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第29話

「これでいいか。ホブゴブリンは首を持っていくとして、ゴブリン討伐の証である耳は……」

「二十枚だ。十体分だけどこれでいいかな?」

「ま、目的はゴブリンの討伐だし、俺達は金が必要って訳でもないしな。ホブゴブリンの首は間違いなく本物だからエルゴが上手いことやってくれんだろ」


 あたし達は形が残っているゴブリンの死体から耳を取って討伐の証を集めていく。


「うう……わたしはこういうの、ダメー……」


 シルファーやディーネは青い顔をして参加はしてくれなかった。まあ、最初はあたしもダメだったけど、慣れだな。

 倒すのは出来ても、まじまじと死体を見るのはダメなようである。


「では戻るとしよう。まだ食材を買えておらんからな」

「確かにな。よし、報告だ。ハリヤー、頼むぜ」


 一応、残りの死体は燃やして他の魔物が寄り付かないようにしてから立ち去る。

 そのままにしておくと色々な魔物が集まってきて収拾がつかなくなるからだ。

 ひとまず馬車に乗ってゴブリンの巣を後にし、同じ時間をかけてギルドへと戻ってきた。


「帰ったぜ、エルゴ」

「おお、戻ったかイフリー! ……って、随分と汚れているな!?」

「ま、成果はあったぞ。ほら」

「「「うおおお……!?」


 イフリーがホブゴブリンの頭二つと、ゴブリンの耳をカウンターに置くと、どよめきが起こった。

 何気に依頼を終えた冒険者も数人居て、エルゴさんと一緒になって驚いていた。

 ホブゴブリンなんてそうそうお目にかかれるものじゃないんだけど、その頭が二つあるからなあ。


「ゴ、ゴブリンはゴブリンだけどホブゴブリンも居たのか!?」

「ああ。危なかったぜ。だが、そこは聖女様。得意の魔法で一網打尽だ」

「おお……!」

「あ、あれが聖女様なのか……初めて見た……」

「おい、イフリー」


 ざわざわと喧騒が始まった中、エルゴが冷や汗を掻きながらイフリーに声をかけた。


「なんだ?」

「ホブゴブリンが居たってのか? 討ち漏らしは無いな?」

「ああ、問題ないぜ。きっちり全滅させてきた。なあ?」

「うんー! 結構大変だったけど、生きているのは居なかったねー。むぎゅ」


 そこでシルファーがぴょこんと飛び出し、追従した。『あの子、可愛いな』などと言われていたので、手元に引き寄せる。


「そうか……しかし、重大なことだぞ、これは。いや、もう終わったからそうでもないのか?」


 エルゴがぶつぶつと何かを呟く中、あたしはそろそろいいかと口を開いた。


「後の処理は任せる……お任せします。お買い物が終わっていないので報酬は後で構いません。次回、イフリーに渡してくれると助かります」

「お、おお……は、はい。後日報告は必ずします! ホブゴブリンが現れた上に、それを討伐したとなれば王都のギルドもこちらを無視できないでしょう。ありがとうございます!」

「そんじゃ、後は頼むぜ! 飯の材料買いに行くか」

「そうしましょう。では皆さま、ごきげんよう」

「聖殿をよろしくのう。ほっほっほ」


 あたし達は踵を返し、颯爽とギルドを後にした。いつもなら金勘定までするけど、ここは聖女としてカッコよく去ることにした。

 ……ホブゴブリン二体っていくらくらいになるんだろうな……?

 ま、まあ、今は不自由ない暮らしだし今度イフリーに聞いてみよう。そんな調子で買い物に戻るのだった。


◆ ◇ ◆


「戻ったぞ」

「おや、おじい様。外に出られていたのですか?」

「ウェンターか。うむ、聖女様が町に来ていたのでな」


 リア達が買い物を終えて聖殿へ帰ったころ、町で出会ったギュスター伯爵も自宅へ戻っていた。

 あの時、一行に見せていた笑顔とは裏腹に、憮然とした表情で孫のウェンターに対応をする。

 聖女と聞いて不敵な笑みを浮かべたウェンターがギュスターへ問う。


「どうですか? パーティに参加するなど言っておりましたか?」

「そういうのを聞くために屋敷へ招待したのだが断られてしまった。少しくらい付き合ってくれても良さそうなものだが……精霊達がガードしておるから難しいわい」

「なるほど……」


 ギュスターは玄関で帽子をかけながら鼻を鳴らす。良い人に見せかけているだけで、実際は聖女と自分の孫を結婚させて家柄を上げたいと考えているのだ。


「なにか口実、もしくは弱みでもあればいいのだが……」

「聖殿から出ることは殆どないですし、難しいのでは?」


 二人で廊下を進み、リビングへ入ってからソファに腰を下ろしてウェンターが尋ねる。

 同じくソファに腰を下ろしたギュスターは煙草に火をつけてからひと吸いしてからウェンターへ煙草を向けて口を開く。


「お前も聖殿に赴いて顔と名前を覚えてもらえ。私だけが奔走していても聖女様は手に入らない。好きになってもらうのはウェンターなのだぞ?」

「は、はい……」


 少し怒気を含んだ声色にウェンターが怯んだ。このままお小言になるかと思った瞬間、リビングに執事が入って来た。


「ギュスター様、お耳に入れたいことが……」

「なんだ?」


 執事がギュスターに近づき、耳打ちをする。それを聞いた途端、目を見開いた。


「聖女様が依頼を受けていただと……?」

「え?」


 ポツリと呟き、煙草を吸った後に片目を瞑って考える。


「(ふむ……依頼、か。あの町で受けたなら王都のギルドを使ってなにを受けたか調べさせるか。なにか弱みでも握れればいいのだが――)」


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