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第28話

「――で頼む」


 魔法の名前、イメージを教えて貰った。だけど、その内容に驚愕する。


「嘘だろ!? そんなの使えるかな……」

「いけるはずだ! ……多分」

「ちゃんと最後まで責任持てよ! まあ面白そうだからやってみるけど」

「流石、リアだぜ!」


 イフリーは指をパチンと鳴らして笑った。魔法を使うチャンスといえばそうなので折角だしやてみようと思う。


「大丈夫―? わたしのゲイルスラッシュかノルムのアースファングでもいけそうだけど」

「ま、見ときなって」

「こほん」

「み、見ていらしてくださいね」


 こんな時まで言葉遣いなんてどうでもいいと思うけど……そう考えながらあたしは木の後ろにサッと移動する。


「おお、身のこなしがいいねー」

「冒険者でシーフとなれば動けるだろうぜ。よし、頼む!」


 イフリーの合図に頷いたあたしは片手だけゴブリンの群れへ向けた。そして魔力を集中させてから魔法を放つ。


「〈エクスプロード〉!」

「ギェ――」


 瞬間、あたしの視界に入っていた景色が白い閃光に包まれた。次の瞬間、爆発が起こり周囲が吹き飛んでいく。

 ゴブリンが魔力に気付いたのかあたしへ視線を移した、しかし、なにかをする間もなく爆発に巻き込まれて消滅した。……うん、消滅したな……。


「なんてことに!?」

「うわあ、一掃とかそういうレベルじゃないよねー……」

「木々がバッキバキに折れておるわ」

「すげえなリア」

「こ、こんなにすごいなんて聞いてないわよ!」


 イフリーが遠く見る仕草をしながら口笛を吹いていたので、あたしは抗議しながら脛を蹴った。


「いてっ! いや、実際エクスプロードとはいえここまで広範囲じゃねえんだ。魔力が高いリアで、さらに制御が下手だからできた芸当だろうな」

「制御は確かにそうかもねー。にしてもやばいね。アリアと比べ物にならないくらいになってきたよ」


 シルファーがあたしの脇を抜けて更地になった場所へ歩いていく。あたしの魔力……一体どうなっているんだ?

 冒険者として色々なパーティに入ったことがあるけど、確かにここまでの魔法を撃てる人間は居なかった。


「後は洞穴を蹂躙して終わりじゃな。岩石などがある場所ならワシの出番じゃな。イフリー、行くぞ」

「ああ」

「あたしも――」

「もういいですよ。足にきているじゃないですか」

「あ、あれ」


 残ったゴブリン討伐にも参加しようと思っていたところ、足がもつれてディーネに支えられた。思ったよりエクスプロードで魔力を使ったらしい。


「リアは私が見ていますから、三人でお願いします」

「おう! サンキューなリア! 行ってくるぜ」

「頼んだよーディーネ」

「ふん、出てきおったか。〈ロックブレイク〉」

「ギィヤアア!?」


 外の騒ぎを聞きつけて慌てて出てこようとしたゴブリンがノルム爺さんのロッドから拳くらいの石が発射されて数体が絶命した。

 そのままイフリーが一気に洞穴へ踏み込んでいく。


「うおおおりゃぁあああ!」

「〈ウインドスクリーン〉どんどん突っ込んでいいよー」

「〈アースファング〉」


 二人が並んで通れるくらいの洞穴なのでイフリーを先頭にし、後ろからシルファーとノルム爺さんが魔法を使いながら奥へと入っていった。

 ゴブリンの悲鳴が段々遠くなっていく。


「ふう、加減は覚えないとダメだな」

「今は私達が居ますから、今のうちに覚えた方がいいでしょうね。冒険者に戻った時に調子に乗って使うと魔物の餌になりますよ」

「だなあ」

「とはいえ……エクスプロードは上級魔法なので、消耗が激しいんですよ。イフリーはどういうつもりか、分かっていて使わせたみたいなので彼が悪いです」

「上級!?」


 どうやらイフリーはあたしにとんでもない魔法を教えたみたいだ。よく知らないから言われたままやったけど、最初から広範囲魔法を使わせるつもりだったのだろう。

 作為的にエクスプロードを教えてくれたらしいや。


「まあ、あそこまでの威力だとは思っていなかったでしょうけど。……アリアと同じ聖女並みの能力かと考えていましたが、歴代の聖女を……いえ、これはあなたには関係ありませんね」

