を考えねばならんな――)」


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