「なんだよ、最後まで言ってくれないと気持ち悪いだろ」

「言葉遣い」

「今はいいだろ?」

「……リアさん、あなたの能力は生まれつき高かったのでしょう。それが私達にあって開花した。そういうことです」

「その点は感謝しているよ。……いますわよ」


 あたしが笑いながらそう言うと、ディーネは呆れた顔でジト目をしてこっちを見た後、フッと微笑んでいた。


「追加レッスンです。ゴブリン討伐まで口にする言葉はエレガントにしてください。

「えー!?」

「上手くできたらデザートをつけてあげます」

「ちぇ、しょうがない……じゃなくて仕方ありませんわ」


 デザートがつくならそれくらいはやってみよう。あたしもかなりレッスンしたし、それくらいはできる。

 そう考えていると、ディーネが真顔になり、あたしの背後に手を翳す。


「〈アクアバレット〉!」

「おっと、外回りのゴブリンですわね! ご、ごきげんよう」

「ま、まあ、挨拶は基本ですね。偉いですよ」


 ディーネの魔法に貫かれて一体が地面に倒れた。なんとなく挨拶をしたあたしと、倒された仲間を見てゴブリン達は困惑した様子を見せた。

数は八体ってところか? 隠れている奴が居てもおかしくないから油断はできない。


「そのようですね。これくらいなら私一人で問題ありません。フフ、折角ですし、水属性の上級魔法を見せておきましょうか」


 ディーネがあたしの前に立って長い髪の毛を手でかき上げながらそんなことを言う。


「〈ハイドロストリーム〉!」

「おお……!」


 両手に魔力を込めた後、交差するように腕を振ると竜巻のような動きをする水が二つ出現した。


「行きなさい!」


 ディーネの言葉で水竜巻が高速で移動を始めた。木々をなぎ倒し、ゴブリン達を次々に倒していく。逃げても追ってくるし、こっちへ攻撃をする隙なんて無いまま、あっという間に全滅した。


「凶悪ですわ……」

「あなたに言われたくありませんよ!?」


 確かにエクスプロードもとんでもない魔法だったもんね。

 ひとまず警戒は解かずに洞穴の入り口付近の崖に背を預けて挟み撃ちを避ける。


「〈アクアバレット〉!」

「ギャ……!?」

「ごきげんよう、ゴブリンさん」

「やりますね、リアさん」


 それは魔法と言葉遣いのどちらに対してなのかしら? まあ、後でデザートが出たら性交ってことであたしは標的を見据える。


「次ですわ!」

「ガァァ!」

「わたくしに向かってくるとは甘いですわね」


 襲ってくるゴブリン達は正面からしか攻撃が出来ない。例え矢で攻撃して来たとしても、こっちには魔法がある。


「ふふ、これで終わりですわね」

そして程なくして外のゴブリン達を全滅させて様子を伺っていると、洞穴内が静かになったことに気づく。

「終わりましたかしら?」

「冷静ですね……」

「これでも冒険者ですもの。っと、戻って来ましたわ。三人ともよく無事で戻りましたね」


 三人が洞穴から出てきたので声をかけると、こちらに振り返って気づいてくれた。


「ただいまー……って、リアが壊れた!?」


 シルファーが笑顔のあたしを見て失礼なことを言う。彼女を掴まえて抱きしめながら尋ねる。


「どうだったのですか?」

「うへえ、中は酷かったよ……」

「ホブゴブリンが二体いたぜ。他にも雑魚ゴブリン、ゴブリンメイジなんかもいてよ」

「マジでございますか」

「それはおかしくないかのう……? それはともかく中は思ったより広くて数も多かった。少し駆逐が遅れていたら町が襲われるくらいの集団になっていたじゃろう」

「お、お疲れさんでしたわね……」

「やっぱりなんか変だよー、リア」


 ホブゴブリンはランクの高い冒険者が数人居てようやく倒せるほど強い。

 それ自体も脅威だけど、その凶悪な魔物が二体いたことに驚きを隠せない。

 さらに言うならそれをたった三人で全滅させたことも。

 うん、あんまり我儘は言えないな……アリアはよく我儘を通していたなとあたしは肩を竦めるのだった。


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